幕間劇―FIERY
炎の槍斧。かつての魔法体系の遺産であり、振れば炎を帯びる。かつて12騎士の一人が振るった、その切っ先、刀身に窓から入る陽光が反射し―女の顔を照らした。
宿の自室にて。女は蒸し暑い中、意識は過去をさ迷い―子供の頃へ向かっていた。子供の頃、ある少年を家に招き遊んだ時のこと。
女は母の部屋に忍び込み、水晶やさまざまなものを引っ張りだし、見せていた。けれど少年はすぐに飽きて、女を、少女だった女をよく外に連れ出して遊んでは、帰るのが遅いと少年の義母に怒られて―厳格な僧侶だった彼女に何度も泣かされては、少女は少年を恨んでいた。なぜ、彼がノーム族の集落を抜け、自分のところに来るのか聞いて―。
昼頃。女は、重い、ヘヴィ・ランサーがまとう鎧を―今は台座に立てかけてある―甲冑を眺め、傷みだした関節部や胸版にこびりついた残さを見て―鎧を新調することに決めた。身をかがめ点検していた上体を起こし、隣の台座に視線を向ける。
炎の槍斧。槍斧は、少女が父親から受け継いでから、何度も砥ぎ直し、修繕してきて―。
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朝食と兼ねた昼食を取りに部屋を出たエイリを、黒の狩猟着―いつも黒だ―アウリュが呼び止め、商隊がついたことを知らせる。風の絶えた都市はここから遠く、なぜ、ここに商隊が来るのか訝るエイリにアウリュは、「君の身柄を預かったといったのさ。簡単だったよ」
そう言って、早く行くんだと促した。
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市場に商隊の者を見つけ、エイリはよく知る隊の衛兵―かつての同僚に声をかける。同僚が奥に行く前に、彼女の雇い主、そして腐れ縁、夢に出た少年―ヴィクトリオが顔を出した。耳は獣毛をなくし、下に向かい尖っている。成長したノーム族の耳だ。
「エイリ、生きていた、あの女の言ったとおりだ、いや、見事なボディに、その相貌は―」
少年は肉がつき、家庭を得ていて―その娘が顔を出す。
「エイリ? 」顔を出した女の子は、猫を抱いた手を離し、エイリに走り寄り―泣き出す。
女の子は―少年の娘は、エイリが幼少期から見守り、守りとおしたものだ。
「エイリ、小生が、僕が起きたときには、エイリはいなくて、もう、もう、会えないと、寂しくて―心配で」
女の子に胸を貸し、エイリは少年の、ヴィクトリオのあの時の答えを思い返して―。
胸に、暖かな熱を、覚えていた。