防御特化と布陣変更。
二日目も日が落ちた頃、【楓の木】のメンバーは全員が拠点にいた。
「【炎帝ノ国】はメイプルが罠の殆どを踏み壊したし立て直すのには少しは時間がかかると思うけど……やっぱりオーブを持って逃げられたのは痛いね」
「ごめんねサリー。結構探したんだけど見つからなくて」
「【炎帝ノ国】が周りを襲ってくれてるなら大丈夫なんだけど……どうだろう」
今回メイプルが【炎帝ノ国】を襲った理由は【楓の木】より上位に入るギルドを【炎帝ノ国】に減らしてもらうことであった。
【楓の木】が上位に食い込むためには大型ギルドに暴れてもらう必要が出始めていたのだ。
というのも、小規模ギルドは予想よりも早くその多くが駆逐されてしまい、中規模ギルドと大規模ギルドの戦闘が多くなってきており、中規模ギルドを利用してのフィールド荒らしの効果が薄くなってきているからであった。
【楓の木】の目標は十位以内に入ることである。
十位以内ならば報酬は一位でも十位でも変わらないため現在はこれを目標としている。
そして【楓の木】は現在六位である。
他は全て大規模ギルドで埋まっているため一位よりも遥かに目立っていた。
「やっぱりあれだね。人数差があるから……」
「予想より高い順位だけどね。正直ここまでやれるとは思わなかった」
ただ、サリーが復帰したとしても現状一位まで駆け上がるのは難しいだろうことは明白である。
「まだ二日目だから追いつけるチャンスがない訳じゃない。けど……これ以上離されたくはないかな」
【楓の木】内で話し合った結果、イズとカナデを残して全員で夜の戦場へと出て行くことに決まった。
チームはサリー、ユイ、マイの三人。
もう片方がメイプル、カスミ、クロムである。
「じゃあ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい。私とカナデはここで待っているわ」
サリーのマップは全員に写されているのでそれを見てそれぞれギルドを襲って帰ってくる予定である。
サリー達は茂みに隠れてギルドを襲うチャンスを狙っていた。
サリーはメイプル達が【炎帝ノ国】を襲って帰ってくるまでの間にカスミに斬りかかって貰って回避能力がどこまで落ちているかを試していた。
結果、そろそろ復帰出来ると感じたため攻撃に参加することにしたのだ。
「ふぅ……よし!」
サリーは隠れていた茂みから飛び出すとオーブへ向かって走り出す。
「侵入者だ、やれ!」
「よし……!見える!」
サリーは迫り来る攻撃を避けながらプレイヤーを斬りつけてオーブを狙う。
「囲め!逃げ道をなくせ!」
素早い連携によりサリーを囲もうとプレイヤー達が動く。
「私に気を取られてるともっと怖いことが……」
サリーがそう言うと同時、サリーを注視していたプレイヤーが衝撃波により一撃で木っ端微塵になった。
何事かとその方向を向いてしまったプレイヤー達はサリーによって斬りつけられてしまい、無理やりに注意先を限定させられる。
多くのプレイヤーは茂みに気を取られつつサリーの方を向いた。
ただ、そんなことをしていては茂みから出てきたユイとマイへの対処が遅れるというものだ。
ユイとマイが投げた鉄球がサリーの方を向いていたプレイヤーの背中に当たり、訳の分からぬままにその命を散らしていく。
これを見たプレイヤーは激しく動揺してしまう。
メイプルにもある得体の知れない攻撃能力は思考を止めるのに非常に効果的だった。
「朧、【影分身】!」
そんな中で再び目を引く出来事が起こればもう思考は正常ではいられない。
分身したサリーをどうにかしようとしたところで遂にユイとマイの大槌がプレイヤーを捉えることとなった。
大槌は鈍い音を立てて数人のプレイヤーをまとめて宙に弾き上げるとキラキラと輝く光に変えた。
「あ、ありえねぇ……」
「「【ダブルスタンプ】!」」
ユイとマイが次々と敵を潰していく。
当然、ユイとマイを攻撃出来ればそれで終わりなのだが、呆然としているものはそんなことは出来ず、そうでないものはすなわちサリーに背を向けてユイとマイを襲っている訳で、サリーが黙っているはずがなく背後から手痛い攻撃を受けて倒されてしまう。
ユイとマイを倒そうとしているプレイヤーの見極めはサリーにとって容易いことだった。
サリーはメイプルとは全く違う方法によってユイとマイを守りきった。
たった一回攻撃を当てるだけで体力が初期値の三人は倒れてしまう。
ただ、今回はそれが可能になるような状況を生み出させないように戦闘がコントロールされた。
「オーブは貰うとして……次はもうちょっと鉄球でいってみよう」
「「はい!!」」
三人は次の目的地に向かって歩き始めた。
カナデとイズはギルドで二人暇を持て余していた。
「この辺りのギルドはもう諦めて近づいてこないし……暇ね」
「僕達のことを知らないギルドが遠出してくるかもしれない……おっと」
噂をすればなんとやら、入り口からぞろぞろとプレイヤーが入ってくる。
プレイヤー達は遠目で二人の装備を見て生産職と後衛であることを把握した。
「いけるぞ!前衛無しだ!」
剣と盾を構えたプレイヤー達が前線を上げ始める。
「さて、やりましょうか」
「そうだね」
イズは両手に爆弾をカナデは浮かぶ本棚をそれぞれ出した。
【楓の木】が二人だけに防衛を任せることにしたのは攻撃に重点を置くため仕方なくという訳ではない。
防衛はカナデとイズとで十分過ぎるほどだからである。