防御特化と第五回イベント。
十二月の第一週、第五回イベントとしてフィールド探索型イベントが開催された。それにともなってフィールドは白い雪に覆われ空からは静かに雪が降り始めた。
「十二月の終わりまではこのままらしいよー」
第四層のギルドホーム、その窓から外を眺めるサリーがメイプルに言う。
「綺麗でいいよねー……歩きにくくなったりもしないし」
「だね。じゃあ私は適当にイベントモンスター倒してくるから」
「りょーかーい」
サリーは窓から顔を離すとギルドホームから出ていった。
サリーが出ていったところでメイプルも窓から離れる。
「今回のイベントは高ポイントのモンスターに出会えたら倒してみようかな」
今回のイベントでは討伐対象となるモンスターが四種類いる。
その四種類は出現確率と得られるポイントが違っており、最も出現しにくいモンスターは高いポイントの他にも、レアアイテムを低確率でドロップすると運営からお知らせが届いていた。
「出会えたらそれだけ倒そうかな、低ポイントモンスターは足が速くて追いかけるのが大変だったし……」
メイプルはぶつぶつと呟きつつ思考をまとめてギルドホームから出る。
あくまでも通行許可証のクエストを達成する過程で見つけたら倒すという程度にとどめておくことに決めていた。
メイプルは扉を開けて雪の降る町へと繰り出していく。
雪が降っているというだけで雰囲気がガラリと変わったように思えて歩くことも苦にならなかった。
メイプルは現在受けている【魂の残滓】の収集クエストを進めるために雪降るフィールドを真っ直ぐに西へと向かった。
「到着!」
廃屋が点在するエリアにやってきたメイプルは短刀を抜き、兵器を生やして歩き回る。
そうしていると青色の火の玉がふわりふわりと飛んでいる場面に遭遇することがあり、それがメイプルの目的としているアイテムをドロップするのである。
「もーらった!」
大した戦闘能力をもたない火の玉に無慈悲な銃撃が次々に直撃し、一瞬にして戦闘は終わった。
「ふぅ……良かった!今日は幸先いいね」
この火の玉は出現率が高いとは言えず、さらにユイとマイと一緒に戦ったモンスターのように少しすると姿を消してしまうのである。
メイプルはドロップしたアイテムを拾い上げると、運が良かったと頷きながら次の獲物を求めて狩りを再開した。
「ふふふ……調子いいぞー!」
三十分ほど火の玉を探していたメイプルは、後一つ【魂の残滓】を手に入れられればクエストクリアというところまで来ていた。
今までと比べて遥かに順調に火の玉が出現しているためメイプルはホクホクである。
「よーし!この調子で後一つ!」
そう意気込んだメイプルだったが、確率とは収束するものである。
その後一時間半、たったの一度もお目当の火の玉に遭遇することが出来なかったのだ。
上げて落とされる。
これには流石のメイプルも狩りを中断して気分をリセットしようという発想になったのである。
そこでメイプルは一旦モンスターのことは忘れて雪景色を堪能することにし、木の幹を背もたれにして地面に座り込む。
「はー……疲れた。むぅーん……最後の鳥居までは遠いなあ」
メイプルはカスミの速度が凄まじ過ぎることを改めて実感した。
「イベントのモンスターはいるんだけどなあ……」
メイプルは少し遠くに見える白い狼に右手を向け銃弾を次々に発射した。
「撃破っ!よーし……はぁ」
一匹倒したところでランキングに影響を与えることはない。
倒しても仕方ないものだった。
「よし、よしっ!ぱぱっと一体倒して今日は終わろうっと」
メイプルはばっと立ち上がると方針を決めて狩りを再開した。
目を細めて周りを注意深く確認しつつゆっくりと移動し、絶対に見逃さない姿勢である。
「いっ、た!」
メイプルは視界の端に火の玉がふわりと現れたのを捉えると、ガシャンと兵器を向けてどう見てもオーバーキルな量の銃弾をばら撒いた。
「ふぅ……やっと終わったよー」
メイプルはドロップアイテムを回収するとインベントリの中身を見て、きっちり必要なだけの【魂の残滓】が手に入っていることを確認した。
「よし!はあ……結局時間かかっちゃったなあ。今日は運がいいと思ったんだけどなあ……」
全体で見れば上手くいっていたのは最初だけだった。その後は普通よりもまださらに運が悪いくらいである。
メイプルはぐっと伸びをするとクエストの報告に向かうために廃屋エリアを抜けていこうとした。
だがしかし、やはり確率とは収束するものである。
「ん?」
メイプルは背後でズシンという音が聞こえたことで振り返った。
そこにいたのは四メートル超の雪だるまである。
石でできた口と目に、人参の鼻。
木の枝の腕には袋を持っており、頭には赤色の帽子が乗っていた。
「おおっ!?」
メイプルが遭遇したのは今回のイベントで討伐時に最もポイントを手に入れられるモンスターだった。