―魔族の詠う、地の…
―魔族の詠う、地の果て―
地の世界の魔族の王は、この世界の中枢、地龍の心臓を喰らいながら、深き地の底に眠っている。
それを眠らせ―その魔族の王剣を封じ―この世界を都合よく維持するために、闇黒の、黒く染まる質量を使い、闇黒の詠唱を続ける、魔術士の女―。
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勇者を覆う闇黒の光は―。留まる空気を切り裂き―ながら。その軌道をあらぬ方向に曲げ、天井を破壊し、消滅する。
歪曲―。何かの、重力―。この場の熱、この熱さは―。
「理の礎たる巨星―汝は地を回り―生命育む園に―その炎天をもって―焦がれ―」
膨大な熱と質量が詠唱者の影を岩壁に映す。幻覚。―幻覚。
いつの間にかすり替えられた魔人の詠唱。
「―落漠の抱陽剣―天地を愛し―そは抱きすくむ生命焦がす―」
陽炎が―洞窟内を焦がし―燃える空気が、意識を乱し、ライブラリも機能を停止し、落漠の熱に勇者は倒れた。
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弦なき半月の弓を使う、葬送鳴弦士―アウリュ・サイ・ウェスタンハイドは―まだ若く、中性的な黒の狩猟着の女は、三十年近く前のことを思い出す。
かつてこの世界はさまざまな世界へ門を開いていたこと。
門―息吹を越え、ある日やってきた砂髪の男。彼を追ってきた闇黒―魔族。
魔族の側につき、その闇黒を広めたものたちと、魔族を倒すためともに戦った仲間たちのこと。
商人だった男、ノームの僧侶、重装騎士、炎の魔術士、十二の仲間―その末路。
結果、総ての門は閉じられ、どこからも切り離されたはずのこと。
あの砂髪の男。その名は果てしなく遠い、陰鬱な国を指す言葉で―。