防御特化と氷。
サリーは壁や床に気をつけながら細い通路を進んでいき、やがてT字路にぶつかった。
サリーは壁に張り付き顔をほんの少しだけ出して左右の様子を伺う。
「っ!」
左側の通路の奥、空中にキラキラと光る何かを見つけたサリーは考えるよりも先に顔を引っ込めた。
直後、T字路を風が吹き抜ける。
突風と轟音が邪魔ではあったものの、キラキラと光る白っぽい球体が共に飛んでいたことをサリーは見逃さなかった。
「……雹?」
予想が当たっていてもいなくてもとりあえず固体であることに間違いはない。
弾丸のように飛んできているそれに当たれば、サリーの場合は即死だろう。
「おっけー、なら右からいこうか……」
サリーは少し考えると風の吹く方向に合わせて進むことにして通路へと飛び出した。
「【氷柱】」
氷の柱はそれほど高くない天井まで余裕をもって届き、通路の中心に障害物として立ち塞がった。
先程と同じように突風が吹き、柱の陰に隠れたサリーの真横を雹が通り過ぎていく。
「終わったかな」
静かになったところでサリーは柱から離れて通路を急いで進む。
第二波がくるかどうかが分からないため、背後の音に集中しつつ先を目指す。
「おっと、やっぱりハズレだったか」
真っ白で曲がり角があるかどうか遠目には分かりにくいために、念のためと近くまできて確認したサリーは呟いた。
ただ、同じような要領で逆側へと向かうだけでありたいした負担にはならない。
サリーはむしろ、逆側に何かあったかもしれないという考えを消せたと考えているくらいだった。
いつ風が吹くかと警戒しつつ歩くサリーだったがその心配は杞憂で終わった。
というのも風は通路に入ってくる時にのみ発動するトラップだったからだ。
そのまま逆側の突き当たりまで辿りついたサリーは、今度はそこから少し上り坂になって続いている道を進んでいく。
そうして上りきった先には広い部屋があり、特に変わったものは一つも置かれていなかった。
部屋からは新たに三つの通路が伸びていた。
「ここはスルーして……よし、右からいこうか」
サリーが部屋の中心あたりまで入ったところで、天井と床から青白い雲がポコポコと現れた。
合計十体の雲はそれぞれ白い霧のようなものを纏っている。
「【ファイアボール】!」
先程の雹のこともあって白い霧を氷系統、すなわち冷気だと考えたサリーは、素早く一体に火球を命中させた。
炎を浴びた一体の雲の上に表示されたHPバーが減少するもののまだ六割程度は残っている。
「魔法ももうきついか」
サリーは今となってはMPもたいして多くないプレイヤーなため、魔法主体で攻めることは難しい。
そうしているうちに背中側から風を感じたサリーはその場からさっと離れた。
「このモンスターも雹……」
通路でも受けた雹攻撃を細いビーム攻撃のようなものだと認識したサリーは、十体の雲との位置関係を意識しながら攻撃を始めた。
「【瞬影】」
サリーは一瞬の間攻撃対象から外れると、しまっていたダガーを抜きつつ火球で削った雲に急接近する。
「【ダブルスラッシュ】!」
【剣ノ舞】の効果もあって底上げされた攻撃力。
そこから繰り出される連撃は鮮やかに雲を葬り去り、雲は空中に溶けるように消えていった。
「うん、雲は余裕!」
サリーはまるで静かに舞っているように、あるいは決められた動きで踊っているかのように雲を始末していく。
限界まで無駄をなくし最短距離で雲のHPを奪い取る。
結局、雹を扱う雲もサリーを傷つけるには至らなかった。
「さて、予定通り右から……」
そうして探索を再開したサリーは数分後に理解した。
それはこの雲の中が複雑な蟻の巣のようになっているということである。
上下左右にいくつも分岐するルートの多くには、雹やつららを用いたトラップが仕掛けられており、サリーの進行を阻む。
広間には小さな雲だけでなく、氷の人形といった風なモンスターも現れた。
サリーは炎攻撃に長けていないうえ、氷で出来たモンスターは防御力も高く面倒な相手だったが、モンスター側がダメージを与えられないのなら結局のところジリジリと倒されるだけである。
有利は勝ちとは別物なのである。
そうして、また一つ雹の弾幕をやり過ごしたところでサリーは周りの安全を確認しその場に座り込んだ。
「おそらくもう結構上の方だと思うけど」
サリーは朧を撫でつつ通路の先を見つめる。
雲の中の敵はサリーからするとたいした強さではなかったが、構造とトラップの数々には疲れるものがあった。
「ゴールも近い?……いこう、朧」
サリーが歩く道は次第に狭くなり分岐もなくなっていく。
そして遂にサリーは真っ白な通路の先に白以外の色を見た。
突き当たりの壁には青色の魔法陣が描かれており、静かに光を放っている。
その先には何かがいる、もしくはあることは間違いなかった。
「うん、いこう」
サリーはその魔法陣に右手を伸ばす。
するとパチッと音がしてサリーの姿は消えていった。




