部屋に着いて。愚図…
部屋に着いて。
愚図るイリスに就寝の準備をさせ、宿の部屋の備え付けの浴槽に湯を張り―ストレイトスが風呂場から出た時には、イリスはもう眠りについていた。旅に疲れたのだろう。寝巻にも着替えずに。
少女の寝顔はどこか楽しげで、夢の中、ウドゥンやルルイエと話しているようだった。
ルルイエ。彼はどこか少女の父親、ストレイトスの何十人目かの親友、風の王宮のラファエルに、どこか雰囲気が似ていた。
ウドゥンの昔を知るあの男に、街を出る前にウドゥンの素性を聞かねばなるまい。何をして、何を知っているのか。応えるかどうかは二の次だが―。
そこまで考えた時、部屋の窓をたたく音がした。―風か? 今日は風が強い。
ストレイトスは窓を見やり―黒衣の者を認め、二振りの剣を抜き払った。
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「ふむ。君は本来左利きだが、剣は右に直してある」「ハイパー・ダガ―に、銘刀紐育。だが、勇者には、もっとふさわしい装備があるはずだ。そうだろう? かの聖剣、エクスカリバーのように」
―何ものだ、この女は? 剣を構えるストレイトスの逡巡を前に、黒の狩猟着、アウリュ・サイは鍵を壊し、室内に押し入る。
―この女は何を知っている?
「ウドゥンの知り合いか? 」
「少女が起きないうちに話を済まそう。君は異世界に来て―生まれた世界を離れて、どのくらい経つ? 」
それは―すぐには答えられなかった。勇者ストレイトスのたどってきた世界群は時間軸も違い、ストレイトスは自分の歳を知らない。
戸惑う勇者に、彼の意識下で冒険の記録、ライブラリが179万5555時間、24分と約31秒です。勇者よ―と答えた。
アウリュが、「君も―持っているのだね? 冒険の書を」
ストレイトスと冒険の書のやり取りを―見てとった。
「帰る気はないかい」
「何? 」
「門を呑み込み世界を一点に集める魔族の王剣―ヘルクレウスを世界から切り離しても治まることを知らず」「総ての世界に通じる魔族。彼らに、寺院の老人どもはある依頼をした」
話し声に目を覚ましたイリスが眠い目をこすり、ストレイトスの姿を求め―黒衣の女に気づき、青年の後ろに隠れる。
「おびえなくていい。君も、もうすぐ―帰れるのさ。故郷に」
明日、門を開く。午後三時。帰りたければ、誰にも見つからず街のそばの鍾乳洞に来い。
そう言い残し、青年の躊躇を突いて、女は窓から闇に消えた。