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エルハンドラ騎士団シリーズ

新人教育

作者: 尚文産商堂

「俺が新人教育ですか」

エルハンドラ騎士団団長室に、別名戻らずの部屋に俺が呼ばれたのは、1週間前のことだった。

この時、追って指示があるまで待機せよと言われていた俺に、そう新人教育を行うようにと、団長直々に命令があった。

入団から5年が過ぎ、エルハンドラ皇帝陛下より直々に準爵士である、騎士爵を授けられた。

さらに騎士男爵位は、誰でも10年たてば授けられるが、それ以降の各位には、一定の騎士団内の階級が必要となる。


「君に教育を任すのは、儂にすら勝つその剣術の腕を見込んでだ」

剣術は、小さいころから負けたことがない。

最強の人である団長にも、魔法を使わない型での剣術の試合で5年連続で勝っている。

魔法を使えば、かなり弱い分類になってしまうが、今でも魔術の師匠に、さまざまなことを教えてもらっている。

「ああ。では、剣術指導を行うということでよろしいのでしょうか」

俺がそう聞き返すと、黙って団長はうなづいた。

「よろしく頼めるか」

「はい、任せてください。立派に務めを果たして見せます」

その時には、そんな自信はなかったが、とにかく、任された初めての大役だったから、がむしゃらに突き進もうと決意だけはしていた。


俺以外にも剣術指導の教師は数人いて、俺が担当するのは、剣術は初心者という人から出身地域では名を知らない者はいないほどの強豪まで、かなりバラバラだった。

「では、本日よりエルハンドラ騎士団の剣術指導をする、イギルド・ガラバルだ」

名前を言った途端に、全員の目の色が変わった。

「もしかして、騎士団剣術トーナメント5年連続優勝者の…?」

「ああ、そのもしかしてだ。生きる伝説とか言われているが、別に気にしてもいない。それに、誰かに教えるということは、初めてのことだ。何か不手際があるかもしれないが、何でも言ってくれ。まずは、それぞれの名前を聞いていってもいいか。こっちから順番に」

一列に並んでいるから、俺から向かって右側に私服を着て立っていた女性に聞いた。

「サルード・ヒラルドです。剣術は、近所の男の子たち相手に鍛えましたが、専門教育は受けたことがありませんので、初心者です。どうか、よろしくお願いします」

「サルード・ヒラルドだな。学科がかなりいいな。デスクワークに向いているんじゃないのか」

「私自身もそう思いますが、剣術は必須なので……」

この騎士団初年団員教育については、必須科目と推奨科目の2つに分けられる。

必須は騎士団員として当然に知っていなければならないことや、技能について教育を行う。

推奨科目は、必要不可欠では無いが、知識的に知っておいた方がいいだろうという科目となる。

入団試験については必須科目から複数を選択し、全科目7割以上であり、合計得点6教科100点満点中500点以上が必要となる。

俺が入団したときには、6教科中580点だった。

「じゃあ、がんばってくれ。次は…」

次は、まだ若くて、背広を着た男性だった。

「ルラド・ガラドです。剣術大会で優勝をしたことがあり、剣術には自身があります。しかし、まだ専門的教育は受けたことがありません。よろしくお願いいたします」

「ルラド・ガラドか…聞いたことがあるな。まだ15歳じゃなかったか」

「はい、そうです。義務教育終了後、すぐに試験を受けて合格しました」

義務教育は6歳から15歳までとなっているため、ルラドは義務教育期間中ではあるが、特例として、帝国教育局が行っている試験に合格すると、義務教育を終了したとみなされるというものである。

ルラドはそれをして、入団をしたようだ。

「なるほどな…よし、じゃあ次の人は」

ルラドとは対照的に、かなりとうがたった感じの方だ。

「バベ・ルガルドです。バベと呼んでください。剣術は昔から専門学校に通っていたこともあり、そこそこ技能はあります。どうか、ご指導のほど、よろしくお願いします」

「バベか…50歳と書かれているが」

「間違いありません。勤めていた会社にスカウトがきて、入団しました」

入団試験を受けることができる年齢は、最高で25歳となっている。

そのため、それ以上の人は、受けることすらできない状態となっている。

しかしながら、試験を合格できなくても、一般の市民には入団するにふさわしい人材もいる。

騎士団事務局は、そのような人を入団させるために、スカウト制度を設けている。

広く帝国全土に人材を求め、永く騎士団を護る。という、数代前の騎士団長の言葉を実行にうつしたのだ。

その結果、最高で60歳という新入団員が現れた。

「では次の方は」

次は女性だった。

「ルードル・イワノビッチです。剣術は、これまで興味がなかったので、少し怖いですが、頑張ります。よろしくお願いします」

「大学院生だったのか」

「はい」

この帝国の教育システムは、全員通うことになっている義務教育の次の部分として、中等教育機関である中等教育学校、高等教育機関である高等教育学校の二つある。

中等教育学校とは、義務教育より詳しい教育を行う機関であり、より高度で専門的な教育を受けるためには、中等教育機関卒業後に受けることができる、高等教育学校へ進む。

さらに研究を続ける場合には、大学や大学院と呼ばれる専門教育機関へ進むこととなる。

ルードルが進んだ大学院というのは、最終研究機関の教育組織であり、帝国全土でも一握りしか卒業できない最高難度の教育機関である。

なお、高等教育学校までは、全国でも相当あるが、大学となると1つの行政区に対して1つのみ、大学院ともなると大陸に1つのみしかない。

そのような超エリートである。

「ふむ、では最後の…」

俺は、並んでいる5人の最後の男性に目を向けた。

「ルドービッヒ・クロークルですあなたに憧れて、入団しました。よろしくお願いします!」

「憧れだけではいれるような、そんなところじゃないぞ。覚悟もないとな」

「もちろんです。入団する時に誓約しましたから!」

元気なクロークルが言っている誓約と言うのは、入団する際に行う儀式のことだ。

皇帝直属の騎士団ということもあり、毎年4月になると、新入団員は、皇帝の前で、宣誓を行う。

「私は、皇帝陛下に対して忠誠を誓い、命じられるままに行動を起こし、皇帝陛下を、ひいてはエルハンドラ帝国をお護りいたします」という一連の文言だ。

数百年前から変わっていないらしく、昔の文献にも現れるほどだ。

俺が言った覚悟とは、いったん危急があれば、我々エルハンドラ騎士団は、民の最前線で戦うという覚悟である

宣誓を行った時点で、その覚悟を胸に秘め、日々鍛錬に励むことになる。

「では明日より、訓練を行う。それまでは、しっかりと休みように」

全員が敬礼をし、俺は答礼した。

そして、俺は本日の報告書をまとめるために隊舎へ戻り、彼らは次の授業のために、部屋へ戻った。

彼らの訓練期間は1年間。

その時に合格しなければ、彼らはここから出ていかなければならない。

それまでの間、俺が主任となり、彼ら5人の担任となる。

彼らは5人で1班。

常に行動を共にする。

果たして、全員が正式な騎士団員として認められるだろうか。

俺はそう思いながら、神に祈っていた。

全員が無事に合格しますようにと。

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