防御特化と焦り。
短めです。
クロムとカスミがギルドホームまで帰ってくるとそこにいたのはメイプルだけだった。
今のメイプルは探索に向かう気力がない状態なため、二人は誰かを連れて再度探索に向かうということが出来ないということになる。
「サリーはどこかでまだ探索してますけど」
「後の四人は今はいないか。分かった、ならまた次の機会だな」
クロムはメイプルに今回見つけたあれこれを詳しく伝えた。
「……また、見てみます」
口元に手を当てて何か考えているメイプルの頭の中は二人には読めない。
たいしたことではないのか、それとも予想だにしないことなのか。
クロムとカスミは色々な思いを飲み込んで、メイプルに手を振ってギルドホームの奥へと姿を消した。
「サリーはなにしてるかなあ」
椅子の背もたれに体重を預け、天井を見つめるメイプルにメッセージが届く。
メイプルがそれを読んでみると、二月から始まる次のイベントについての簡潔な紹介文が書かれていた。
「ジャングルを探索せよ、かあ。歩きやすいといいな」
メイプルはメッセージを閉じると椅子から立ち上がってギルドホームの自分の部屋へと向かった。
「じゃあイベントまではゆっくりしててもいいかもね」
そんなことを呟きながら。
メイプルは一度立ち止まって休むことにした。
入道雲を下ってからも探索を続けていたサリーは、クロムとカスミよりもさらに長くフィールドを走り回ったその後で道端の雲にもたれていた。
「入道雲多っ……」
探索していくうちにサリーは入口のある入道雲があちらこちらにあることに気づかされた。
何かあるかもしれないとそれらを攻略し続けた結果、サリーのインベントリには同じアイテムが合計八個収まった。
「当分シャボン玉には困らないなあ」
こちら側ははずれだったかもしれないと思ったサリーは、探索エリアを大幅に変えるために歩き出そうとして足を止めた。
「いや、今日は終わる?んー……」
入道雲の攻略はいわば山登りである。
一つ目のものとは違って他の入道雲は小さめだったが、それでも楽だとは言えない。
第四回イベントの時と比べればまだまだ余裕はあるものの、特別急ぐべきことがない現状ならば今日は切り上げてもいいかと思ったのだ。
「終わろうかな、ん?」
今にも帰ろうとしていたサリーの視線の先には堂々と浮かぶ本当の意味での入道雲があった。
それはゆっくりとサリーの頭上を通過していく。
「うわ……何これ」
凄いものを見たと目で雲を追いかけていったサリーは、キラキラと光る何かを遠くの空に見つけた。
「もしかして……なら、【超加速】!」
サリーは浮かぶ雲を追い抜いてぐんぐんと先へ進んでいく。
そうしてたどり着いた場所でサリーは自分の考えが正しかったと確信した。
キラキラと光る何かの真下までやってきたサリー。
そんなサリーを取り囲むようにキラキラと光るシャボン玉が空へと浮かんでいく。
「何か……何かあるはず」
サリーは一度探索した入道雲乱立エリアを走り回る。しかし、明確な変化はあれどどこかに通じているような何かは見つからない。
「おそらくあの雲が来たらタイムリミット!何か、何か!」
何も見つからないまま入道雲に追いつかれたサリーは今回は諦めなければならないことを悟った。
「仕方な…っうわあっ!」
ちょうど目を伏せたその時にサリーは足下から大きな流れに跳ね上げられた。
「お、おっ?え?」
ぐるんぐるんと体が回転し、ようやく止まった時にはサリーは今までで一番の想定外にゲーム内では珍しく落ち着きなく辺りを見渡した。
サリーは頬をパチンと叩くと深呼吸を一つして落ち着きを取り戻した。
「よし、まず何が見えたっけ……」
足下から吹き上がったものを思い出したサリーはそれがシャボン玉の塊だったことに気づいた。
その流れに巻き込まれて空まで飛んできたという訳である。
「集中……焦らず、ゆっくり……」
サリーはとりあえず見える道を歩き始めた。