防御特化と繋がり。
運営がもう既に終わったと予想したのは正しかった。
四日目からゲーム内で戦闘は一切起こらずに平和に時間は過ぎていった。
そうしてランキングも特に変動することなく五日目を終えたメイプル達は通常フィールドへと転移した。
転移してから数秒後、各プレイヤーの目の前に青色のパネルが浮かび上がり今回の最終順位を表示する。
「今回も三位だ!」
「そう言えばメイプルは最初のイベントも三位だったね」
十位までならば報酬は変わらないためより上位を目指そうとはしていなかったが、大規模ギルドのオーブのポイントをまとめて手に入れることが出来たことが大きかったのだ。
そうしている内に最高ランクの報酬がパネルに表示される。
銀のメダルが五枚に木製の札が一枚。ギルドマスターであるメイプルには全ステータスを5%上昇させるギルド設置アイテムも贈られた。
メイプルはそれらを自分のインベントリにしまうと木製の札を改めて取り出して眺める。
「【通行許可証・伍】……ふむふむ」
そう書かれた文字の下には小さくメイプルの名前も入っていた。
貸し借りは出来ないようになっているのである。
「次階層で役立つらしいね。まあまだ少し先のことだけど」
サリーはメイプル同様に取り出していた札をしまった。
「何はともあれ……お疲れ様、メイプル」
「お疲れ様!サリー!」
互いに健闘を讃え合うと【楓の木】のメンバー全員でギルドに戻っていった。
メイプルの無事十位内に入ることが出来たことを祝ってパーティーでもしようという案に全員が賛成したため、数日後に【楓の木】で打ち上げを行うこととなった。
イズは【料理】スキルも最大まで上げてあるため料理も絶品である。
だが、全員が揃ってもメイプルだけがやってこない。
「私も何か買ってくるって飛び出したっきり……私も付いていった方が良かったか……」
「そうね……一人にするとフラフラとどこかへ行くもの」
サリーが会話を止めてメイプルを探しにいこうとしたその時ギルドの扉が開いてメイプルが帰ってきた。
いつものように予想外を引き連れて。
「ただいまー!」
「うん、おかえりメイプル。で、後ろの皆は?」
サリーの目線の先には【集う聖剣】の四人と【炎帝ノ国】の四人。
何故いるのかとメイプルに問うと明るい調子でメイプルは答えた。
「外で出会って話してたら流れでフレンドして貰えたから招待したから?あれだって、えっと、強い人同士の繋がりを持つみたいな?私も強い人になってきたんだよ!」
「ああ、うん……」
メイプルが見せてくるフレンド欄には【楓の木】と【集う聖剣】と【炎帝ノ国】のプレイヤーの名前がずらっと並んでいる。
メイプルの一般的な扱いを知っているサリーはそれをフレンドとはまた違うもののように眺めていた。
魔王でも真っ青になって逃げ出すだろう。
突然のゲストに対応してイズは料理を次々に作る。
【楓の木】は八人しかいないため追加で誰か来ようとも余裕を持って席に着くことが出来る。
それぞれに料理を楽しみ時間を過ごしていると運営からの通知が届く。
そこには一つの動画があった。
「ギルドのモニターで映してみようか。皆同じ動画みたいだし」
メイプルが立ち上がってギルドに備え付けられたモニターをいじり動画を再生する。
映し出されたのは今回のイベントのハイライト。
ただ、ほとんどはここにいる者達の行動である。
ペインが移ったと思えばミィが、切り替わったと思えばサリーが映る。
「あー……これあの夜の……私の失態がー!」
フレデリカが叫ぶ。
「もうちょっと元気だったらフレデリカもいけてたんだけどなぁ」
サリーがそう言うとフレデリカはむっとした顔で返す。
「そんな簡単にはいかないけどねー」
「じゃあ後で一回どう?」
「いいよー!?今度は当てる!絶対当てる!」
そんな話をしている内にメイプルが映る。
「まだ人型なんだな」
「七匹になるんだろ、知ってるぜ」
ドレッドとドラグが虚ろな目で呟く。
「思い出すだけでつらい」
男性陣がモニターを眺める。クロム以外は全員が一度やられているため良い思い出はないだろう。カナデは違和感なく女性陣に混じってそこからモニターを見ていた。
マルクスが克服するには特に時間がかかりそうだ。
最後の方でクロムがユイとマイとイズとカナデの四人を【カバームーブ】での変則移動と常軌を逸した回復力で守りきる映像が流れた時には、比較的普通だと思っていたのにというような視線が向けられていた。
「俺もメイプルに追いつかないとな。負けたままでいるのは嫌いなんだ」
「ほんの少し目を離しただけで毛玉になったり化物になったりするメイプルに追いつくのは……ああ」
クロムが意気込むペインに返す。
メイプルは実力差以上に遥か遠い位置にいる。
追いつけるかどうかは分からない。
一月半ほどすれば新たに階層が追加される。
となればそこでの動きが決め手となるだろうことは明白だった。