何処だ、ライブラリ…
何処だ、ライブラリ―。ここは、何処だ?
「ここは千と19つ目―地龍の心臓―接触不可な、危険すぎる相手が―強制転移を―」
駄目だ。イリスが。「イリスは何処だ!! 」―背後に敵影!
「何―」振り向く勇者の剣の先には―歪な、その―。
~
勇者の後方から迫った異形。皮膚らしきものを持たず、赤い筋肉、内臓? に、黒い筋が走り波打つ。右手には肉体と同じような戦鎚を持ち、胸部? には紅い心臓が鼓動する。
勇者に告げる、ライブラリ、警報―。ここは地龍の心臓。奴は魔族の王。ヘルクレウスとやら。ですが、何かが、何かが、違う―そう告げるライブラリに勇者は問い返した。
「イリスは、何処だ。何処にいる―」
同一の世界。ここから約700メートル。彼女と合流し、強制転移を―。
強制転移。空間を越える魔術を勇者は使えるが―。
「駄目だ」何処に行くかは分からず―転移すれば、もう、還る見込みはない。勇者が守る少女の故郷、風の王宮にはたどり着けない。旅の意味がなくなる。
「―来るぞ! 」ヘルクレウスの左手に黒き光が集まり―床を蹴り、ストレイトスは少女の元に走った。
~
「どこなのです、ここは―? 」
白磁の床。高く、見通せない天井。どこかの王宮の様な意匠。イリスは少し羽ばたいてみせ―飛び上がり、周囲を見渡す。遠くから騒音が聞こえる。鳥人の娘、イリスは通路から顔を出してみて―それを見つけた。
門。
あの黒衣の女が開いたのと同じ、空間の裂け目。
「あの先には、また別の―」世界がある。
「ここはどこ―ストレイトスはどこなの―? 」
白磁の床。王宮のような。門の前でイリスが勇者の名を呼んだとき。爆発音が聞こえ―通路から名を呼ばれた勇者が現れ、背後から少女を抱きとめた。ヘルクレウスの左腕を剣で受け、身を翻す。
ヘルクレウスの異形に恐怖した少女を背に、魔族の王に一振りの刀を勇者は向け―折れたハイパー・ダガーを捨て、結論に達した。―魔族の王剣。勇者が持つ、2万7000のアビリティの中、切り札としてきたもの。一閃。
闇黒の光を勇者はまとい―背後の少女はその光に過去を思い起こされ、恐怖の声を上げた。光を解いた勇者が少女を振り返ったとき。ヘルクレウスの左腕が勇者を貫く! 剛腕は勇者と少女を背後へ吹き飛ばし、拳は止まらず背後に開いた門を貫通し、世界を越える―。