防御特化とフルメンバー。
おお。100話目ですね。
サリーは心に決めた通りに【楓の木】へと帰ってきた。
「ただいまー」
サリーが戻ってきた時はちょうどユイとマイが鉄球を拾っているところだった。
メイプルも手伝おうとしていたものの全く戦力にならないことを思い出して諦めた。
カスミでやっと持ち上げられるかどうかといったくらいの重さなのだから、メイプルに持ち上げられるはずがない。
「あっ!おかえりサリー!」
「オーブがはい、四つ!」
「「「おおー!!」」」
極振り組三人から歓声が上がる。
これを守りきればポイントがまた一気に加速する。
三人の歓声が聞こえたのか、奥からクロムとカナデが出てくる。
それに少し遅れて再度偵察に向かっていたカスミとイズが帰ってきた。
奪ったオーブは計八個。
その内三個は防衛に成功し既に元の位置に戻っている。
最初にサリー、カスミ、クロムの三人で手に入れたオーブとサリーの奇策で中規模ギルドから奪った二個のオーブである。
カスミとイズが持ち帰ったオーブとサリーの持ち帰ったオーブ。
計五つを防衛する必要があるため、気の抜けない状況に変わりはない。
ただ、守るのはゲーム内最強の盾だ。
破れるプレイヤーがいたとして片手の指で足りるだろう。
「あっ、そうだ!私はオーブだけ盗んできたようなものだから多分その内奪い返しにくるよ。小規模ばかりだけど」
「本当、何回聞いても信じがたいことをしてるよね……」
カナデが呟く。
「おっと、噂をすればってやつだ」
クロムが武器を引き抜き、入口を見据える。そこから次々と突入してきているプレイヤーは明らかに小規模ギルド一つの人数ではなかった。
小規模ギルドが劣勢の中、即席の同盟が出来たのである。
ギリギリまで裏切るメリットが存在しないこの状況だからこそ、オーブを奪えるかどうかというところまでは互いに利用し合うのである。
飛び込んできた者達の目に映ったのは六個のオーブ。
そして八人だけのプレイヤー。
即席の連合軍で連携はそこまで取れていないものの総勢五十名のプレイヤーがいる。圧倒的物量差。
また、宝の山を目の前にして士気も高まる。冷静に敵を倒した後に味方だった者達を倒すことを考える者も出始める。
ああ、彼らの何と幸運なことか。
たった八人を倒せばオーブ六個の総取りすらあり得るのだ。
このようなチャンスは二度と訪れないかもしれない。
全員が雄叫びを上げて突撃する。
魔法が飛び交い、土埃が舞う。
目を血走らせて駆ける彼らと対照的に八人はのんびりと構えた。
「八人で戦うのって初めてだっけ?」
「八人全員が戦闘に関わるのは初めてかな?イズさんとか」
「メイプル、いつもの頼む」
クロムがそう言うだけで全員がああアレのことかと理解する。
そもそもこのイベントでのメイプルの役割が今の所一つだけだ。
「りょうかーい!【身捧ぐ慈愛】!」
「はい、【ヒール】」
減ったメイプルのHPはカナデが即座に回復させる。隙はない。
メイプルの前進に合わせて七人が歩を進める。
正面衝突した両軍が斬り合う。
ユイとマイがあちこちからくる攻撃を次々と受けてしまうが、二人が倒れることはない。
「「【ダブルスタンプ】!」」
轟音と共に弾け飛ぶプレイヤーを見て、二人から離れたプレイヤーに襲いかかるのは鉈と刀だ。
「おらぁっ!」
「ふっ!」
二人の攻撃を耐え、躱してオーブを先に狙おうとする者達は利口だった。
輝く地面の範囲から逃れ、オーブへと向かう者達に降り注いだのは爆弾の雨。
「あら、悪い子ね?オーブだけ狙うだなんて」
イズもメイプルがそばにいれば最早戦闘員と変わらない。
十分過ぎる程に脅威となる。
それを無理やり潜り抜けた者はめでたくカナデの図書館にご招待だ。
「【パラライズレーザー】」
カナデが放った低威力、高確率麻痺のレーザーが空間を水平に薙ぐ。
追加効果が強力なために、届く範囲が狭いことを除けば文句なしだ。
ただ、カナデが倒さなくとも後始末をしてくれるプレイヤーがいる。
「ぐっ…がっ!」
「く、くそっ!」
レーザーを受けたプレイヤーが呻きながら逃げようとするものの、動きは緩慢だ。
「はーいさよなら」
彼らからオーブを奪った張本人。
サリーによって、カナデが動きを止めたプレイヤーはギルドに送還されていく。
こうしている間にも前衛の攻撃により倒れる者が次々に出る。
気づけば同盟軍は崩壊、心の折れた者から順に敗走に入っていた。
ただ、そんな中で一矢報いようとする者も確かにいた。
「【跳躍】!」
クロムとカスミの間をすり抜けて飛び込んだプレイヤーはもう生き残る気などさらさらなかった。
そして天使の羽を持ち、前線を支えたプレイヤーに一撃加えてやろうと剣を振るった。
「【ディフェンスブレイク】!」
「【ピアースガード】」
剣と言葉を叩きつけるようにして振るった渾身の一撃はあまりにも無慈悲な宣言にその効力を失い弾かれた。
迫り来る二つの大槌の気配を背中に感じつつ、最期にそのプレイヤーが見たのはフードを目深に被っていてはっきり見えていなかったプレイヤーの顔だった。
「メイプルかよ……ミスったな」
彼は諦めと共に小さく呟き、大槌にその身を打ち据えられた。
残っていたプレイヤー達は全て、オーブに触れることは出来なかった。
完全敗北と言える。
ああ、しかし彼らの何と幸運なことか。
彼らは史上初めて八人での戦闘を目撃し、体験したのだ。
きっとイベントが終わった時には自慢気に語ることだろう。
ゲーム内で最も恐ろしいパーティーとの戦闘を体験したのだと。
そうしている内に空は次第に闇に包まれていき、遂に夜襲と暗殺の蔓延る初めての夜が訪れた。




