「ノーム、ノームで…
「ノーム、ノームですか。聞いたことは―昔、ストイレトスに聞いた、その耳は―熊? 穴熊? 」
「もう。失礼だなあ。この耳は古き地霊の、精霊と人が共にいたころからの、小生が祖霊から受け継いだものなんだからね! そもそも教義において、四大精霊は」
「でも―なんだか変で」
鳥人の少女、イリスはノーム族の娘、オレリアの耳を引っ張ってみて―獣毛をなでてみて、オレリアをくすぐらせた。
昼を迎える湖畔は、商隊の運んだ交易品に、市場はにぎわいを取り戻して―護衛のエイリと勇者ストレイトスをお供に、イリスとオレリアは街に出向き、お互いを変だ、変だと言っていた。
オレリアは商隊の猫、イヌハを連れていて―イリスは猫を見るのは初めてに近く、猫の耳と比べて―熊耳もいいなと思った。
「もう、触るなっての。小生の、僕の耳より、君の背中のが変だよ。見たことないもの」
「背中―これは」
「ねえ、そんな大きくて邪魔じゃないの? 」
「私の羽根は―邪魔ではないですけど」
「羽根っていうんだ。何のためにあるんだろう。体温調節? 」
「飛ぶため、ですけど。羽根を知らないのですか? 」
「跳ぶ―ちょっとその場で跳ぶのに必要なの? 」
「いえ、これは―」
「変なの」
「変なのですか? でも―」表情を暗くしたイリスは背後のストレイトスを振り返ったが―少女の勇者は鎧を選ぶ女、エイリに付き合わされていて―少女は立ち止った。ストレイトスと話すエイリのことが気になって―オレリアにエイリのことを聞いた。
「あの方は、どういう」
「エイリ? エイリは僕の護衛と―教育係で、厳しいけど、けど」
オレリアは振り向き「地霊信仰を語らせたら、僕が―勝つね」
「にゃー」
イヌハの返事に気を良くしたオレリアだが、猫の声は遠くで―同意したわけではなさそうだった。
イヌハは白猫だが、その眼は黒猫を見つけ、追いかけて―雑踏に入って行った。
エイリが鎧を決め、宿に届けるようにして、ストレイトスとエイリが気付いた時には、少女たちの姿は―なかった。
こうして、勇者たちと街中を巻き込むことになる、ノームと鳥人の、嵐の一日が―始まる。