5
今回は短いです
依頼の話を行っていた緊張した空気から打って変わって、竜也と慎一郎の二人は楽しく談笑していた。
慎一郎が冗談を述べれば、竜也は呆れたように笑う。竜也が慎一郎をからかうような言葉をぶつければ、慎一郎は大袈裟に反応して見せる。
二人の仲がいいのは、見るからに明らかだ。
銀夜はそんな風に仲睦まじく、自然体で話す彼を見て、複雑な気分になっていた。
これは今回に限ってなることではない。
彼が心を許していられるような親しい人間と、生き生きと話しているところを見ると、彼女はいつもそんな感情に浸る。
自分彼にとって負担になっているのではないか、と。
妹となった自分を、彼は優しくしてくれる。
それこそ異常なくらいに。
それは自分にとって何よりもうれしいことであるし、それが変わってほしくないと思っている。
だけど、それが彼の足枷でしかないように感じる時がある。
今のように、笑ったり、呆れたり、怒ったりと、彼が感情を露わにするときだ。
そういうときに彼女は、彼に何をしているのだろうと思ってしまうのだ。
「そう思わないか、銀夜?」
「え、あ……」
別のことに意識が言っていたときに、突如声をかけられた銀夜は、当然会話についていけていないため、何も言葉を返すことが出来なかった。ただ困ったように視線が宙をさまよう。
「考え事でもしてたのか?」
「……すいません」
「あ、いや……こっちこそすまん……」
空気を払拭するためか、からかいを含んだ言葉を銀夜にかける慎一郎であったが、そんな意図もむなしく、余計に項垂れて、謝られてしまったため、逆に自分が困惑してしまい、謝り返す始末だった。
まぁ、これが銀夜でなかったなら、慎一郎もうまく対応できたのかもしれないが。
重たいというわけではないが気まずい空気がリビングを支配する。
「そろそろ時間だし、俺帰るわ」
そんな空気に耐えきれなくなったのか慎一郎は、そう言って立ちあがった。
「玄関まで見送りましょうか?」
「別にいらんわ。ガキじゃあるまいし」
「いや、礼儀として聞いたまでですよ。一応あなたは上司ですから」
竜也の相変わらずの憎まれ口に、慎一郎は「一応かよ」と苦笑いを浮かべていた。
「お茶あんがとさん。うまかったぜ」
「あ、はい。お粗末さまです」
竜也に向けてた視線を銀夜に変え、どこかの悪ガキのような笑みを浮かべてお礼の言葉を述べる慎一郎に、戸惑いを感じるが、丁寧に言葉を返す銀夜。
「それじゃあな」
そう言ってリビングを去っていく慎一郎。
その背中に視線を向ける二人。
程なくして玄関の扉が開き、閉まる音が聞こえてきた。
竜也は、はぁ……と一つ息を吐いてから銀夜に向き直る。
銀夜が何を言われるのかと考えていると、スッと自分に向かって手が伸びてくる。いきなりのことで身体をビクつかせる銀夜。目を瞑り身体を縮こまらせていると、頭の上に優しく手が乗せられる。そしてその銀色の髪を堪能するようにゆっくりとした動きで撫で始めた。
「全く、ダメだろう。お客がいる前でボーっとするなんて」
「はい……すいません」
手を動かしたままかけられた宥めの言葉に、しゅんと頭が垂れる銀夜。
その様子を見て、再び息を吐いた後、竜也は一つの行動を起こす。
「わっ、ちょっ、兄様?!」
さっきまでから一転して、旋毛の辺りでワシャワシャと手を動かし始めたのだ。竜也のその行動に、思わず声を上げる銀夜。
短い時間そうした後、竜也は彼女の頭から手を離す。
垂れていた頭を、ゆっくりと上げる銀夜。
その視線の先にはいたずらな笑みを浮かべている彼がいた。
「今度からは、気をつけろよ?」
「はい……」
それだけ告げるを竜也に、弱弱しく返事を返す銀夜。
その返事を聞いて、良しとした竜也は、テーブルに出されていたものを片付け始める。
自分がたとえこの人にとって重荷だったとしても、自分はこの優しさから、離れることはできないだろう。
彼女は無言で彼の背中を見詰めながら、改めてそう思った。