防御特化と最強4。
遅れて申し訳ないです
「ははは……!やるなぁ、人間」
座り込んだまま鬼が笑う。
鬼は体についた土埃をぽんぽんと払うとゆっくりと立ち上がった。
「ついてこい」
そう言って歩き出した鬼の後ろをメイプルがついていく。
鬼が出現させた魔法陣に乗り、メイプルはもといた四層の一室へと戻ってきた。
「さて、人間。約束通り俺の後を継げ。そのつもりで来たんだろう?」
鬼の両手が輝き、朱に染められた盃が二つ出現した。
鬼はそのうち一つをメイプルに手渡すと、また新たに出現させた大きな瓢箪からメイプルと自分の盃に液体を注いでいく。
「まさか人間が継ぐとは思ってなくてな。妖の酒は人には飲めん。酒は無理だが……まあ、形だけはな」
「あ、はい!」
鬼とメイプルがそれを飲み干したその時、メイプルにスキル獲得の通知が届いた。
『スキル【百鬼夜行I】を取得しました』
それから少し鬼の話を聞き、相槌を打っていたメイプルだったが鬼が話を切り上げてまとめに入った。
「行かなければならない所がいくらでもあるんだろう?また来いよ、歓迎するぜ?俺が死ぬその時まで……いつだって戦ってやる」
「えっと、もう一度戦うのは嫌ですけど。はい、また来ます!」
メイプルは鬼へと手を振ってその部屋から出て襖を閉めるとぐっと伸びをした。
「ふぅ。いたた……もう、つかれたーっ!当分戦うのはいいや……」
今回の戦闘でかなりの回数ダメージを受けたメイプルは負けることはなかったものの疲弊していた。
メイプルは大変な戦闘はもちろんしばらくは楽な戦闘もできるだけ避けたいと思っていた。
「そうだ、スキルは確認しておかないと。えっと……」
【百鬼夜行I】
一分間赤鬼、青鬼を呼び出す。
鬼のステータスはスキルレベルに依存。
その間使用者が持つスキル全ては【封印】状態になる。装備のスキルは【封印】されない。
両方の鬼の今のステータスを確認したところでメイプルはあることに気づいた。
「え、あー1って付いてる、上げ方は……」
メイプルには上げ方に心当たりが一つあった。
鬼はメイプルに対して【死ぬ時までいつだって戦ってやる】とそう言ったのである。
ならばスキルレベルの上げ方は一つ。
もう一度、もう二度。何度も鬼を倒すこと以外にはありえない。
メイプルにはそう思えた。
「わー……そうだったら、もういいやぁ……」
ぼーっとしたまま思わず溢れたその言葉には鬼とはもう戦いたくないという気持ちが色濃く出ていた。
メイプルは建物から出て町へと出るともう一度伸びをした。
それによって思考がリフレッシュされたのかメイプルの頭の奥から一つ思い出されることがあった。
「……次の層に行けてないーっ!?」
メイプルの澄んだ高い叫び声が四層の町に響き渡った。
どうして五層へと行くことが出来なかったのかと不思議に思ったメイプルは四層に残っていたプレイヤーに話を聞いた。
「あぁー……勘違い……かんちがい」
メイプルは町の中に設置されたベンチに座り、背もたれにぐったりと体重を預けていた。
メイプルは気づかされた。
鬼は戦わなくてもよい相手だったことを。
「五層。どうしようかなあ」
もう今日は戦いたくないメイプルがそのまま座っていると町の中央部から見覚えのある人物を含めた六人組が歩いてきた。
「フレデリカ?」
「んん、メイプル?どうしたのー?」
定期的にサリーと戦い続けているフレデリカはその流れでメイプルとも話す機会が多かった。
そのため、メイプルの声に反応して立ち止まったのだ。
「いや、特になくて。あ、フレデリカだーって」
「そっか、私は今から六人で五層へ行くためにダンジョンに向かう所なんだー。だからーまた今度遊ぼうね」
「そっか……そうなの?なら」
メイプルはゆっくりと立ち上がって言葉を発する。
「私もついていっていいかな?皆のことは守るから、それしか出来ないけど……」
メイプルは多くのスキルが使えない状態だということを話した。
「んー?んー……いいよー。パーティーメンバーにも空きがあるし」
そもそも断る理由はフレデリカにはないのだ。
なにせボスを倒すために仲間に裏ボスを連れていくようなものなのだからである。
より安定して突破出来ることが確定するのは嬉しいことだ。
「じゃあ、お願いします!」
メイプルを連れてフレデリカ達は進む。
といってもメイプルの進行速度はまさに亀並み、いやそれ以下である。
「仕方ないから運ぶけどー」
フレデリカは自分にバフをかけて背中に白い翼の生えたメイプルを持ち上げて、さらに加速してダンジョンへと走っていく。
「うん、防御は任せて……防御しか出来ないけどね」
「十分だよー」
いるだけで絶対の守護領域が生まれるのがメイプルである。
それは道中の危険を完全に排除する。
当然、七人は一人も欠けることなくボス部屋へたどり着くことに成功した。
「固まって進んでー!」
ボス部屋に入った面々はメイプルの前に立って進んでいく。
メイプルの【身捧ぐ慈愛】は第四回イベントでの度重なる使用もありその能力を多くのプレイヤーが知っている。
散らずともおよそ全ての攻撃は無力化されるのだから真っ直ぐにボスへ向かえばいい。
そうしてHPを削り、削り、大狐を追い詰めていく。フレデリカ達もトップレベルなのだからメイプルの支援があればそうそう負けなどしない。
「速くなった!」
フレデリカの言うように狐の速度は急に速くなった。
捉えられなくなり、攻撃が空振りする。
狐のHPは残り2割ほどでほぼ残っていないが、攻撃がほとんど当たらない。
「サリーほどじゃないけどー……」
魔法を撃ち続けながらフレデリカが呟く。
少しは当たるが、なかなか時間がかかるだろうことが誰にでも分かった。
狐が飛び退き、フレデリカがため息をこぼす。
「面倒だなー、っ!?」
サリーと戦うことで身に付き始めたもの。
ドレッドが言っていた直感といったようなもの。
それがフレデリカに伝えたもの、それは背後からの嫌な予感。
フレデリカが振り返ると同時。
「【百鬼夜行】」
メイプルの煌めく金の髪は黒に戻りその翼は光となって消えた。
入れ替わりに溢れ出るのは炎。
メイプルを背後から照らしあげる紫炎。
その向こう側に溢れる大量の妖、メイプルの両側に立つ二人の大鬼。
メイプルを先頭として続く百鬼夜行、悪夢の列。
「行って」
金棒を持った二人の大鬼が飛び出る。
向かってくる狐には回避する場所がない。
その巨体、それを迎え撃つ鬼もまた巨体。
まだステータスの低い鬼達では狐を一撃で倒すことは叶わない。
それでも連打、連打。フロアが小さく見えるほどの巨体が三つ。
呆けるフレデリカ達の目の前で紅い花が咲く。
吹き出る血のように狐からダメージエフェクトが咲き乱れる。
回避能力が上がろうと、回避出来るスペースがなくては意味がない。
生き残る場所のないところで回避を試みることなどどこまでも無意味だった。
狐が倒れ伏していく姿をフレデリカ達が静かに見守る姿はどこか悟りを開いたかのようだった。




