夜を通して。ストレ…
夜を通して。ストレイトスはイリスに説明し、承諾させて―。
朝。あの女の話に乗ることに決めた。風の王宮に還る。
「あの方、あの黒衣の方―信じて、よろしいのですか? 知らない人について行っては―危険なのですよ? 」
「分からない、素性も何も―何故ここに来たか、ウドゥンが教えたのか、僕のことがばれたのか。だけど、嘘かどうかにしろ、還る手だてがあるならば―」あの女の術に乗る。
「でも、よろしいのですか、ストレイトス。これは貴方にとっても機、なのではありませんか? 」
あの女が魔族の術によって門を開くというのならば、ストレイトスはついに故郷に帰れる。その目がある。だが―。
「いいんだ。僕はイリスと風の王宮に還る」―さあ、一度寝なおして、それから仕度をしよう。ストレイトスの表情は吹っ切れていて―。
午後三時。街の者に見つからずに街のそばの鍾乳洞に来い。場所は―見えているだろう。勇者よ。
女の言葉を思い出し、門を越える前に、ルルイエにウドゥンや黒衣の女のことを聞くことに決めた。
~
遅い朝食を取りに来た二人はウドゥンのいぶかる視線に会い、イリスはバツが悪そうに黙々と食べ、やがて部屋に戻った。ウドゥンを避けるストレイトスの視線はルルイエの姿を認め、彼に話しかけ、ルルイエの部屋に入り、扉を閉じる。
「何か用なのかね」
窓際に立つルルイエに、ストレイトスは、
「ウドゥンの素性を教えてください」直入に言った。
「君は、何も知らずに彼についているのかね? 」
「あのものは肝心なことは何も語りません。何かを隠している。門―息吹を研究しているというのも、あれだけの術の展開も、何か理由がある。失礼ですが、貴方と彼は―何を知っているのですか」
場を沈黙が包み―やがてルルイエが重そうに口を開く。
「君が知る必要は―ない。若い世代には、もう、そういうものだと、認めさせるしかない」
「昨日、部屋に女が来て―何もかも知った風だった。あの女は異世界を語り、僕の素性に気づいていた。ウドゥンは外世界との門を研究しているといった。貴方は、あの女や、ウドゥンと―」
どこから来たのですか?
「君は―」
「無礼を知った上で質問をしています。ただ、僕も、イリスも―異世界から来た。ウドゥンは、中つ国から来たと名乗った。あの女も含め、地平の果ての砂の嵐、この世界の魔族。息吹。僕らは、知る必要がある」
「私は、この湖畔の、街で、生まれ育ち―」
―12騎士という者がいた。いつか、砂嵐が世界を覆ったころ。彼らは魔族と戦い、人びとの期待を集め―やがて戦いの意味を失い、皆離れて行った。
「ウドゥンと共に、私は侍として名を上げ―砂嵐は消えず、何かに立ち向かう強さもなくした」
そう言ってルルイエは話を打ち切る。以上だ―。
「いつか、君も―分かる」
~
「よくきたね―」
薄い灯りの中、昨夜、青年と少女の部屋に来た黒の狩猟着の女は、湖畔のそば―湖ともつながっているのだろうか―暗い鍾乳洞の中へと、ストレイトスとイリスをいざなった。
「パラケルススを知ってるかい? 」
アウリュはそうとだけ言い、返事も聞こうとせず、灯りも持たず洞窟の闇の中をすいすいと歩く。
地下へと―。
アウリュとストレイトス、イリスはやがて奥深くへとつき、無理に開かれた世界の門―息吹の前にたどり着いた。
「行先は決めてきたかい」
世界を越え、勇者は少女と風の王宮に還る。そう少女に承諾させ、ここまで連れてきた。
「かまわないなら、歩を進めるがいい」
二人は手をつなぎ、同時に門を越え―やがて二人が消えた後、門を残し、振り返ったアウリュの前に砂髪の老人が姿を現した。