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 風紀委員長である彼女、渋谷七海がそれを知ったのは昼休み開始直後のことだった。

 風紀委員長として渡されている、能力者が無断で自身のリミットを解除した際、知らせてくれる機械に反応があったのだ。

 ちなみにこれは、入学当初に登録した学生章の機能の一つである。

 昼休みの際であれば、またか……と彼女は思ったことだろう。昼飯のための購買での争いが異常に発展して、なんてことはよくあることなのだ。

 だが今回は昼休み前。

 回転の速い七海の頭に浮かんできたのは、新入生の学校見学だった。

 入学早々事件を起こす輩は、少し懲らしめないとな……

 そんなことを考えながら、委員会の見回りの際に必ずつける、風紀委員を証明する腕輪を慣れた動作で装着し、一刻も早く現場に向かう。


 彼女がそこで目にしたのは、予想通りではあるが異様な光景だった。

 一目見れば窮地に立たされていると言ってもおかしくない筈の男子生徒。逆に能力を使い絶対的有利に立っている筈の男子生徒。

 だが、見て取れる様子は全くの真逆で、前者は無表情で今にも攻撃をしようとしている男子生徒を観察するように見つめ、後者はその視線に怯えているように、頬が引きつっているように見えた。

 そして決意めいたように攻撃を仕掛けようとした瞬間、彼女は張り付くような寒気を感じた。気付いたときには、リミットを解除し自身の能力である『テレポート』を使って攻撃を仕掛けた男子生徒を守るために、一瞬で間合いに入り、取り押さえた。




「うがぁッ!」

「動くな!」


 竜也に向かって能力を使っていた男子生徒を取り押さえ、凛とした声が廊下に響き渡った。

 腕に付けられている『風紀』と書かれた腕輪が、両者の目に嫌でも入る。

 言わずと知れた風紀委員。

 今回のように校内で校則違反者が場合ならば実力行使、つまりは自身の能力を使って校則違反者を捉える事を許可されている人物の集まりだ。相手との戦闘も考えられているため、その個人の力量は学校内の影では特Aと言われている人ばかりが所属している。

 新入生にとって目を付けられるには荷が重い人物。

 抑えつけられている男子生徒を見れば、血の気が引いたような青ざめた顔をしている。


「言い訳は聞かない。ついてきなさい。貴女も目撃者としてきてもらえるかしら?」


 一瞬の現場しか見ていない彼女は、攻撃を仕掛けていた男子生徒はもちろん、何をするでもない竜也にも牽制を聞かせながら、有無を言わせない冷たい声音で指示を出す。


「ちょっといいですか?」

「……なんだ?」


 そんな七海の言葉に怯む様子も見せずに、竜也は申し訳なさそうな様子を作って、振り返って歩き出そうとする彼女に声をかけた。

 七海は顔だけを動かし竜也を威圧するように睨みつけながらも、竜也の言葉に耳を貸す。


「出来れば今はやめてくれませんか?」

「ハァ?」


 自分が今さっき言った言葉をまるで聞いていなかった様な竜也の言葉に、七海は思わず何を言っているんだとばかりに声を上げる。竜也は気にすることなく次いで言葉を加える。


「今はってだけです。放課後なら構いませんから。友人が席を取って待ってくれているので……」


 七海は竜也の言葉に毒気を抜かれたような感じがした。

 どこしれない圧迫感を受けた彼が、こんな理由を取ってつけてくるとは思いもしなかったのだ。


「その人たちには申し訳ないけど、学校の規則として現場で起きたことはすぐに処理することになってるのよ」


 だからと言って彼女の考えが変わることはなかった。あくまでも委員長としての姿勢を崩すことはしない。


「そうですか……ならせめて、連れていくのは自分だけにしてくれませんかね。そこの彼にも聞けばわかると思いますが、彼女は関係ないので」

「えっ!?」

「いいだろう。彼女に関しては巻き込まれただけのようだし、強制する理由はない。まぁ、彼女が行きたいというなら話は別だが」


 七海はそう言いながらチラッと彼女の様子を伺う。いかにも行きたそうな雰囲気を醸し出して彼に訴えている。

 それでも反応を示さない彼に、ついには声を出してアピールしていた。


「私は一緒に行きたいんですけど……」

「悪いが、銀夜はあいつらの所に行ってくれ」

「……分かりました」


 竜也の命令的な言葉に、銀夜は不貞腐れたような顔で渋々と頷き、名残惜しそうに兄の方を伺いながらも友達の元へと走っていった。


「話は済んだかしら。それじゃ、ついてきなさい」


 さっきと比べれば落ち着いた声音で、七海は彼らに声をかけた。 



☆ ☆ ☆



 竜也が連れて行かれた場所は、指導室Aというところだった。

 指導室は二つあって、一つは風紀委員が見回りで違反者を見つけた際に使われる部屋。もう一つは先生の目に余った際に使われる部屋だ。

 どちらにしても、ふつうに生活してれば縁がない場所である。そう言う意味では、竜也は貴重な体験をしているのかもしれない。

 中はかなりシンプルで、真ん中にテーブルが出され、周りにソファーが置かれている。

 そしてそこには先客がいた。

 竜也の知っている、というよりはこの学校の者であれば誰もが知っているだろう人物だ。

 名前は進藤真美。この学校の生徒会長である。


「どうしてここにいるのよ?」

「うーん、いきなり悪さをする新入生の顔を見たかったからかなー」


 驚き半分呆れ半分で七海は尋ねるが、人差し指を口元にあてながら、本気なのか冗談なのか分かり辛い答えが真美から返ってくる。

 役職的に関わる機会が多いが七海は彼女のことがあまり得意ではない。


「私のことは気にしなくていいから。どうぞ仕事に集中してくださいな」

「言われなくてもそのつもり。二人はそっちに座れ」


 ある種のポーカーフェイスのように、にこにこと笑顔を浮かべながらそう言った。

 だが、その言葉通りに気にしないでいられるのは、当の本人だけだろう。

 あきらめたように息をつき、七海はソファーに座るよう指示を出す。

 竜也と能力を使っていた男子生徒はその指示に従いソファーに腰を下ろす。

 ちなみにもう一人の生徒は、竜也によって気絶させられていたため、保健室に運ばれる羽目になりここにはいない。


「それじゃ、話を聞かせてもらおうか」


………………


…………


……


「まとめると──」


 特に隠すこともないため、起きた事実をそのまま告げた竜也。七海はそれを復唱するようにして確認する。

 過剰表現をするでもなく、相手を悪く仕立て上げることもせず、事実を淡々と語っていったため、もう一人が口を挟むことはなかった。と言うよりはできなかったのだが。第三者という名の無関係者である真美が、竜也が語る中で、すごーいとか、あぶなーいとかいうことはあった。そのたびに七海がピクピクと反応していたのは、言うまでもない。


「──っていうことか……」


 起きた出来事を確認し終えた後、七海は大きく息をついた。


「別に軽めの罰でいいんじゃないかなー。新入生なんだし。トイレ掃除一週間とか」

「口出しするなと言いたいところだけど、それが妥当な案か。よし、今回の罰はそれに決定。これから一週間トイレ掃除。もしさぼったらやる日数を倍にするから。絶対さぼらないように、いいな?」

「「はい」」

「よし。君は帰っていいぞ」


 その言葉に二人同時に立ち上がる。


「君は残ってくれ、椎原くん。話がある」


 だが、その言葉によって竜也は固まってしまった。声をかけられなかったもう一人は、そそくさと部屋を出ていった。


「まぁもう一回腰掛けてくれ」


 なんか面倒なことが起きそうな気がする。竜也はそう直感した。

 こういう時の予想は大抵は的中するのが竜也の常である。


「それで、なんですか?」


 竜也は出来るだけポーカーフェイスを貫きながら、七海に尋ね、次の言葉に耳を傾けた。

 七海は竜也の顔を見て一瞬迷う仕草を見せたが、すぐにそれを口にした。


「……君、風紀委員に入らないか?」


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