Act.4:一鬼夜行/一鬼一幽(前)
■
私はとても後悔している。つまらないと分かっていながらもきみの話を最後まで聞いてしまった。
■
走る。
「はぁ──はぁ──はぁ」
走る。ただ走る。
「──はぁ──はぁ──」
走る。ただ走る。悪夢から逃げるように走る。
「はぁ──はぁ、あ──はぁ──!」
走る。ただ走る。悪夢から逃げるように走る。ケモノに狙われた兎のように走る。
「ぁはっ──はぁ──はぁ──く、はっ」
走る。ただ走る。悪夢から逃げるように走る。ケモノに狙われた兎のように走る。戦場から逃げる兵士のように走る。
「──はっ──はぁ──!」
走る。ただ走る。悪夢から逃げるように走る。ケモノに狙われた兎のように走る。戦場から逃げる兵士のように走る。狩人に追われる小鹿のように走る。
「あ、──はぁ、──はぁ──はぁ──」
走る。ただ走る。悪夢から逃げるように走る。ケモノに狙われた兎のように走る。戦場から逃げる兵士のように走る。狩人に追われる小鹿のように走る。鬼ごっこをしている子供みたいに走る。
「はぁ、──はぁ、──はぁ──は、ぁ──!」
走る。ただ走る。悪夢から逃げるように走る。ケモノに狙われた兎のように走る。戦場から逃げる兵士のように走る。狩人に追われる小鹿のように走る。鬼ごっこをしている子供みたいに走る。背後から迫ってくるランナーを引き離すように走る。
「──はぁ──ハァ──!」
走る。ただ走る。悪夢から逃げるように走る。ケモノに狙われた兎のように走る。戦場から逃げる兵士のように走る。狩人に追われる小鹿のように走る。鬼ごっこをしている子供みたいに走る。背後から迫ってくるランナーを引き離すように走る。殺人鬼から逃げるように走る。
───無様に走る。
「はぁ──はぁ──はぁぁ──っ!」
何度目かの曲がり角を曲がったところで俺はようやく走り続けた脚を止めた。
肩で息をしながらブロック塀に体を預け、荒れた息を整えながら今まで走ってきた道を確認した。
「はぁ──はぁ──はぁ、撒いた、か?」
そこにあるのは静かな闇だけ。あの女の姿は見えなかった。
一瞬、安堵で力が抜け欠けたがそれは思い止まった。
まだ安心は出来ない。
「───家に帰るまでが遠足ってね」
とりあえず現在の状況を纏めることにした。
逃げてるときは闇雲に曲がり角を曲がったりしてたので現在位置が把握できていないのだ。
周りを見渡せばすぐに住宅街だとわかった。体を預けているブロック塀はどこかの誰かさんのお家ってことだ。………で、それで終わり。
普段住宅街の方には足を運ばないし、方向感覚は狂っており、その上真っ暗。最早、別世界と言ってもいい。ちょっとした不思議の国のアリスだ。
「………てっ馬鹿か俺は」
思考を切り替えすぎた。ちょっと修正。
さて、この後、どうするか、だが………
「警察に行くのが一番だな」
その前にこの辺の家に転がり込むという選択肢もあるがそれは却下。こうゆうことに他人を巻き込むのは少し気が引けた。
よし。そうと決まれば行動あるのみ。交番がある場所は駅前しか思い付かなかったのでそこを目指すことにした。
現在位置はイマイチ把握できていないが歩いているうちにどうにかなるだろう。ここにいても仕方がない。
それに朝のニュースでやっていた占いコーナーでは俺の今日の運勢はかなりよかったし。
………………。
それは当てにならないな。本当に運勢がいいならこんな目には合わない。
とりあえず、今、走ってきた道は危険だ。それ以外の道を───
「うふふ。休憩は終わりかなかな?」
「────っ!」
静寂から聞こえたその声に咄嗟に振り向いた。
そこに誰が居たのかは問うまでもない。この状況で現れるのは一人のみ。あちらは狩る側でこちらは狩られる側なのだから。
ひょこひょこと楽しげに揺れるポニーテール。丈の短い黒々洞のような着物。それは間違いなくあの女の姿だった。