やがて夜は半分を過…
やがて夜は半分を過ぎた。都市の中心市街。死者の群れの中を泰然と歩いてきた、黒の―狩猟着。
「久々だね―」
黒衣が声をかけた相手は、鋼をまとい強大化した重槍斧を胸にかまえ、鈍い色の光砂を放ち、狩猟着と対峙する、鋼の楼閣―エイリ・ダンターダ。
「詩人―お前がこの夜を創ったのか。寺院の―僧籍だな? 」
黒衣―死者の中に歩を進め、月の詩吟をささやいていた影は―「防御と治癒の詠唱を唱えながら、反撃だけに集中し、一撃で敵を深くえぐる。多勢相手にはいいかもしれない―」エイリの問いに応える気はなかった。
「死者が襲った人びとのなかには、寺院を信仰する者もいた」
「いさましい―」
「人びとの喜捨で成り立つ、この都市と人びとを守るべき寺院が、何故こんなことをする―答えろ! 」
黒の狩猟着は―建物の陰で見えぬが、表情をゆがませたそぶりを見せ―ついと顔を上に向けた。空に目をやり、ささやく。
「形成さずヘルクレウスの王剣に潰れてしまった世界の残さ―黒き星々が境界を抜けこの地上に迫る―」
「何を」
「この街に奴だけを落とし込むための、そのための、人払いさ。みな追い払う。必要なことだ」
―そうだろう、ウドゥン―。
そうささやく。エイリに聞こえぬくらいに。黒の狩猟着、葬送鳴弦士―アウリュは弦なき半月の弓を取り出し、鋼をまとうエイリに矢を向けて―微笑んだ。
「魔族の王剣―奴は世界を欲しているのさ、さあ」「試してみるかい、エイリ? 」
突進したエイリの剛槍の一撃を避け、アウリュは低く、詠唱の文言を唱え―半月の弓に闇黒の影が集い、鳴弦士の矢は放たれた。
「守るべきものを守りたがる。昔のままさ、エイリ」
やがて夜は明けるが、都市には光差さず―。魔族の王が世界を呼ぶ―。