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 新しい制服に身を包んだ姿の人たちが賑わう、高校の入学式。

 伝統あると言うほど長くは設立していないが、日本の有名な高校を挙げろと言われたら、恐らく最初にあげられるだろう学校だ。


「私、明日から学校に行きません」


 そんな高校なのにもかかわらず、新しい制服に身を包んだ少女は、突然そんなことを言い出した。

 この言葉が聞こえた生徒は、ぎょっとした表情を浮かべて、そんな言葉を漏らした少女を一瞥しようとする。そして、釘に打たれたかように視線を固定して惚けてしまう。

 気持ちは分からないでもない。

 どこからどう見ても、相当な偏見がない限りは、十人に聞いたら十人全員が確実に美少女と言うであろう容姿の良さ。スカートからスラッと伸びる華奢な足は、驚くほど白く美しい。そして何より眼を惹くのは、腰まで届くというのに一切の乱れがない銀色の髪だ。

 

「入学式当日で、しかもまだ入学式すらこなしていない朝に、お前は何を言っている……」


 そんな人目を惹く少女に、呆れた様子で物事を言う少年がいた。

 

「兄様……だって……」


 どうやらこの少年と少女は兄妹のようだ。

 もしかしたら、少女が少年を慕っていてそう呼んでいるかもしれない。どちらかというと、そういわれた方が納得できる。

 少年の容姿は、少女と比べて平凡すぎるのだ。それに、髪の色も少年は一般の人と変わらない黒色。

 一目見て彼らを兄妹と見分けられる人は、恐らくいないだろう。

 

「だって、どうしたんだ?」

「なぜ私がAクラスに入っているのに、兄様がFクラスなのですか? あり得ません。というかおかしいです! 折角Aクラスに入っても、兄様と違うクラスだなんて、私やっていけません。お兄様との学校生活の理想を崩した、能力者の実力もまともに測れない学校なんて、滅びれば良いと思います」


 追加して、ということで壊してもいいですか? と聞いてきた少女に、少年はつい大きなため息をついてしまいそうになるが、どうにか止める。代わりに手を彼女の頭にぽん、と乗せて優しく撫でる。少女の整った顔がみるみると情けなくも緩んだものに変化していく。


「俺だってお前と同じクラスが良かったさ。けどお前だって本当は分かっているだろう?」

「……すみません、お兄様」

「分かってくれたんならいいんだ」


 そう言ってポンポンと、妹の頭を優しく叩き、改めて、目の前にあるクラスの表を見る。

 

 国立新帝都大学第一付属高校 第一学年クラス一覧


 Aクラス

 ……

 椎原しいばら 銀夜ぎんや

 ……


 Fクラス

 ……

 椎原しいばら 竜也たつや

 ……


 気づくとため息が出ていた。

 実は、この学校(正確には国立新帝都大学付属高校全部)は、受験のときの成績ごとにA~Fにクラスを分けているのだ。

 ちなみに、受験の際に行ったのは、基本科目である国・数・英・社・理の五教科と、能力を図るための実技。後は面接を行った

 採点として、基本教育である五教科を軽んじているわけではないが、能力者の為に建てられた学校なので、大半の成績は実技の部分になる。

 つまりは、Aクラスである銀夜はトップクラスの能力者、Fクラスである竜也はワーストクラスの能力者ということだ。

 元々、竜也は妹との差を前から分かってはいたのだが、こう改めて突き詰められことで、少々憂鬱になってきていた。


「……所詮は失敗作ってところか」


 気付けばそんな風に、自分のことを自嘲していた。

 そんな竜也の言葉を聞き、銀夜は必死な様子で言い返した。


「そんなことありません! 実際、兄様が本気を出したのなら――」


 だが、それ以上は言ってはいけない内容。

 竜也は人差し指を、銀夜の口に持っていって続きを言わせないように止める。そして、銀夜が何かを言う前に、先に口を開く。


「もしかしたら、そうなのかも知れない。だが、それをやってしまうのはダメなんだよ。俺のリミッターは人とは違いすぎるからね」


 銀夜はその竜也の言葉に対して、何かを言い返そうとしたが、それが口から発せられることはなかった。


「それじゃあ、そろそろ、入学式の会場に向かおうか」


 竜也の言葉に銀夜は頷き、半歩後ろを付き添うようにして、学校の中に入っていった。




☆ ☆ ☆




 やはりと言うかなんと言うか、この二人の兄妹は異常に目立っていた。正確には妹だけかもしれないが。

 歩くたびに揺れる銀色の髪は、周囲にいる人たちの視線を集め、その容姿を見たものは、その姿を忘れることはできなくなるだろう。そのくらい強い印象を受けるほど、その彼女は美しかった。

 そして、その少し前を、彼女をまるで守るかのように歩いている彼には、突き刺さるような、そんな視線が送られていた。

 容姿は平凡。見るからに彼女と比べて見劣りする。そんな彼にも視線は向けられていた。

 言うまでもなく、嫉妬の視線。

 そういう意味では、やはり二人ともが目立っているようだった。

 そんな視線にいい加減うざったくなってきた頃、ようやく入学式の会場である体育館にたどり着いた。

 A~Fの字が書かれたボードを持っている教師が前に出て並んでいて、各クラスの看板を持っている先生と向かい合う形で、椅子が横二列で並べてあった。


「どうやらここからはバラバラみたいだな」


 竜也が状況を確認してそう言うと、銀夜は明らかに嫌そうな顔をする。一緒にいたい、離れたくないという想いが、目に見えてわかる。だがそうするわけにはいかない。

 ここに来た大きな目的のひとつは、銀夜のこの異常なまでのブラコンを治すことだ。甘える程度ならまだいいのだが、これは度合いを超えていると竜也は思っている。

 

(こいつは本当に学校でやっていけるのか?)


 普通とは違う生活をしてきた二人にとって、学校というものは不安要素の方が多い。特に銀夜はその色が濃い。彼女はその容姿のあまり目立ちすぎている。今のところは、良い方のベクトルで見られているのでいいが……面倒事は自分ですでに持ち込んでいるので、これ以上裏目にでることだけは避けたいとしみじみと思う竜也。


「またあとでな」


 彼女にとっては少し酷かもしれないが、竜也は返事も何も聞かないまま踵をかえし、自分の向かうべき座席に足を運ぶことに。後ろから微笑ましく感じる程度の恨めしい視線を受けたが、彼女のためと思い、振り返らずに足を進めていった。


 竜也が座席に着く頃には、人は少なかった。まだ時間的にも余裕があったので、竜也は椅子に座り背もたれに背中を預けてゆったりと座る。肩に力も入れずに、リラックスしているところを見ると、緊張をしているという感じは全くないように思えた。

 実際、彼は緊張などしていなかった。どちらかというとハラハラしていた。妹が何かやらかしてしまうんじゃないか、逆にされるのではないかと。

 

(とはいっても、あいつは何かをされない限りは、なにもしないはず)


 自分の頭できっと大丈夫だろう、と締め括ったところで、隣の人がやって来て席についた。

 いかにも人気が出そうな顔、それに活発そうな感じだな……というのが彼女に対する竜也の印象だった。

 そんな彼女が、いきなり「ねえ」と彼に話しかけてきた。

 なんだろうか? もしかして何か気の触ることをしたのだろうか? そんなことを考えながら首をそちらに向ける。


「なんかこういうところって緊張するよね」


 そんな考えを巡らしていた竜也だったが、どうやら杞憂に終わったようだ。ただ単に彼女の性格上黙っていられなかったというだけかも知れない。


「全くそうは見えないけど……」


 こういう場でいきなり話しかけてくるところやその声音からしても、達也からすれば全く緊張しているようには見えなかった。


「あはっ、そう見える?」

「少なくとも、自分からみたら」

「ま、確かに緊張と言うよりは、これからに対するわくわく感のほうが大きいけどね。君はどう? 緊張してる?」

「そこまでは」


 彼女の質問に竜也は肩をすくめて答えてみせると、その仕草に彼女は笑みを浮かべた、かと思うと「あっ」と何かを思い付いたように声を出す。


「そういえば、自己紹介がまだだったよね。私は徳永とくなが志津留しずる

「俺は椎原竜也。クラスメイトとして改めてよろしく、徳永さん」

「こちらこそだよ。椎原くん」


 二人はお互いに名前を確認するように呼び合い、笑いあった。


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