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お気に入り件数がまた増えました。
ペースは遅いですが、これからもがんばりますのでよろしくお願いします。
教室内にチャイムが鳴り響いた。
竜也の周りにいた二人も含め、その音を聞い生徒たちは慌ただしく自席に着く。
まるで全員が座ったことを確認したかのようなタイミングで、放送がかかってきた。
『全員席に着き、パソコンを開いてください。メッセージが送ってあるはずなので、各自それにしたがって作業を進めてください』
生徒それぞれがパソコンを開き、メッセージを確認していく。
教室内はざわめき始める。
どうやら入学して早々に仲が良くなってきた人たちと、どんな授業をとるか話し合っているようだ。
竜也の右座席に座っている圭介もそれの例外ではなく、彼に話しかけていた。
「竜也はどっちにする? 能力学」
「俺は戦闘系に設定した」
朝のうちにパソコンに目を通していた竜也は、すでにそれについては考えていたため、悩む動作も見せずに即答する。
その答えを聞いた圭介は、嬉しそうに拳を握りしめて小さくガッツポーズを決める。
「ラッキー。俺も戦闘系だ。一緒でよかったぜ」
「そうだな」
竜也と同じであることを素直に喜ぶ圭介。せっかく仲良くなったのに、バラバラになるのは嫌だったのだろう。竜也も彼と同じように嬉しそうな顔をしている。
「ねぇねぇ、二人は何にした? 能力学」
そんな二人の間にやって来たのは、興味津々といった感じで問いかける、志津留だった。
「俺らはどっちも戦闘系」
「えぇー! 二人とも!? 圭は見た目通りだからわかるけど、達也くんもか……」
「ちょっと待て。俺ってそんなに好戦的に見えるか?」
「そういうわけじゃないけど、どう見ても制御系には見えないから、ねぇ?」
「ここで俺に振られても困るんだがな」
「そこは否定してくれよ……」
少しショックを受けたように落ち込む圭介を傍目に見て、二人は苦笑する。
確かに圭介の身体を見れば、戦闘に慣れていそうな感じはするので、二人の反応も仕方のないものなのかもしれない。
「それにしても二人ともか……」
改めて確認するように呟く志津留。その声音はどことなく残念そうである。
「そんなに落ち込む必要もないと思うんだけどな。シズの性格からして友達には困らなそうだし」
「確かにな。シズみたいな人は、こっちから行かなくても人が集まってきそうだし」
「そういうのじゃないんだけどなー。なんというか、二人からは……やっぱりいいや。なんでもない」
「なんだよ、途中でやめるなんて。別に悪いことを言おうってわけじゃないんだろ?」
「いいの。なんでもないったら、なんでもないの」
竜也と圭介が二人して頷き合っているところに、志津留は否定の言葉を入れようとするが、途中で何を思ったのか言葉をかけるのをやめる。当然二人はいきなり黙り込んだ彼女を訝しげに感じたが、頑なに口を結ぶ彼女を見て、口を開くことはないだろうと思い、それ以上尋ねることはしなかった。
「まぁいいさ。それよりさ、この後にある学校見学、一緒に行動しないか? たぶん妹も一緒になると思うが」
代わりに竜也は、この後の行動についての提案を出した。
その行動だけならなんてことのないことだが、その中身は二人にとって驚きに値するものだったようだ。その顔を見れば目を丸くしていた。
「妹と一緒に行動!? 妹ってあの人だよな!? いいのか!?」
「良いも悪いもあるものなのか? こういうのって」
「いや、そうなんだけどな……」
竜也が当たり前のことだろうとばかりに言ってやると、圭介はどう言ったものかと迷って、沈黙していく。
「あんな子と話せるなんて、すごい楽しみなんだけど!」
「お手柔らかにな。あいつは少しばかり人見知りがあるから」
興奮状態を表したかのような志津留の様子に、竜也は苦笑を浮かべながらそう告げてやる。
竜也の今回の提案の目的としては、妹の人見知りを少しでも改善できたらと思ってのことだった。
こうして仲の良い友達を作ることは、妹のプラスになるだろうと思って。
☆ ☆ ☆
妹と行動をするために、生徒たちに与えられた休み時間を使って銀夜のところに歩を進める達也。
その彼女のいるAクラスにやってきて、中をのぞき込む。
だがそこには彼女の姿はなかった。
どこに行ったかをこのクラスの人に聞いてみるのもありかもしれないが、達也はそれを選ばなかった。
この短い時間で、さらには我知らずのところで、行くところなど限られている。それに銀夜の行方を聞いて、変に目を付けられるのを避けたいと考えたからだ。
そういう訳で竜也は教室から洗面所に方向を変える。
予想通りそこには銀夜の姿があった。それと仲良さげに話している姿から、友達と思われる少女がもう二人見受けられる。
「銀夜」
竜也がいつものように妹の名前を呼ぶ。その声に銀夜だけでなく、そこにいた二人も振り返った。
銀夜は少し驚いたような、二人のうち一人は竜也の顔を確認するや、怪しい人物を見るような視線を向け、もう一人は思考が伺えない無表情な顔を向けてきた。
「兄様? どうしたんですか?」
「えっ! お兄さんなの!?」
「……びっくり」
達也の声に反応して、銀夜がいつものように竜也の名前を呼ぶと、その単語に二人は呆気にとられたような反応を示していた。
「私、てっきりまた来たのかと思って、睨むようにしちゃった。ごめんなさい、変に警戒しちゃって……」
「早計はよくないよ」
「そうだけど、そういうアリサだって、じっとこの人のことを見てたじゃない」
「私は見てただけ。美織みたいに睨んでない」
「無表情っぽく見えても、私の目は誤魔化せないよ。さっきのアリサは――」
「二人とも落ち着いてください」
二人の言い合いが荒れそうになったとき、銀夜が声をかけると、はっとしたようにして、二人して恥ずかしそうに下を向く。
「えっと、前に紹介した友達です。こっちが木下美織ちゃん。こっちが渡辺アリサちゃん」
「どうもです」
「…………」
銀夜からの簡単な紹介を受けて、美織と呼ばれた少女は簡単なあいさつと共にぺこりと頭を下げ、アリサと呼ばれた少女は無言で竜也の顔を伺い見るようにしながら小さく頭を下げる。
「こっちが私の兄様である――」
「椎原竜也だ。銀夜が世話になっているみたいだね。これからも仲良くしてやってくれたら嬉しいかな」
「言われなくても仲良くしていきますよ。ね、アリサ」
「当たり前」
竜也は美織とアリサのやり取りを見て、妹は良い友達を得たものだとしみじみ思った。
それと同時に彼女のために自分がやっていこうとしたことは、実際には彼女一人でも十分どうにかなるのではないかと、不必要なことなのではないかとも思った。
「それで、兄様。どうしたんですか?」
竜也が思考の渦にのまれようとしていた時、まるで見計らっていたかのようなタイミングで銀夜は竜也に声をかけた。
それによって意識を引きもどされた竜也は、少し逡巡したがすぐにそれに応えた。
「あ、ああ。この後に学校見学があるだろう? それを一緒に行動しないかと思ってな」
「別に私は構いませんけど……二人も一緒で良いですよね?」
「もちろんだとも。こっちも友達を誘おうと思っていたしな」
「そっちはどういうメンバー構成なんですか?」
「俺を含めて男子二人の女子一人だ」
「私は構いませんよ。賑やかになった方が楽しいですし」
「沈黙よりはずっと良い」
「私も構いません」
「ってことはそっちは了承って事で良いかな?」
竜也が確認するように尋ねると、彼女ら三人は当然とばかりに頷いて見せた。
それを見て、竜也は少しだけ肩の荷が下りたような気がした。
「それじゃ、各クラスで解散次第ここに集合って事で」
竜也の言葉に、銀夜からの三人を代表した、分かりましたという賛成の言葉を聞けたことを確認し、竜也はまた後でと言葉を残してその場を後にした。