出会い
2人がであったのは、彼女の働く風俗店でした。
彼は、いろいろなストレスから逃れたくて、彼女はただ、お金が欲しくて、それぞれの理由で、その場にいたのでした。
彼は、彼女を一目見た時に、なんでこんなところにいるんだろうと思いました。
彼女のことを、とても綺麗だと思いました。
特に背が高いわけでも、顔が整ってるわけでも、スタイルがいいわけでもないのです。
なぜだかはわからないけど、理由なんて彼が後付けすればいい話だった、とにかく綺麗だと思った。
なんで、この店で働かなくちゃならないんだろうと。
「こんなところで働くの、いやじゃないの」
「いやなんかじゃないよ」
「営業はいいよ、正直にいってくれ、こんなところで働くの、いやなんじゃないの」
「…かもね、でも、わたしはやらなきゃならないことがあるから」
彼の家は小さい頃から裕福で、お金に困りはしませんでした。
お金がなくなれば、父親が手渡してくれます。
でも特別お金の必要なことは、大学に入るまで、特にありませんでした。
欲しいものなら、揃っていました。
全て。
「やらなきゃいけないことってなに」
「お金を貯めなきゃ」
「お金ならあげる」
「なにがいいたいの」
なにがいいたいのかは、自分でもよくわかりません。
見切り発車もいいところでした。
こんなことを言ったところで彼女はきっと救えない。
だってきっと自分が不幸だとも思ってないから。
幸せなやつを「救う」のは不可能なのです。
電気を引いてない家で、照明をつけるのと一緒です。
「不幸」という感覚があって初めて、「救う」という行為が成立するのです。
「…何を言おうとしたか、忘れた」
「面白い人だね」
「あんたも大概変な女だ」
「こんなとこで働く女に、普通の女はいやしないよ」
「…そう」
彼はこの時、彼女が自身を貶したことに、妙な嫌悪感を覚えます。
自分は一瞬でも、彼女を綺麗だと思った。
なんならこれを、「惚れた」と言っても過言ではないような気さえしました。
自分の好きなものを反対されるのは、誰でも嫌なものなのです。
彼のような、無感情に近い少年すら、すこしの違和感を覚えるのです。