防御特化と侵攻。
少し修正。
真っ直ぐに歩いてくるメイプルはマルクスの設置してあった罠を次々と踏み抜いていく。
ただ、それらは何の効力も発揮しなかった。
発動はしているが、全ては圧倒的な防御力により無効化される。
「やっぱり……効かないのかぁ……」
何十人分の罠を無駄にさせられたかはマルクスにももう分からなかった。
しかしマルクスはメイプルが来た時の為の罠もきっちり用意してあった。
「かかった……!」
メイプルがその罠を踏むと次々に植物が伸び始めた。
それはメイプルの腕や足を拘束してその歩みを止めさせる。
こういった進行を妨げるための罠は機動力が低いメイプルによく効くのだ。
破壊するにはそれ相応のダメージを与える必要があるが、マルクスは自分の持つスキルからメイプルのスキルに何らかの制限があると予想していた。
そうそうポンポンと大規模なスキルは使えないだろうと考え、もし使ってきたならばミィが戦いやすくなると考えた。
マルクスはここで一度死んでもそれはそれで仕方ないと思っているため、メイプルがスキルを使ってきたとしても構わなかったのだ。
「へっ……?」
ただ、かなり頑丈なはずの植物を一撃で粉砕するユイとマイのことは予想していなかった。
「えぇ……?本気?」
次々に罠は発動するものの、ダメージはメイプルが、拘束はユイとマイがそれぞれ受け持って無傷のまま少しずつ進んでくる。
「ミザリー!」
「はい!」
ミザリーの指揮の下、貫通能力を持った魔法が動きの鈍いメイプル達に撃ち込まれる。
遠距離からの魔法攻撃ではそう簡単に致命傷を与えることは出来ない。
それでも、回避行動を取らせることは出来る。そしてそれは時間を稼ぐことに繋がっていく。
メイプル達は思うように進めずにいた。
避けた先にはまた違った罠があり、特にメイプルが拘束された際に貫通攻撃が重なった場合のロスは結構大きかった。
メイプルが自分で拘束を突破することが出来れば侵略は簡単になる。
「サリーのアドバイス……うん」
メイプルはすぅっと息を吸い込むとマルクス達に聞こえるようにスキル名を叫んだ。そして、その後に聞こえないように小さく言葉を続けた。
「【武器成長】!………」
短刀を持っていた方のメイプルの腕が金属に覆われていき、メイプルの身長程もある剣の形になった。
サリーのアドバイス。
それはもしどうしてもという時があれば【機械神】をそれっぽく偽装して、メインの銃撃の正体を隠して使うといいというものだった。
剣となった片手をスキルの補佐によって振り回して拘束する植物を切り刻む。
どんな対策をも乗り越えてくるのだから厄介極まりないことだろう。
「行くよ!」
「「はい!」」
一歩踏み出す毎に次々と罠が発動し、壁がせり上がり地面が陥没し空から魔法が降り注ぐ。
それでも三人の歩みは止められない。
ユイとマイのパワーが障害物を一撃で木っ端微塵にすることで、マルクスがメイプルに最も効くと思っていた種類の罠は悉く不発に終わってしまったのだ。
「仕方ないかぁ……皆、戻ってて」
マルクスはミザリーを残して全てのプレイヤーを拠点に帰した。
「死亡覚悟で、ですね」
「うん……」
罠を突破されてもまだ最大の防衛戦力が残っている。
それは二人自身。
今の状況に臨機応変に対応することが出来る最後の砦である。
マルクスとミザリーは両方とも魔法による攻撃が主体である。
そして、メイプルの天使の羽の防御フィールドに気づいているためその範囲に入らないようにして貫通攻撃を仕掛けることが出来た。
メイプルのスキルで薄く光る地面がそのままユイとマイの行動範囲となるため、その範囲に入るのは危険極まりない。
ユイとマイにしても罠が溢れる場所でメイプルの能力の及ばない場所には出ることが出来ない。
メイプルはダメージを回復する為に攻撃を二人に任せて【瞑想】を始めた。
「「【飛撃】!」」
ユイとマイには遠距離攻撃がある。
それも必殺の威力を持ったものだ。
ただ、これも距離が開いているため当たらない。
このままでは互いに有効打がないまま遠距離攻撃を打ち合うことになる。
ただ、この硬直状態はメイプルの思案が終わるまでのものだ。
そしてそれは今終わった。
「【毒竜】!」
唐突に撃ち出された毒竜は一瞬にしてマルクスの逃げ場を奪い去った。
たった一撃で全てを奪い去る力。
メイプルとマルクス、自分の強みを発揮出来たのはメイプルだった。
罠が本領のマルクスが罠を突破されてしまっている以上、メイプルが勝つことは当然とも言えた。
「っ!【リザレクト】!」
ミザリーから放たれた白い光が散りゆくマルクスを包んでいく。
それはミザリーが【聖女】たる所以。
スキルがきちんと発動する為には死亡直後に合わせなければならないが、完全な後出しが可能な蘇生のスキルである。
「【遠隔設置・岩壁】!【遠隔設置・風刃】!」
生き返ったマルクスは素早く罠をばら撒いてメイプル達の動きを阻害する。
しかし、今度はミザリーが標的となっており追撃を仕掛けてくると読んでの罠の設置は裏目に出た。
「くっ……!」
【リザレクト】は自分には使えない。
ミザリーが生き残るためには消費するものが大き過ぎる。
それならば、死んだ方がマシなくらいだった。
回復魔法は、ユイとマイの全て一撃死という特異性には相性が悪い。
一応使った魔法の壁を破壊して飛んでくる衝撃波にミザリーは目を伏せる。
「先に死に戻りますか……」
そうして諦めたミザリーの元へユイとマイが迫る。
より近づいて確実に攻撃を当てるために。
「何を諦めている?」
だが、それを遮る者がいた。
爆炎を散らし炎を纏うのはそう、ミィだった。




