防御特化と出撃準備。
二日目のイベントも昼を過ぎた頃。
【楓の木】の奥でサリーがゆっくりと起き上がる。
「……メイプルは上手くやってるかな」
サリーがマップを開いてメイプルの位置を確認すると、メイプルはちょうど【楓の木】に向かって戻ってくる動きを見せていた。
「そろそろ、いこう」
まだ本調子ではないものの、ずっと寝ているわけにもいかない。
サリーは立ち上がるとオーブのある部屋へと向かった。
サリーが防衛に戻ってくるとそこには変わらず自軍のオーブがあった。
サリーはホッとした様子で伸びをしつつギルドメンバーの元に近づく。
「おっ、起きたか。どうする?また外に出て行くか?」
クロムの問いにサリーはそのつもりはないと答える。
本調子ではないため、全ての攻撃を回避出来るかどうか不安だったのだ。
また、二日目になったことでギルドによっては奇襲への対応が上達しているだろうという予想もあった。
奇襲に失敗すればやられてしまうだけとなるため、サリーは外出するとしても夜にしようと決めていた。
そしてここでサリーは気になっていたことについて触れる。
「カスミは……」
「ああ……新しい刀が出来てからあんな感じだ」
そうして二人でカスミの方を見る。
表情はかつてない程緩んでおり、鞘を眺めて刃を眺めてを繰り返している。
「はぁああ……いい……」
カスミはしばらくはこちらの世界には戻ってこないだろう。
「カスミは【崩剣】を倒したらしいしな……後半に向けてどれくらいトップクラスが死ぬか……」
「最終日は荒れそうですね……恐らく生き残っているでしょうし」
ドレッドもシンも強者とぶつかり合ってやられた訳だ。
強者と強者が出会わなければ彼らは順当に生き残るだろう。
そんなことを話しているとメイプルが戻ってきた。
「ただいまー!オーブ九個手に入れてきたよ!」
「うわぁ……相変わらず本当デタラメだなぁ……」
サリーは自分の持ち帰ったオーブとほぼ同じ量のオーブを持って帰ってきてもピンピンしているメイプルに対して改めてそう思った。
「サリーのマップのお陰だけどね。あれがないとどうしてもギルドがすぐ見つからないから……」
「そっか、役に立ってよかった」
メイプルはオーブをセットすると取りあえずその場に残ることにした。
スキルの使用可能回数が減ってきたのもあったが、確率は低いとはいえ全てのギルドがオーブを取り返しにきたとしたら危険なためでもあった。
流石に自ら死地に赴くようなプレイヤーはいなかったが、警戒しておいて損はなかった。
「あとは……空から見た感じだと、結構いろいろなところで戦いが起こってるかなぁ。何回もやられた人もいそうな感じだった」
「結構荒れてるのか。まあ、大規模ギルドにオーブを奪われて取り返すのを諦めたんだろう、それで他を襲う」
「クロムさんと同じ意見かな。いい感じに数が減ってきてるかも」
サリーのように一日目に暴れたプレイヤー達によって作られた激戦の流れはまだ途切れていない。
むしろ強まったとさえ言える。
「防衛はユイとマイが強いしな、この地形がかなり味方してくれている」
現在、ユイとマイは鉄球でキャッチボールをしている。
二人だけはどうやっても外に出て活躍出来ないタイプのプレイヤーなので、常に防衛に回っていた訳だがそれだと今の状況では暇なのだった。
「今回の防衛が終わったら……ユイとマイにも活躍してもらいたいな」
「ん?だが、サリー。二人はもう活躍してるぞ?」
「ああ、えっと。外で、です」
だがそれでは機動力が、そうクロムが言うよりも早くサリーがメイプルに話しかける。
「メイプル、もう一回攻撃はキツイよね?」
サリーが聞いているのはスキルの消費が厳しいかどうかだ。
少し前まで眠っていたのにも関わらず、メイプルの現状を何となく把握出来ているのはそれが分かるくらいに長い間一緒にいたからだった。
「んー……そうだね……あ、そっか!」
「うん、二人を連れていけばメイプルの負担は減る……防衛に人数を割く必要がなくなってきている感じもするし」
それにメイプルならば高速で戻ってくることも可能だ。
メイプルは防衛の要であり、攻撃の要だった。
「じゃあ取りあえず守り切って、二人を連れてもう一回だね」
「体力的には?大丈夫?長時間の行動は……ね」
自分が動けなくなったために、サリーはその辺りは無理をして欲しくないと思ったのだ。
「第二回イベントで鍛えられたからね!あとうさぎとか、瞑想とか!それに私は歩かないし」
サリーのように走って移動する意味がないため、ゆったりと空中を進むメイプルは疲労が溜まりにくいのだ。
「じゃあ、お願い」
「うん!」
三時間後、メイプルは最強の矛を二つ携えて再び戦場へと舞い戻る。
メイプルの弱点はユイとマイによってカバーされ、ユイとマイの弱点はメイプルによってカバーされる。
歪な能力値の三人は、集まればそうあることが自然であるかのように完璧に噛み合って、より凶悪になるのだった。




