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理系男子と恋の魔法絵本  作者: 夢☆来渡
リコール!!
13/27

13

 

 怒涛の勢いで過ぎた土曜日。

 晩飯を食べ、自分のベッドに潜り込んだ僕は一瞬で深い眠りに落ちた。

 肉体の疲労から来る眠気は本の中の戦いよりも、奥村の家から自分の家まで走った事が一番の原因だろう。あとは様々な体験から来る精神的な疲労がどうしようも無い程に僕を眠りに誘う大半の理由だ。


 深夜、僕の所有する小型通信端末がブルブルと振動して何者からか通信が来た事を教える。部屋の学習デスクの木目が暦年の年月によりキズや汚れを伴い、キズの目隠しに天板に置いたゴムマット。その上に振動するのは小型通信端末。黒くツヤのあるそれはケイタイとも呼称される。

 一応僕は中学生で小型通信端末を持ってはいるが、あくまでもそれは親に持たされている緊急連絡用だったし、交友関係の少ない僕の端末を呼び出す認識番号を知っている友人などごく僅かだ。

 これは昔からの友人の中村に違いない。ベッドの頭のそばに置いた目覚まし時計を見る。文字盤の蛍光文字と長い針達が薄暗い闇夜でも時間を教えてくれる。

 夜の12時か。まったく非常識なやつめ。たまに連絡するにしても時間を考えろ。通話じゃなくてもメールだってあるのに。

 僕の意思とは裏腹に何度も繰り返して振動する小型通信端末。闇夜の中で着信音を消されたままの振動のみの携帯電話。そうさ踊るがいい。

 ああ、眠い。

 面倒臭いな。

 どうせ中村だからいいか。

 明日また掛けて来るだろう。

 出なくても死にゃしないし。

 寝ないとコッチが死ぬし。

 幾数回目の振動を無視して、僕はベッドに潜り込んだ。





「兄ちゃん、兄ちゃん、おーい、おーいってばー!」


 うるせ。

 何だ弟か。死にたいのか?

「何だ、もう朝か」

 僕はベッドから上半身を起こしながら、明るくなった窓を見やる。日光がさんさんと降り注ぎ、なかなか爽やかな日曜日の朝を迎えている。

「もう昼だよ」

 弟が昼だと言う。

 だろうな。そんな気がしたさ。

 わかっているさ、めっちゃ腹減ってるもの。

「なんだよ、オマエうるっせーよ」

 僕は寝起きが悪い方じゃ無い。パッと起きるし、すぐに動ける。起きてすぐにロメロスペシャルからコブラツイストなんて古いプロレス技なんかも余裕でこなす。

「痛い!痛いよ!やめてよ!ちょっとギブ!ギブ!」

「ほほう、もっと欲しいのか、この変態な奴め。ギブミーチョコレートが通用するのは戦後だけだと知らんのか!」

 ギリギリと締め上げる。四肢をこのまま引き裂いてやろうか。

「違う!ちがうってば!電話!兄ちゃん電話だってば!」

「ああ?そんな言い逃れでこの俺がこのコブラの手を放すと思ったか!……いや、そう言えば夜中に鳴っていたな。キサマ俺の携帯に触ったら地獄行きだと教えたよな」

「携帯じゃなくて!家の電話!兄ちゃんの友達から電話だってば!」


 ん?おや、それはまた珍しい。


 誰だろう。携帯鳴らせばいいのにねー。


 僕は弟を解放し、二階の階段を降りて一階のリビングへと向かう。弟はその場に崩れ落ちたようだ。

 リビングのドアを開け、すぐに左にある家庭用固定電気通話端末の独立した受話器を取る。

「はいはい、わたくしですよ」

 往年のレオ=モリモトのモノマネを炸裂させてみたが、受話器の向こうの人物には伝わらなかったようだ。

『マコト!!オマエ電話に出ろよな!』

 予想通り、クラスメイトの中村の声が聞こえて来た。何やらご機嫌ナナメだわ?

「電話にならこうして出ているだろうに」

 僕は受話器を耳に当て、リビングのソファーに移動する。昭和の電話機ならコードが邪魔で出来ない動作だな。コードレスの発明は画期的だ。

『あー、そーね、そーですね』

 呆れた口調で中村は続けた。

『昨日の夜に確認したい事があったから何回か携帯鳴らしたんだわ。お前の場合、8時過ぎたらどーせ出ないと思ったけど、一応頼まれた事だし、急いでるみたいだったしさ』

「はぁ。何?」

 僕が先を促すと、中村は少し考えているのか、あきれ果てて声が出ないのか、少し間を置いてゆっくりと話し出した。


『俺の友達で【松下 優子】という奴が居るのは知ってるだろ。同じテニス部で、昨年同じクラスだった奴』


 その名前ならば確かに記憶はある。髪が長くてよくポニーにしていた、顔は可愛いけどちょっと小うるさい感じの、クラスの学級委員なんかやらしたらハマりそうな活発な女の子だ。あいにくだが好みではない。

 僕は受話器の向こうの中村に見えないのに頭を下げて頷いた。


「ああ、知っている。あいにくだが好みでは無い」


『あっそー。じゃあ【奥村 美夜】は?』


「……え?」


 な、なぜに中村の口から奥村の名前が?


『お、く、む、ら。昨年同じクラスだったろーが。俺もお前も松下も奥村も同じクラスだったんだよ』


「あ、ああ……」


 僕は不意打ちを食らったようにかなりの動揺をしている。


「……お、奥村さんは……そのぅ、好みかと言われれば、まぁ、なんて言うか、好みじゃないと言うとウソになるからして、例えば松下を手羽先に例えるならば奥村さんは……カレーかな?」


『意味わかんねーよ』


 うぐ、どう言ったらいいんだ。


『知ってるか?って聞いてるんだよ、覚えてんならそれでいいんだっつーの。さっきから好み聞いてねーよ』


「あ、ああ、そうかそうか。ならば知ってる。知ってます、ハイ」


『でな、その松下と奥村は仲が良いんだわ』


「へー」


 それは初耳だ。


『でな、俺と松下はテニス部のつながりで多少メールくらいはするんだ』


「へー」


 今どうでもいい「へー」が出た。


『これは昨日、松下からメールで頼まれたんだけど、【奥村がお前のケイタイ番号かメールアドレスを知りたいらしいから教えて欲しい】って言うんだ』


「……なにぃ!?」


『ハハァ、驚いたか?』


「マジですか?」


『超マジっすわ。なんか急いでるみたいで、用事があってお前に連絡つけたいらしくってな。だから俺も教えていいか分からなかったから、お前に確認しとこうと思って電話したのに、何回鳴らしてもオマエ出ないしさ』


「わあああ、それはまた……メールしろよー」


『したわい!!お前まだ起きたばかりだろが!まだメール見てもないだろ!』


「あ、ああ。まぁ……その通りだ」


 よくわかってらっしゃる。


『それでな、お前に連絡付かないし、松下は教えろってうるさいし』


「ああ、それで今この電話なのか」


『いや、めんどくせーからもう教えたんだわ』



 ……

 ……

 ……



 ドガッ!バタン!


 ドドドドドドドド!!!




『あー、もしもーし、もしもーし?』


 階段を駆け上がり、弟を蹴飛ばして追い出した僕は自分の部屋のデスクに置かれた携帯に飛びつく。

 右手に持っていたままの家の電話の受話器からは中村の声が繰り返す。

『もしもしも?』

「おい!それを早く言えよ!!」

 僕が怒鳴ると受話器から中村の飄々とした声が聞こえた。

『どうだ?メールか何か来てるか?』

「着信12件」

『そりゃ俺だ』

「ぶっコロス」

『メールは?』

「3件」

『じゃあ来てるな。2件は俺のだから、1件は奥村じゃねー?』

 チクショウ、楽しんでやがる。

 僕はといえば心臓がバクバクだ。

 携帯通信端末と家の受話器を握りしめ、僕はベッドに転がった。

 ゴクリと生唾を飲み込んで、先ずは着信履歴をチェックする。

 なるほど、確かに中村からの着信の嵐だ。

 次にメールを操作する。

 未読となったメールBOXから2件、中村のメールを開き、先ほどの電話の用件とほぼ同じ内容を確認する。

『もしもーし、どうよー?』

「今見てるんだからチョット待て!」

『松下にお前の携帯番号とメアドをメールで伝えたから、松下から奥村にちゃんと伝わってると思うけど、必然的に松下にも教えてるわけだから、その辺はカンベンしろよ』

「わかってるよ、松下はどーでもいいよ。話す事なんてどーせない。最近だってもう殆ど絡むわけじゃないし」

『あー、まぁ……本当ならそうなんだろうが……』

「チョット今からメール読むから黙れよ」

『おう……』


 何か言いたそうな中村を受話器ごと枕元に置いて、僕は携帯画面に注視する。

 まだ開いていない『未読』のメールを選ぶと、僕の携帯に未登録のアドレスと件名が右から左にスクロールする。

 僕は心臓を落ち着かせながら、メールを開く。








 ______

 件名:美夜です

 ______


 本文:こんばんわ、起きてますか?


 ______









 ……

 ……

 これだけ?



 僕はちょっと予想外の短さに再び動揺してしまった。

 何だか期待していたモノと違い過ぎて、というか、メールが来た事自体がもう事件なんだけど、その重大な案件が内容すっげぇ短くてなんだ?どうした!?

 って心がザワザワしている。


 そりゃあ、夜中に出すメールだから、遠慮するのもまぁ考えなくはない。けども何だかよそよそしい感じがする?


 僕が何かしたか?


 そして昨日の帰り際、僕がしでかした素っ気ない行動と置き台詞を思い出した。



 《 帰る 》



 僕は全身から血の気が引いていくのを感じた。


 奥村は僕が怒って帰ったと思っている。

 怒ったままだと考えているとしたら?


 奥村は僕に何を言いたかったんだろう?


 急いでいたって事は何か重大な事があったんじゃ無いのか?


 それなのにこんな……


 言いたい事が言えないまま、送られて来たようなメールになってしまったんじゃないのか?

 僕は愕然とうな垂れた。

 力を失った僕に、受話器から中村の声が聞こえた。

『もしもーし、マコトー?』

「何だよ」

『お?元気無くね?』

「まーな。何だよ?」

『実はまだ続きがあってな。今日ってヒマか?』

「ああ、おヒマですよ」

『金あるか?』

「んー?五千円くらいか」

『上等。カラオケ行こうぜ』

「えー、テンション上がらねーよ」

『何だよ、奥村からのメールがそんなにダメージでかいのか?お前がカラオケ行かないと俺が困るんだよ』

「なんで?」

『実は今日、松下とカラオケ行く約束になってるんだよ』

「へー」

『そんなどうでもいい事じゃないから』

「そりゃあ、お楽しみでケッコーじゃないですか。青春したまえよ。僕はサハラ砂漠にラクダでも見に行くとする」

『行くな行くな!昨日のメールと、お前に連絡が付かなくてこうなったんだからな!少しは協力しろよ!』

「へー」

『昨日、松下とメールでカラオケおごる約束してさ、男は俺とお前と二人で、松下は奥村連れてくるって話になってるんだよ!!』



 ……

 ……

 ……



 ガバッ!!


 飛び起きる僕。


「それを早く言え!!」




 ☆ ☆ ☆




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