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理系男子と恋の魔法絵本  作者: 夢☆来渡
君のために戦士になる
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 僕は騎竜の背中から森林を見下ろしつつ、方向を確かめるとブルースの手綱を軽く引いた。茶色い牛革で出来た長いベルトはブルースの首筋の根元寄りに金具で固定されており、軽く引くことにより騎竜との合図が始まり、スピードをやや緩めた状態で意思疎通を図る。馬のようにハミやくつわなんて言う物を用いる必要がないのは騎竜の知能が高い事に他ならない。僕の言葉を理解してくれているのだから『話せば解る』というわけだ。話したい事があるとき、何か用事があるとき、命令をするとき、人とヒトがコミュニケーションをとることと同じように、それは成される。その合図のための手綱だ。

 僕は一つの方向を指し示す。ブルースは僕の意を汲んで大きく空に弧を描いて旋回すると、この世界に一つしかない湖を背中に、頭部を山に向かってその進路を変えた。森林を滑るように羽ばたいては駆け抜け、青きドラゴンは山肌をなぞる。そしていつぞやに僕と美夜が歩いて辿り着いた山道を捜す。あの山道はお城と街を結ぶ街道に繋がっていたから、方向から逆算して、湖とお城の見えた位置を加味すると……


 あった!あの山小屋だ!


 僕はブルースに指示して森の中の小さな山小屋の前に降り立った。そう、この本の世界に来てから最初に二人で辿り着いた山小屋だ。トンネル工事なのか鉱山発掘なのかは分からないが、何かしらの山を掘る目的の拠点として建てられたと思われる。

 木造ではめ込みのソーダガラスの窓。穴掘りの道具が散乱して、最初に来た時と何ら変わらない様子だ。

 ただ一つ、人影がある事を除いて。

 山小屋の中から話し声が聞こえる。男の声だ。

「まいったなぁ、おい」

「ああ、誰か何とかしてくれんかなぁ」

 男の声は二つ。

 どうもやる気の感じられない口調は内容から来るものなのか、それとも決められたセリフを繰り返す内に棒読みのようにひたすらやる気が失せていったのか……それは……まぁ、この際は置いといて、どうやら何かに困った風な会話を繰り返している。

「いやぁ、まいった、ああ、まいった」

「本当だ、ああ、どうしたものか」

 小屋に近付くにつれて大きくなってくる話し声。これ、わざと外に聞こえるように喋っているとして、いったい何時間繰り返すつもりなんだろうか?誰が何のためにと考えてみるとそれは途方もなく浮かばれない苦労を含んだセリフの繰り返しなのか?さすがにちょっとだけ、自分ならやだなぁ、と意味もなく同情したくなる。

 僕は小屋のドアを叩いて中に声をかける。

「すいませーん」

 少しの間を置いて開かれる木の扉。

 軋む木の音と共に大きく僕を迎えるのはやたらとヒゲもじゃな男だ。頭から生えたタワシみたいな髪と、アゴに蓄えられたヒゲがどちらも黒々していて境界線もなくもみあげから繋がっている。

 顔の中央よりに小さくまとまった眼と鼻が寄り添い、不思議な生物を発見でもしたかのように僕を見下ろす。中年で体格も良く、丸太のように太い両腕。なかなか素晴らしい鍛えられた肉体が、まるでプロレスラーの風体を用して僕の目の前で腰に手を当てて見せた。

「おや、どこから来た?こんな山の中で珍しいお客さんだな」

 少し黄ばんだ歯をチラ見させて僕に問いかける。以前に来た時は誰も居なかったから無断で入ったうえにロウソクやら発破やら勝手に持ち出した事は、今は触れないでおこう。とりあえずはそんな事は聞かれていないしな!

「こんにちは、僕はマコトと言います」

 そう告げると目の前の男は目を丸くしてほうほうと何度か頷いた後に、僕を小屋の中へと促した。

「これはまたようこそ、ウワサに名高いあのマコト様でしたか」

 僕を中へと入れて、男は大きく声を投げる。

「おい!あのウワサのアクマコト様がお見えになったぞ!」

 それを投げかけられた相手は部屋の中で木のテーブルの前、椅子に腰掛けてしきりに手を動かしている。こちらも同じようなガッシリとした体格で、タワシ頭とヒゲもじゃな男。まるで兄弟かしらと思わせるのは顔つきや目の位置からの印象だが、こっちのが少しシワが多い?そんな気がする。

「こんにちは。これはこれはようこそ、マコト様。どういった事でまたこんな山の中まで」

 いや、こっちが聞きたいんだけど。

 さっきのアクマコト発言もさらりと聞こえてるし、何よりもこの山小屋であなた方は何故に棒読み台詞を繰り返していたのか。

「……何かお困りのようで?」

 僕は見事な質問返しをしてみた。

 イロイロと含めて男達からの説明台詞を先に引き出すために敢えての促しの一手だ。

 すると男達は二人で口を揃えて話し出すではないか。


『オレたちはここらに住む穴掘り兄弟さ。実は最近この上の洞窟に大きなドラゴンが住み着いて困っているのさ。このままじゃあ仕事になりゃしねぇ。ああ、困ったなぁ、ああ、困ったなぁ』


 ……

 ……

 ……棒読みハモるってスゲェな。


 思わず引きつる僕。

「へぇ、この上に洞窟が……」

『ああ、困ったなぁ』

「……それはどんなドラゴンなんで……」

『ああ、困ったなぁ』

「……あの、聞いてます?」

『ああ、困ったなぁ』


 ……

 ……

 ……まさか、



「ドラゴンでかいですか?」

『ああ、困ったなぁ』

「いつ頃から住み着いたの?」

『ああ、困ったなぁ』


 ……

 ……

 ……これマジで変なフラグ踏んだぞ!!


 ちょっと待てよ。え?ここで?

 うわぁ、マジかぁ……固定セリフから進展しないとかアリかよ。勘弁してくれよ。忙しいのに。


「穴掘り兄弟って?」

『ああ、困ったなぁ』


 指差してみる。

「あなたがお兄さん?」

『ああ、困ったなぁ』


 コクコク。


 っておい、うなずきはするのかよ。

 セリフ同じだけども。

 笑わすな。


「じゃあこっちのドアの人が弟さん?」

『ああ、困ったなぁ』


 コクコク。


 やめろ、このシステム。


「普通に会話したいんですけど?」

『ああ、困ったなぁ』


 と、言いながら二人は首を横にフリフリ。


 どうやらダメらしい。

 コレは……どうしたらいいんだ?

 まともな会話をしたいだけなんだがな。アレかな、困っているのを聞きました。それから僕が何かしらアクションを起こしてあげないと進展しないのかもな。


「もしかして僕のセリフ待ちですか?」

『ああ、困ったなぁ』


 二人ともコクコク頷きまくる。



 ……めんどくせぇ。



 って事は今の聞いて、請け負うかどうかだろう?そりゃあ、お困りですかって聞いたのは僕なんだけどさ。この場合、請け負うしかない展開だよな。一応は僕の役は英雄なんだから、無視して帰ったとしても、またここに来たら同じセリフを繰り返すのが目に見えている。それを通り越して、もはやアワレ。


 ……

 ……

 ……よし、



「じゃあ、また来ます」


 僕は帰るアクションを起こした。


『あああ!!?こっ困ったなぁぁ!?』


 二人の声が焦っている。


 どうやら本当に困るらし……



 ……知るか。



 ギィ、……バタム。



『ああああ!』



 扉の向こうで何かが悲しみを帯びたようだ。

 だが気にしない!

 可愛い美少女ならばともかく、むさ苦しい男二人なんざ相手に出来るか!!

 それに僕にとって用があるのは小屋の中ではなくてむしろ外なのだ。そう、外の倉庫だ。

 僕は小屋を後にして裏手に回る。すると見えるのは鎖によって封印された頑丈な鍵付きの倉庫だ。開ける事を拒絶する秘密の倉庫は、以前訪れた時からその中身を僕に知られている事を覚えているのか?

 あの頃の僕と、今の僕とでは明確に違う所がある。

 僕は腰に携えた豪奢な剣をざんばらりんと引き抜いた。

 そう、僕には武器がある。

 しかもこの世界において最強の剣だ。


 頭上に振り上げた剣を大きく振り下ろし、倉庫の錠前に叩きつける。


 キン!


 と、小さく金属のカチ合う音が聞こえると、錠前がパラリと二つに割れて、僕の目の前で地面に落ちた。

 ヤバいくらいに斬れるな、この剣。鎖どころか錠前ごと真っ二つですよ。

 予想外の出来に少し顔がほころんで興奮しながらも、キレすぎる恐ろしさにちょっと内心引いてしまう僕。

 元の世界なら確実に銃刀法違反だとか考えてしまうと、このまま持ち帰ることは断念せざるを得まい。倉庫の扉を開けながら一人で納得する。観音開きで僕を迎えてくれたのはドクロマークの樽と、木箱。小脇に抱えられる木箱を手にすると、意外と重さを感じる。

 蓋をパカリ。

 おや、増えている。

 紙に巻かれたロウソクもどき、いやさ発破と呼ばれるダイナマイト君たちが、僕が持ち出した時よりも倍以上の量になって返ってきたわけだ。

 あ、そうか。小屋のあの二人、穴掘り兄弟がこれを作ってたのか。そりゃあ穴掘りに使うためには作るよなぁ。

 でも最近はドラゴンが住み着いたとも言った。それじゃあ仕事にならない。発破は使われない。作り置きはしておくけども、減らないから増えるだけだな。

 よし、僕が使ってあげよう。

 滋養と強壮、ぢゃなくて需要と供給か。やっぱり使わないともったいないからな!

 じゃあ、ありがたくもらって行こう。

 木箱を片手に立ち上がって振り返ると、僕の視線の先に先程見たおっさん二人が立っていた。

 ポカンと口を開けて、僕の方を見ている。

 しばし、見つめ合う。

 ……

 ……何だろう?どうも現状が呑み込めていない様子で、僕の後ろと、木箱、僕の顔を順不同で見ては、口をパクパクさせている。

 ああ、そうか、錠前を壊してしまったからな。謝っておこうか。

「あ、すいません。ぶった切ってしまいました」

 僕の発言に眉根を寄せる二人。

「え?どうやって?」

 と、弟。

「どうして?」

 と、兄。

 二つの質問に同時に答えるのはなかなか難しいな。

 えーと、

「この剣でズバッとやったらポロリと切れまして、箱だけ欲しかったんでもらって行きます」

 僕が答えると、二人はまた言葉をシンクロさせた。

『そうですか』

 納得していただいたようなので、僕はサッサと歩いて二人の脇を通り過ぎ、待たせている騎竜のブルースの所へ向かう。

「あの、ちょっと」

 兄が僕を振り返らずに呼び止めた。

 僕は振り返ると怒られそうなので足を止める事なくブルースに飛び乗りながら応えた。

「はい、何でしょう?」

 騎竜がフワリと羽ばたき、僕は木箱と共に宙に舞う。

「その木箱を持って、どうするおつもりで?」

 兄が僕とブルースを見上げながら振り向く。弟は壊れた錠前を見つめたままだ。

 僕は距離が離れ出した兄の質問に、ちゃんと聞こえるように大きな声で答えた。

「僕の恋人を連れ去ったバカでかいドラゴンをぶっ倒します」

 僕の声に、穴掘り兄弟は何故か目を輝かせて空を見上げる。

 旋回するブルースと僕を見上げるその瞳は、すぐに森の木々に遮ぎられて、緑の海に紛れていった。


 しかしながら、火種が無いとちょっと困るなぁ。でもまぁ何とかなるだろう。

 僕は山の上に向かって、騎竜を走らせた。




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