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入学式もほどなくして終わり、これから彼らが一年間過ごしていく教室に移動することになった。
先生たちの指示のもと、Aクラスから順に移動をしていく。その中に妹である銀夜の姿が見受けられた。銀髪の美少女ということもあって鬱陶しいくらいの視線を集めていたが、銀夜自身には特に変わった様子は見られない。そんな姿を見て竜也はホッと胸を撫で下ろしていた。
最後は竜也の所属するFクラス。先生が先頭を歩き、一列に並んで式場であった体育館を出ていく。そして階段を登っていき四階の廊下の一番端の教室に『1ーF』と書かれたプレートがかけられているそこに向かう。
中に入ると前に貼ってある紙を確認しろと先生からの指示がかけられた。
紙に書かれていたのは座席表だった。前に来てそれを確認した人から、席に座っていく。竜也はちょうど真ん中の座席だった。
周りを確認すれば、左後ろに志津留が座っているのを確認する。笑みを浮かべて手を振る彼女に、軽く頭を下げる。改めて前を向くと先生が教壇の前で立って待っていたので、背もたれに腰を据えて姿勢を正した。
「入学おめでとう」
先生の言葉に、教室にいる生徒は皆頭を下げた。その様子に先生は満足気に「うむ」とうなずく。
「俺は小野寺浩二。このクラスの担任をやらしてもらうことになった。よろしく。こういうときは色々と話すんだろうが、特に長話をするのも俺の我じゃないのでな。手短にさせてもらうぞ」
その言葉に大半の生徒がホッとしたような面持ちを見せた。誰だって長話を聞くことは面倒くさいと思うのだから、当然と言えば当然だろう。
「俺が言いたいことはただ一つ。ここに入学したことを誇りに持ち、その自覚を持て。クラスは一番下ということで落ち込んでいる生徒もいるかもしれないが、お前らはちゃんと選ばれてここにいるんだ。絶対に落ちぶれたりせずに成長することを目指せ。クラスによって指導の差別などはない。どのクラスにも同じ指導をして、同じように育てる。ここに受かった時点でお前らは十分な力はあるはずだからな。つまり成長するもしないもお前らの気持ち次第と言うことになるからな」
生徒の面持ちが変わったことを確認した先生――浩二は再び満足気にうなずき、教壇の前に置いてある椅子に腰を掛け、指示を出す。
「それじゃ、これから全員にちょっと作業をしてもらう。まずは机に備わってるパソコンを開け」
生徒にそう指示を出しながら、自分も教壇に備わっているパソコンを開き、カタカタと手を動かし、視線をパソコンの画面に固定する。その画面には、生徒たちのパソコンの画面が表示されていた。
すべてが起動したのを確認した後、浩二はパソコンの操作をしながら、顔を上げないまま、生徒に指示を与える。
「パソコンの指示に従って、お前らの持っているLCDに、この学校の登録章を導入してもらう」
LCD(Limit Control Device)
それは能力者のリミッターの鍵となるものであり、管理の道具でもある。
能力者は国の大きな力となる、一種の兵器だ。
そんな能力者が国に反逆を起こされてはたまらない。
そう思ったアメリカを初めとする世界の先進国は、能力者の管理を徹底的に行うことにした。
まずは、能力者のために法律を立てた。能力の発動は厳格に制限されている。その制限を破った際には、当然罰せられる。
だが、何もない状態では、能力が使われたかどうかは分からない。
その時にできたのがこのLCDだ。
先に書いた通り、LCDは能力者を管理するために作られた道具だ。
元々、リミッターを解除して能力を使うには、開発された道具が必要だった。そして管理するためのシステムをその道具の組み込んだのだ。
簡単に管理のシステムを説明すると、能力を使うためにはこのLCDのスイッチを入れなければならない。
このスイッチを押すと、ある特殊な信号が発信される。その信号をキャッチした近くにいる管理者が駆け付けて、捕らえに来る。という流れだ。
ちなみに学校の登録章を導入することで、学校内で融通を聞かせることができるようになる。
「パソコンの操作で音声対応を使うやつはマイクを装着してくれ」
パソコンの操作は今では目線対応、音声対応、後はキーボード打ちのどれかを使用する。ちなみに目線対応は精度が高いとは言えないため、今のご時世は音声対応が主流である。
そんな中浩二はキーボード打ちだ。
操作の最後にエンターキーを勢いよく叩くと、生徒たち全員の画面に一斉に、生徒登録のガイランスが表示された。
「俺は教務室の方に戻るけど、指示に従って登録を済ましておけよ。ちゃんと登録しないと、明日からこのパソコンは使えなくなるぞ。終わったやつから帰っていいからな」
そう言い残して浩二は去っていった。
その後ろ姿を横目で見ながら、竜也はマイクを装着し、ガイランスに従って、作業を始めた。
☆ ☆ ☆
特に分からないこともなく十数分で無事に作業を終えた竜也。特別早いということはなく、他に何人も終わっている人は見受けられた。すでに帰った人もいる。
「お疲れさま」
「お互いに、だけどな」
席を立ち上がろうとしたところで、入学式のときに知り合った志津留が声を掛けてきた。知り合って間もないというのに、声音は固いものではなく柔らかいものになっていた。そんな彼女に竜也はフッと頬を緩めながら、言葉を返した。
「志津留はこういう作業、慣れてるのか? 結構早い段階で終わってたみたいだけど」
「まぁね。これでも情報系統は結構得意なんだよ」
志津留は竜也が終わる前、というよりはこのクラスの中でも、終わったのが早かったのだ。竜也の疑問に、志津留は胸を張って自慢げに答える。
「椎原くんって、家どこら辺なの? もしだったら途中まで一緒に帰らない?」
そんな話が出てきて竜也は答えるのを躊躇した。竜也個人としては問題はないのだが、銀夜も一緒ということを考えるとそれはどうなのだろうか、と。そんな風に頭を悩ましていると、自分のポケットの中が震えているのを感じた。少し経っても落ち着かないところから、どうやら電話のようだ。「ちょっとごめん」と声を掛けて、竜也はポケットから携帯端末を取り出し、画面に表示された予想通りの名前を見て、応答ボタンを押した。
『もしもし、兄様ですか?』
「ああ、そうだよ、銀夜。どうしたんだ?」
電話越しからでも、不安が感じとれるような声。竜也はそれに対して優しい声音で答える。すると向こう側から安心したような感じが伝わってきた。
『こっちのクラスは解散になったのですが、そっちはどうなったかと思いまして……』
「こっちもちょうど終わったところだ。今からそっちのクラスにいこうか?」
『……いえ、出来れば玄関の方に向かう形にしてもらえますか?』
「分かった。それじゃ後でな」
『はい』
電話を切ってポケットに入れ込む。
「悪いんだけど……」
「いいよいいよ、気にしないで。相手は?」
銀夜の待ち合わせに遅れるわけにはいかない。そう思った竜也は、一緒に帰るという誘いを断ろうとすると、志津留は何かを察したように声を掛け、電話の相手について質問した。どこか勘違いを受けている気がした竜也は忠告するように答える。
「妹だぞ」
「あれ、そうなの? 彼女じゃ――」
「彼女じゃないから」
やはり勘違いをしていた志津留に、竜也は彼女の言葉の途中で、言葉を重ねて釘を打つ。
彼の言葉を受けて彼女は「なーんだ」とつまらなそうに声を出していた。
「まぁ、そういうわけで」
「あ、ちょっと待って」
身を翻して教室を去ろうとしたところで、竜也は引き留められた。なんだと尋ねる前に、志津留が携帯を取り出して、先に口を出した。
「アドレス交換しようよ。別にいいでしょ?」
「ああ、問題ない」
「じゃ、まずは私が送るよ」
竜也も携帯を取りだし、お互いに携帯をかざし合う。
数秒の後、竜也の携帯画面に徳永志津留の文字とその下にメールアドレス、電話番号が記載される。
「それじゃ、今度は俺が」
今度は竜也が送り、志津留が受けとるようだ。
再びかざし合い数秒。志津留の画面に竜也の名前とアドレス、電話番号が記載される。
「うん……よしっ。ありがとう、椎原くん」
「こちらこそ」
手に持つ携帯をしまい、志津留は本当に嬉しそうに微笑み、お礼を言う。
竜也もそれに応えるように、笑みを浮かべていた。
「急いでる感じだったのに、ゴメンね、引き留めて」
「大丈夫さ。短時間で済むことだったし。それに友達は大切にしないと」
笑みから一転、申し訳なさそうに告げる志津留に、竜也が宥めるように声をかける。
「じゃ、また明日」
「あ、うん、じゃあね」
志津留が再び何かを言い出す前に、別れの挨拶だけ交わして、竜也は教室を出ていった。