表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我が属性はTERRA  作者: 鬼明或呑
~第四章~ GNOMES SPIN TEMPEST 前編
36/52

「ガラハ・サイ・イ…

「ガラハ・サイ・イーストエンド。魔族の側に立つあいつと、お前は再会することになる―酷な戦いになる」

 老人たち、かつての勇者と侍は裏町の酒場で杯をいくつも重ねる。

「ガラハを退け、都市の中枢についても―奴のところまでいけるのかね? 」

「そうだな―」

 侍は魔族の王、ヘルクレウスを奴と気安く、なれ合いをこめて呼んだ―。

 二人は、出発までの時間に、過去を思い返しながら過ごすことにしていた。

「月の静寂。他に何もない、月の大陸、片割れ―」

 かつての勇者はガラハと呼ばれた黒衣の詩人を、アウリュの生き写しの女を思い返す。あの暗い笑顔。その時。

「あんなものは土塊、がらくたさ―半身でも何でもない」

 酒場の入り口から黒の狩猟着が―アウリュ・サイ・ウェスタンハイドが現れ、話に割って入った。

「アウリュ」

「見かけたよ―アイツを」

 アウリュは―女は、カウンターのウドゥンの横に座る。

「黒猫の姿でさ、もう、昔の力は残ってないらしい。皆老いた。歳をとったのさ」

「アイツを、見たのか? 」ルルイエは聞き返す。

「一応の飼い主もいるんじゃないかな」

「ううむ。豹ではなく? 」

「かわいい恋人を―イヌハ、か。ヴィクトリオのところの猫を連れて―あの猫はあれから三代目、だったか。まあ、アイツの考えなんて、私よりも―他の誰よりも、分かりはしないさ」

 さあ―呑もうか。

 アウリュは杯を頼み―バーテンがその若い、十代の容姿を不審がるが―。

「―歳だよ。事情でね」

 バーテンは訝ったが―アウリュの前にグラスが来た。

 ルルイエは火酒を重ねながら、隣のウドゥンとアウリュを見るが―ウドゥンは鯰を肴に、アウリュは店を眺めて―二人は目を合わさない。もう、あの頃には戻ることはない。

「ウドゥン」

「なんだ」

「私は行けない。―行けないよ」

「分かっている。お前はヴィクトリオと、かの娘ら、街を守れ」

「もう、最後には―するな」

「そうかな」

 ウドゥンは口を拭き、応える。

「TERRAの奥義。完成も未だ見えず。だが、奴を倒した時。我々の過去も終わる。旅も、無為な時間も終わる」

「終わらないさ」

 アウリュがそらんじて

「勇者ストレイトス。わざわざ魔族が三千世界に呼んだ、あの青年。あの鳥人の娘と、これからいくつも世界を越え、いつか、たどり着く。どこか安らかな、彼らの居場所に」「彼に、教えてはどうだい? 」

 TERRAの奥義。老人がひたすらに求め、身を沈めんとした―魔術。

「どうかな―」

 ウドゥンは過去を思い返す。ミドガルダルではない。はるか昔、中つ国―ウドゥンでの記憶。陰鬱な街で、やがて他の世界を望んだこと。十で門を越え、越えた先で、地の、忘れられた魔術に同調したこと―。

 かつての追憶。やがて仲間を得て、いくつもの世界で過ごし、ヘルクレウスと出会い、あれから二十年の時を経て―ミドガルダル。魔族はヘルクレウスを欲し―岩の大剣に集った12の仲間。だが、彼らはいつか去り、砂嵐が世界を覆い―三十年の無為な時間。その時間も―決着と共に終わりがくる。

 老人たちとアウリュは、杯を重ね、暗い酒場の空気を吸い込み、匂いと風に酔う―。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ