ウドゥン。地のウド…
ウドゥン。地のウドゥン。そう名乗った老人に勇者は、ストレイトスは今までの冒険を思い返し―。
「ウドゥン―。どこかで聞いたことが―」
「中つ国は行かなかったのかね。異世界から来たものよ」
砂髪の老人は、死霊化―アンデッド時とは全く違う、本来の年寄りに戻っていた。街の者は誰も気づかない。
西の洞窟が崩れ、それどころではないのかもしれない。倒れたストレイトスは老人に地上に放り出され、その後老人―ウドゥンは客として宿に現れ、ストレイトスとイリスの部屋を訪れた。
彼は丸腰に見え、物腰柔らかく―ストレイトスは話に応じることにしたのだ。
鳥人の少女、イリスは青年のベッドに頭を預け、手当に疲れたのか―眠っていた。
傷は再起したライブラリにあらかた治させていたのだが―。
「中つ国、ウドゥンか。陰鬱な、嫌な土地だったよ」「老人、貴方の名乗る名の意味は―地獄だったはずだ。何故そんな名を」
「行ったことがあるのだね? 」
勇者を倒した、あのアンデッドの魔術士とは思えない、気楽な、柔らかい空気の老人。
「私はあそこの生まれだ。あれからさまざまな土地を歩いたものだ」
「ちょっと待ってください―中つ国から? 」
ストレイトスは声を荒げ、イリスが目を覚ましてしまった。
「老人―」
「小生はウドゥンだよ」
「ウドゥン。同じ世界にいたものを―初めて見たよ」本当だった。
老人は、「まあ、それも―時間軸が違うかもしれないが、まあ―50年は前のころか、君が生まれる前だろう。あれから小生もそう、500は異世界を見てきたのだよ」
「異世界―ならば」
長い話になる。彼らが越えた異世界の話。魔法と機械の融合。生命の宿った武器、防具。人語を話す獣人と、人とそのハーフ。
やがて異世界譚はこの大地、コル・ミドガルダルの話しに移り―。
「そして、君たちに頼みがある」
~
―夕暗闇を切り裂く流星。鳥も雲も星の影もない、夕闇のこの時期の上弦の月。また、遠い、遠すぎる世界からの大地にもたらされる薄い灯りの中、鳴弦士は―アウリュ・サイ・ウェスタンハイドー流星を見ていた。
流星―男と少女―天を滑空する男が振り捨てた、聖剣。贋作だろうが―そのあまりある聖性。鳴弦士の視力でとらえた、神々しい意匠。
聖剣エクスカリバー。
寺院の老人、彼らの上層の魔族どもは、あの聖剣を探せと云い―。女は、風も絶えた都市の闇に紛れて―。