プロローグ
8月11日、夜。
空には丸い月が輝いていた。
全ての事柄を照らし出し、見守り、穏やかにさせてくれる光だった。
そんな月を厚い雲がゆっくりと、ゆっくりと覆っていく。
それと同時に光の祝福を受け入れられえぬ者達が動き始める。
「また出やがったな」
二十代そこそこの男が闇の中でつぶやいた。
纏う衣は闇の色。
ただし胸には銀に輝く十字架のペンダントをつり下げている。
男はおもむろに2丁のごつい銃を懐から取り出した。
「さあ、カーニバルの時間だ」
男の宣言と共に闇の者達は顕現し男に襲いかかる。
男は顔色を変えず銃の引き金を引き、その周囲に銃弾を巻き散らす。
響く騒音と立ち込める硝煙の、いやこれは線香の匂い。
「南無阿弥陀仏」
銃声の終わった後に闇の者達はおらず、男が佇むだけだった。
「全く、どうしてこんなにうじゃうじゃ湧いてくるんだ?」
「それは近年世界の霊的濃度が飽和状態になりつつあるからだって枢機卿が言っていたわ」
男の愚痴に答えるようにどこからともなくあらわれた少女が呟いた。
少女も闇色のワンピースに銀の十字架を首からぶら下げている。
「わたし達エクソシストは悪魔を払う事が出来てもこの霊的濃度を除去する事が出来ない」
「だからこそ俺たちはきたんだろ。あの男に会うために」
「ええ、奇跡を見るために」
雲はゆっくり薄れてゆき、再び月の光が世界をつつんだ。
目的の街は目の前である。