~プロローグ~
世界の名はオール。竜王歴71年。
この世界は様々な世界を元に生まれた。
長く続いた戦争を終わらせた者達が、竜の血を引く魔王の子孫だった。そこから平穏な時代を竜王歴と名付けられた。
岩山の上にそそり立つ魔王城では、静かな時が流れている。
寝室では年老いた人族の老女が、最後の時を迎えようと寝そべっている。傍らでは、紅い髪の魔神が日記を読んでいた。
最後の一行を読み終えると、紅い髪の魔神は日記を閉じた。
老女は、か細い声で日記の感想を告げた。
「その後の事が…ありませんね」
紅い髪の魔神は否定した。
「お前との楽しかった思い出だけで十分だ」
「いろんな事があって…貴方は…傷着いています。しかし…子孫達は、許してあげて…ください」
「許すもなにも怨んでいない。亜人として生まれたことに反抗するのも、仕方ない」
老女は皺のある細い手で、紅い髪の魔神の頬に触れた。
「貴方は会った時から…変わりませんね」
「魔族だからな、中々老けない」
外見ではなく中身の事を言ったつもりだったが、老女にはもう否定する体力が残されていなかった。最後に彼の名を呼んだ。
「さよならカルロス」
「アリーナ、お前と会えてよかった」
老女は静かに目を閉じた。やがて心臓が動かなくなって、冷たくなっていく体。
紅い髪の魔神は振り返った。
寝室の隅で見守っていた人物に話しかけた。先ほどの台詞をもう一度言った。
「楽しかった思い出だけで十分だ」
「生き返らせなくて、いいんだね?」
「ああ。だが、お前のやることには興味がある」
紅い髪の魔神は手を差し伸べた。
「俺はお前の仲間になろう。メビウス」
開け放たれた窓から風が吹く。風が日記のページを捲る。