防御特化と炎帝。
【炎帝】の名を持つ女性。
ミィは集団の先頭に立って、剣を構える敵へと近づいていく。
「どけ。そうすれば死なずに済むぞ」
ピリピリとした空気が張り詰める中、ミィの透き通った声が響く。
ただ、それはオーブを守る者達にとっては受け入れられる提案ではない。
「かかれっ!」
前衛がミィに向かって走り出す。
ミィの武器は杖。
服装は赤いマントが印象的ではあるが、後衛故の防御の低さがある。
「【炎帝】」
静かに呟かれたその言葉に応じてミィの周りから直径一メートルの炎球が二つ現れる。
両手の動きに連動して動く炎球はその威力によって敵をねじ伏せる。
ミィが先頭の理由はそれが最も攻撃力を発揮出来るからである。
文字通り超火力で敵を焼き尽くすのだ。
「愚か。実に愚かだ」
余裕を持って敵を滅ぼすその姿にはカリスマ性が見て取れた。
「【噴火】」
地面が爆発し、火柱が噴き上がる。
炎を自在に操るミィはその性質上派手な一撃が多い。
それはミィの力を印象付け、敵の萎縮を促進する。
「【爆炎】」
さらに、攻撃を乗り越えて近づいてきた者には低ダメージ高ノックバックの爆風が襲いかかる。
圧倒的な力の差がそこにあった。
ただし、燃費は非常に悪い。
派手な魔法は消費も大きいのが当然だ。
そのため後ろの二十人はインベントリに詰め込めるだけのMPポーションを詰め込んだ、いわば補給部隊である。
「ハッ……この程度か。終わりだ」
最後の一人を焼き尽くしたところで炎球も消えた。
「MPポーションです」
「ああ」
ミィはMPポーションを受け取るとMPを回復させてふぅと一息ついた。
「オーブを回収しておけ」
「はい」
ミィはすっと目を閉じ達成感に浸る。
ただ、それが致命的なミスだった。
「ぐあああっっ!?」
ミィが何事かと目を開けた時には既にオーブを回収していたプレイヤーが光となって消えており、ローブを着たプレイヤーがそのオーブを奪い取って走り出すところだった。
「っ!……奴は強い。私には……分かる。オーブを持って先に戻れ、全滅もあり得るぞ!」
カリスマ性を発揮しての号令はギルドメンバー達に響いたようで、彼らは既に手に入れていたオーブを持って帰っていき、ミィはローブの人物を追った。
「【フレアアクセル】!」
ミィは爆炎を上げながらローブの人物を追いかけていたものの、しばらく進んだところで完全にその姿を見失ってしまった。
というのもローブの人物、すなわちサリーが曲がり角で【瞬影】を使ったためである。
ミィが追跡対象が急に消えてしまって周りを確認する内にその場を離れたのだ。
そんなことは知らないミィはひたすらに周りを探し続けた後にぺたんとその場に座り込んでしまった。
「ああ……失敗したぁ……皆ごめんなさいぃ……」
そこにいたのは先程までのミィとは全く違う雰囲気のミィだった。
カリスマ性は何処へやら、弱々しい姿で自分のミスを反省する姿があるのみである。
「キャラなんて作らなければよかった……」
そう、先程までのミィはキャラを演じているだけだったのだ。
強力なスキルを手に入れてあれよあれよと言ううちに注目されるようになってしまい、素の状態を見せるのが恥ずかしくなってキャラを演じてしまったことをミィは今でも後悔している。
ミィが感じていた達成感とはつまり、今回も誰にも素の自分のことがバレなかったことへの達成感である。
「ううっ……最悪だー……くそぉ、何処かのギルド一つ潰して帰ろうかな」
ほとんど八つ当たりである。
ただ、これを実行出来るだけの力がミィにはある。
そしてサリーを探し回っている時に見つけた中規模ギルドがお手頃な人数だということも知っている。
「一つは持ち帰らないとなぁ……本当あのローブの人、次会ったら絶対焼く」
こうして爆炎とともに中規模ギルドに突っ込んでいったミィは地面から火柱、空中から炎球、おまけにマルクスから貰った【特製痺れ罠】も一つ使ってたった一人で中規模ギルドを潰した。
これが出来るのはミィが火力面に優れているためであり、向き不向きがあるため第一回イベントの十位以内のプレイヤーなら全員出来るという訳ではない。
安定して出来るのはミィの他にはペインとメイプルくらいだろう。
ミィはオーブをしまうと爆炎と共に【炎帝ノ国】へと帰っていった。
「おかえり、ミィ」
オーブの周りをふらふらと歩いていたマルクスがミィが帰ってきたことに反応する。
オーブを取り返しに向かっていたことを先に戻ったプレイヤーから聞いているようで、それについて触れてきた。
「新たにオーブを一つ奪った。奪われたオーブは取り返せなかった。悪いな」
一人でギルド一つを潰したという事実はギルドメンバーが何度聞いても凄まじいことのようで、どよめきが起こる。
「またしばらくすれば出る。準備しておけ」
「「「はい!!」」」
元気のいいその返事に本当は行きたくないと内心思うミィだった。
サリーは今度こそ【楓の木】に帰ることにした。
持っているオーブを奪われれば一気にそのギルドの得点を上げてしまうため、流石に危険だと判断したのだ。
「最後の一つはラッキーだったね」
ちょうどミィが目を離してくれたお陰で油断を突くことが出来たのだ。
「一日目の間に動けるだけ動いておかないと……」
メイプルと共に勝つために、サリーは限界まで活動するつもりだった。
一人一人に個性を。
一日目の内に注目すべきキャラは全員出します。




