「ガラハ・サイ・イ…
「ガラハ・サイ・イーストエンド。魔族の側に立つあいつと、お前は再会することになる―酷な戦いになる」
老人たち、かつての勇者と侍は裏町の酒場で杯をいくつも重ねる。
「ガラハを退け、都市の中枢についても―奴のところまでいけるのかね? 」
「そうだな―」
侍は魔族の王、ヘルクレウスを奴と気安く、なれ合いをこめて呼んだ―。
二人は、出発までの時間に、過去を思い返しながら過ごすことにしていた。
「月の静寂。他に何もない、月の大陸、片割れ―」
かつての勇者はガラハと呼ばれた黒衣の詩人を、アウリュの生き写しの女を思い返す。あの暗い笑顔。その時。
「あんなものは土塊、がらくたさ―半身でも何でもない」
酒場の入り口から黒の狩猟着が―アウリュ・サイ・ウェスタンハイドが現れ、話に割って入った。
「アウリュ」
「見かけたよ―アイツを」
アウリュは―女は、カウンターのウドゥンの横に座る。
「黒猫の姿でさ、もう、昔の力は残ってないらしい。皆老いた。歳をとったのさ」
「アイツを、見たのか? 」ルルイエは聞き返す。
「一応の飼い主もいるんじゃないかな」
「ううむ。豹ではなく? 」
「かわいい恋人を―イヌハ、か。ヴィクトリオのところの猫を連れて―あの猫はあれから三代目、だったか。まあ、アイツの考えなんて、私よりも―他の誰よりも、分かりはしないさ」
さあ―呑もうか。
アウリュは杯を頼み―バーテンがその若い、十代の容姿を不審がるが―。
「―歳だよ。事情でね」
バーテンは訝ったが―アウリュの前にグラスが来た。
ルルイエは火酒を重ねながら、隣のウドゥンとアウリュを見るが―ウドゥンは鯰を肴に、アウリュは店を眺めて―二人は目を合わさない。もう、あの頃には戻ることはない。
「ウドゥン」
「なんだ」
「私は行けない。―行けないよ」
「分かっている。お前はヴィクトリオと、かの娘ら、街を守れ」
「もう、最後には―するな」
「そうかな」
ウドゥンは口を拭き、応える。
「TERRAの奥義。完成も未だ見えず。だが、奴を倒した時。我々の過去も終わる。旅も、無為な時間も終わる」
「終わらないさ」
アウリュがそらんじて
「勇者ストレイトス。わざわざ魔族が三千世界に呼んだ、あの青年。あの鳥人の娘と、これからいくつも世界を越え、いつか、たどり着く。どこか安らかな、彼らの居場所に」「彼に、教えてはどうだい? 」
TERRAの奥義。老人がひたすらに求め、身を沈めんとした―魔術。
「どうかな―」
ウドゥンは過去を思い返す。ミドガルダルではない。はるか昔、中つ国―ウドゥンでの記憶。陰鬱な街で、やがて他の世界を望んだこと。十で門を越え、越えた先で、地の、忘れられた魔術に同調したこと―。
かつての追憶。やがて仲間を得て、いくつもの世界で過ごし、ヘルクレウスと出会い、あれから二十年の時を経て―ミドガルダル。魔族はヘルクレウスを欲し―岩の大剣に集った12の仲間。だが、彼らはいつか去り、砂嵐が世界を覆い―三十年の無為な時間。その時間も―決着と共に終わりがくる。
老人たちとアウリュは、杯を重ね、暗い酒場の空気を吸い込み、匂いと風に酔う―。