「小生はこの大地の…
「小生はこの大地の、息吹というものを研究している。息吹とは、この単一で単調な世界を外世界と循環させるためのものであり―」
「貴方は、あの洞窟で―何をしていた」
語り始めた老人を青年はさえぎり、老人、ウドゥンはそれには答えなかった。
「外の景色を見たかね? 」
ストレイトスは窓から外に視線をやる。目を覚ましていたイリスも身を起こした。窓の外―はるか先に地平線が見え、そこには―。
「あの地平線の果てに伸びる、砂の嵐。あれは外世界からここへの息吹、門を閉じると同時に、外へ向かう何物をも止める、魔族の詠唱した魔術なのだよ」ウドゥンは句を継ぐ。
「昔を語ろう。この地は本来、多くの世界に門を開いていた、が―」「ある日、魔族の詠唱により門は閉じられた。それから数十年。サンドストームが世界を閉ざしているならば。もはやあれを越えることかなわず」「君たちが来たのは―イレギュラーだ」
ストレイトスとイリスはこの世界に降りたのだ。
「サンドストームを越えるほどの魔術、魔族の王剣―奴が、世界を呼んでいる」「相互に通行できるはずの門が、外世界からこの地に、そしてこの世界の中枢、地龍の心臓へと向いている」「私が息吹の、洞窟に開いた門の向こうに見たのは―地龍の心臓を喰らう―魔族の王、ヘルクレウス」「君たちは―呼ばれたのだ」
~
魔族の王、ヘルクレウス。
それが地龍の心臓を喰らい尽くし、やがて門をそのうちに納め、世界の門を越え、あらゆる世界に腕を伸ばし―。
「地より出で、樹を伝い、水と光を呑み、他の世界をその肉に引きずり込み―いつか、三千世界は爆縮する」「やがて君の遠い故郷も、その少女の、鳥人の世界も押し潰される」さあ―。
「―どうするかね、勇者よ。勇者ならば―」世界を救えるかね?
千と17つ目だった。
老人は改めて名乗り直す。
「テラ=ウドゥン・ネメスという。皆は、ウドゥンと呼んでいたよ」
ストレイトスは逡巡のあと、
「いつもストレイトス・フォルトネムと名乗る。しばらくはともに行きます」そうとだけ言った。
イリスは二人のやり取りに
「あ、あの、姓は名乗れませんが、イリスと申します」慌てた様子で名乗った―。
その様子に老人が微笑んだ。