世界の境界を抜け、…
世界の境界を抜け、千と18つ目。この土地には創世よりついに文明を迎えず、したがって名をもたず―。誰もいない世界。ここは忘れられた世界。ここは―。
「―ロストワールドか」
青年の問いに無粋な声はそうだと応え、黒衣の女が開けた門―ミドガルダルへの門が閉じるまでの時間を告げ、消える。
ストレイトスは久々の星空を眺めていた。
イリスは、湖の岸辺で魚を注意深く眺めていたが、魚に瞳がないことに気づき、驚いてストレイトスのそばに走り寄ってくる。ストレイトスはイリスを抱きとめる。
―気にくわなければ、戻るがいい―。そういった女、アウリュはストレイトス達二人の望む世界へ着くといったが―。
「騙したな、あの女」
「いいえ」
イリスは、「―私のせいです。私は、あなたの故郷へと、そう、望んでいましたから」
~
「この世界は、滅びるのですね―」イリスは空を見上げて言った。
雲が―ミドガルダルにはない雲が、渦を巻いて、ゆっくり、ゆっくりと、湖の中心に束ねらていく。星と衛星と―空の銀の星は、少しずつ姿が小さくなり―遠くの星から消えていく。
ヘルクレウスの王剣に呑まれ、この土地は静かなまま、やがて世界から消えていく。
「何故―」
「ストレイトスの故郷は―どんなところなのです」言葉をさえぎりイリスは訪ねた。
勇者、ストレイトスは越えた数多の世界をイリスに語ったが、故郷のことは語ったことがない。
「貴方は、勇者は、どんな環境に生まれ、そしていつ、異世界に来たのですか」
「つまらない話だ。何故―」
「なぜ、ですか」
少女は―聡明な、風の王宮の姫―彼女は、
「勇者ストレイトス。彼は、たくさんの世界を越え、いくつもの冒険をし―でも、彼が見ているのは、いつも彼の故郷でした。私は、そんな彼の大事な世界が見てみたかった」
「何故だ、イリス。帰ることができたのに」
「帰りついても―」貴方はどこかに行ってしまう。別の世界に―消える。
星灯りは遠く、遠くなり、空の雲は束ねられる速度を上げ―雲は湖の中心に集中し、空間がきしみ始める。
現れた異形のものに勇者が二振りの剣を構えた時。
空間を呑み込む魔族の王剣が景色ごと二人を呑み込み―。