Act.2:一鬼夜行/食後談戯
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振ったサイコロに未練などありません。
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「ねー金曜日の悪魔って知ってる?」
「きんようびのあくま?」
俺が居を構えるアパートから国道に出て歩くこと三十分。特段食べたい物があった訳ではないので手軽で安いファミレスで夕食を食べることになった。
マサラちゃんは宣言通りかなり空腹らしく、和風ハンバーグステーキセット(ライス、サラダ、ドリンクバー付き/税込1100円)、温菜サラダ温泉卵付き(税込315円)、ミートスパゲティ(税込400円)、タラコスパゲティ(税込400円)、デザートに苺のジェラート(税込250円)というふざけた量をふざけたスピードで平らげた。
ちなみに俺はカルボナーラとドリンクバーだけで、食べ終わったのがほぼ同時というのだから本当にふざけている。
で、食後のお茶を(ソフトドリンクだが)楽しんでいたところにマサラちゃんが話を振ってきた。
「あー……それって噂の殺人鬼のこと?」
「ぴんぽーん。大正解。ビンゴビンゴぉ」
にこやかに笑い、ぱちぱちと拍手をした。
金曜日の悪魔。この辺一帯に出没している猟奇的な殺人鬼だ。その名は毎週金曜日に必ず一人殺害していることに由来している。 そして、その被害者の数は───
「先週でもう十一人だってねー。日本じゃあり得ないわよ、こんな大量殺人」
今が四月の中旬辺りだから……。
「十一人ってことは……えっと……一月の終わりか二月の初めぐらいか」
うわっ。二ヶ月にも渡ってやってるのかよ。もうじき1クールじゃないか。
「でもまだ捕まってないんでしょ」
「そっ。被害者は全員若い男なんだって。警察も捜査本部とか作って色々やってるけど犯人像も掴めていないらしいわよ」
「詳しいねマサラちゃん」
ちょっとビックリ。いつも旅行とかで日本離れてるし、あんまりニュースとか見るタイプじゃないから、そんなに知ってるとは思わなかった。というか俺より詳しい。
「キラリに聞いたのよ」
ああ、納得。キラリというのはマサラちゃんの友だちで刑事さんなのだ。だからその手の情報は手に入れようと思えば簡単に───とはいかないが情報源には困らないという訳だ。
「それがさ、聞いてよせっちゃん。あたしが久し振りに飲みに誘ったっていうのにキラリの奴こんなこと言うのよっ!」
?私はお前のように年がら年中遊び呆けていられるほど暇じゃないんだ。だからいつもみたく適当に一人で遊びまくって自己満足で自己完結して勝手に終わって死んでくれ。私も気が向いたら遊んでやるから、な。なに、礼なんていらないぞ。孤独死しそうな市民を助けるのも私の仕事の内さ?
「だって! 何様よアイツ!」
「…………」
キラリさん相当キレてるな。元々毒舌だけどそれはあの人なりの親愛表現で、今みたいにそんなに(あまり大差はないが)悪辣なことは言わない。
ま、二ヶ月近く好き勝手やられては平常心ではいられないか。ストレスだって溜まるだろうし、警察のメンツもある。それ以上にキラリさんのプライドをかなり傷つけている。
「ああっ! もうっ! 思い出しただけでイライラするっ!!」
マサラちゃんもマサラちゃんでキレたのか、バンバンとテーブルを強打する。木で出来ているテーブルは一見頑丈そうだが一撃毎にギヂギヂと嫌な悲鳴を上げていた。
「ちょ、マサラちゃん落ち着いて。テーブルが───」
壊れる、と言葉を紡ぐ前にキッとこちらを睨みテーブルに乗り出し俺を締め上げた。
「ちょっとせっちゃん! まさかキラリの味方するんじゃないでしょうねっ!?」
何故そうなる。そんなこと一言も言ってない。
が。弁明しようにも首ごと締め上げられているので声が出せない。
「もしそんなことしてみなさい! 関節の数だけバラバラに解体してあげるわ!」
いいから離せ。息が出来ない。がくがく揺さぶるな。
「ちょっと! さっきからなに黙ってんのよ! 黙ってないでどうにか言ったらどうなのよ! 苦しそうな顔したって騙されないわよ!」
実際苦しんだって! 騙しじゃないんだよ!
「ほら! さっさと答えなさい! あたしとキラリ、どっちの味方をするのか!日和ったこと言ったらただじゃ置かないんだから!!」
あ、もうマジ限界。さ、酸素、酸素をくれ。既にただで済まされていない。
心の中での抗議も怪獣のようにがあーがあー吼えるマサラちゃんには届かず、しゃらんしゃらんとかんざしが雅な音を出すだけであった。




