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お披露目会

タグに不定期連載、追加しました。

 そして、この日がやって来た。


 特別にこしらえられた舞台を囲むように人々が集まっている。老若男女の別なく集まる彼らの服装は例外なく煌びやかなもので、そういったことに疎い俺でもやんごとなき身分の方々なんだなと分かる。集まった誰もが立派な服装をしていたが、大別して2種に分かれていた。男と女というバカでも分かる2種ではない。虚と実、もっとわかりやすく言えば、戦わないものと戦うものの2種である。言ってしまえば、兵が動員されている、というだけのことだけど。


 やはり特別な場であるのか、動員されている兵も例に漏れずこれでもかと着飾っている。正直、装飾過多ではないかと思わないでもないが、争いごとには素人な俺である、そういったものと受け止めるとしよう。とある狩人(ハンター)だって装飾をたくさん付けられるほうが便利だったしな。うん。


 現在、俺がいるのは子供らが初召喚を行う聖堂である。どういう由緒ある聖堂なのか、歴史が云々、慣習が云々とユーゲルが語っていたが、覚えていない。とりあえず英雄がここで召喚を行ったとかそのようなことだったかと思う。いや、それは別のやつだっけ?とにかく、我が麗しの召喚主様であるアリシアもここで召喚を試みるために両親ととも人々の輪の中に加わっている。残念ながらその表情は曇りきっているが。


 集められた子供達は今年度で5歳になった子達である。名目上、ここで初めて召喚を行うとされているが、ほとんどの子達は誕生日とともに、もしくはそれ以前に初召喚は終えてしまっている。よってこの場は、子供達の召喚獣お披露目式のようなものである。


 集められているのは貴族子女であるので将来的な力関係や新たなつながりの構築とかそういったこともあるのかもしれない。俺は貴族ではないので、興味はないが。ちなみに尊き身分以外の、彼らから見れば卑賤な身分の子供達は5歳になれば召喚を試み、お役人がそれを確認、記録されるだけである。脅威という面でも、戦力という面でも召喚獣の管理は大事なのだろう。おかげで、この国では、言い方は悪いが、文明の割に戸籍制度が充実している。しかし、重ねて言うが、そんなことに興味はない。今、重要なのは一つ。召喚ってどうやったらされるの?これだけである。


 お披露目会が始まったのか、子供達が一人ずつ舞台へと呼ばれていく。一人、また一人と召喚を成功させるたびにアリシアの頭が下へと向いていく。涙をこらえるために体をふるふると震わせているけど、努力もむなしくもう決壊しそうだ。と、そこでレイアに抱き上げられるアリシア。レイアの腕の中でグズグズ言っているが、レイアが大丈夫、大丈夫よとあやしている。


 ……全然大丈夫じゃないんですけど!


 ユーゲルさんよ。ここはひとつ、辞退するということはできないのかい?ダメなのかい?貴族としちゃまずいのかもしれないけども、我が子のためにどうにかできないのか?手をアワアワしていないで何とか交渉しに動いてくれよ。オロオロするだけかお前は。やはりユーゲルは所詮、ユーゲル(役立たず)か。


 やつは当てにならん。俺がどうにかするしか。しかし、どうすれば。ここでパッと閃ければいいんだが、なにも浮かばない。ヒント。ヒントはないか。するとにわかに歓声が上がる。


 ここで俺は舞台のほうに目をやった。おお、水でできたドラゴンだ。すげー。あれでも一応、生物なのか?大きいほうとか催すのかな?など、下世話なことを考えていると次の子が舞台に上がった。召喚したものは黒いキューブ状の何か。それはサイコロのように転がると自身の影に沈んでいった。なんとも珍妙な召喚獣である。獣というか、生物ですらない。ただの黒い物体。


 あ。


 そうだ。召喚されるものの大半が獣であるから召喚獣と呼ばれるだけで、生物とは思えない召喚獣だって存在する。閃いたぞ。


 そして、とうとうアリシアの名が呼ばれた。ぐずるアリシアをレイアが抱いたまま舞台へと連れて行く。舞台中央に降ろされたアリシアは離れるレイアの服をつかんでいたが、観念したのか決心したのか、その手を離し、いつか見たように祈り始めた。そして、現れる空間の歪み。俺は閃いた構想の通りに突貫工事で組み上げた魔法を発動し、その歪みへと放った。


 歪みは風を通すことは実証済み。なら、そこにこそ勝機がある。そう。風を操る召喚獣ではなく、召喚獣を風にすればいいんだ。なんて発想の転換!俺は天才だったのか。ここにきて才能が開花したか?マジやばいな俺。


 魔法により放たれた風は、直進した後、旋回して人々の間を巡り、アリシアの元に戻ってふわっと消えるようにしてある。さぞ、意思があるように思えるだろう。抜かりはないぞ、ふふん。


 ……あれ?アリシアちゃん。なんでまだ祈ってんの?レイアさんとユーゲルさんも何でまだ固唾を飲んで見守ってるの?風さんもう出発してるよ?そろそろ戻ってくるよ?あ、戻ってきて消えた。ざわめきが広がり始めてきた。まずい。何かの前兆かなんかだと捉えられたみたい。そうだよね、風が辺りを吹いたくらいじゃそう取られてもおかしくないよね。


 どうする?どうすんの、俺!


 そうだ!人形を出して風で動かしたら、風が自在に動いてますって皆に分かるかもしれん。即座にパペット人形を生成、歪みへと放る。通るか?通った!よし、風よ。行け!


 カタカタカタ、ペシャッ。不気味に動いて、崩れるように倒れるパペット人形。急遽作り上げたためにぞんざいなつくりの人形は木目の肌、人型だと分かる最低限の手足、全方向に曲がる一応の関節、顔に穿たれたうろのような目。呪いの人形と言われても誰も疑わない。


 ……アリシアちゃんが人形を見つめる。見つめ続ける。けど、人形は動かない。動くはずもない。ただの人形だもの。もう一度風で動かしてみればいいのだが、召喚が成功したのかと思ったのか、歪みが消えてどうすることもできない。万事休す。


 焦れたアリシアがおもむろに人形を拾い上げた。角度を変えて眺め始める。ものすごい眺める。しかしそれはただの人形である。アリシアは人形を振ってみた。しかし、なにも起こらなかった。アリシアは人形を叩いてみた。しかし、なにも起こらなかった。アリシアは人形を調べてみた。とても不気味な人形だ。


 やばい。アリシア泣きそう。待って。ちょっと待って。もう一回チャンスを。ああ、人形が召喚獣とみなされたみたい。その召喚獣もう動かないよ。動けないよ。


 呪いの人形を持ったままレイアに抱きつくアリシア。うん、泣いてる。確実に泣いていますよ、これ。レイアがアリシアの背中をさすりながら人形を指差して何か言っている。聞こえないので近づいてみようと思ったところで歪みが発生した。アリシアは動かない人形を離すと、歪みを通って落ちる人形。


 ……送還か!待て。これはチャンスだ。落ち着け。失敗は許されないぞ。人形が通るならある程度の物体も通ることができるはずだ。俺は拳大ほどの碧玉を生成し、歪みへと通す。無事に歪みを通った碧玉はアリシア達からは人形と入れ替わりに出てきたように見えているだろう。


 驚いて固まるアリシア達をよそに碧玉はコロコロと転がり、風を纏い始める。軋むような音を立てながら収束する風に包まれて浮き上がる碧玉はしばらく滞空すると、風を解放し、全方位に突風を起こすと同時に消えた。


 ここまでが精一杯だった。もう少し時間があれば、風の龍っぽいのを放出する仕様とかにできたんだが。どうだろうか、リカバリーはできただろうか。


 碧玉があった場所を指差し、興奮したように母の服を引っ張る彼女の姿をみて、俺はひとまず安堵したのだった。

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