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ゆうこさんのはなし

作者: 猫宮蒼
掲載日:2026/07/10



 学校の七不思議。

 トイレの花子さんとか、夜中に誰もいない音楽室でピアノ演奏が流れるだとか。

 そんなどこの学校でも噂だけはあるけれど、本当の話なんかじゃないのは誰だってわかっている。


 でも、それでも。


「嘘じゃないもん見たもん」

「花子さんって呼んだらはぁいって返事あったもん」


 そんな風に言う子もいた。


 どうせただの見間違いだし、その返事が本当に花子さんのかって言われたら、きっと聞き間違いとか、誰かがその時こっそり隠れてその子を脅かそうとしたんだ、だとか。


 理由をつけようと思えばいくらでもつける事ができる。


 私の通ってる小学校は、昔お父さんが通っていた学校で。

 七不思議のお話をしたら懐かしいなぁなんて笑っていたけど、そのほとんどは作り話なんだって。

 そうだよね、いるわけないよ。


 だってトイレの花子さんなんて小学校の数だけいる事になっちゃうもの。

 学校の数だけいなかったら、掛け持ち?


 うーん、それはそれで忙しそうだね花子さん。


 それに、七不思議っていっても実際七つもなかったってお父さんは言ってた。

 でも七つないって事になると、七不思議なのにしょぼいから、だから大抵は。


 七不思議を全部知ると恐ろしい事が起きる。


 そんな風に言われてたんだって。


 思えば確かに、今言われてる七不思議も七つないなぁ。


 昔あった内容を引っ張ってくれば七つどころじゃなくなっちゃうし。


 昔はね、学校の玄関横に二宮金次郎の像があったんだって。

 でも今はない。

 勝手に動いてどっか行った、なんて七不思議の噂になった時もあったみたいだけど、真相は老朽化による破損でそのままにしておくと危ないから撤去されただけ。

 真相を知るとなんていうか夢も希望も何もないよね。

 老朽化っていうのも実際はちょっと違っていて、当時の子たちがふざけて色々やった結果壊れたとか。



 トイレの花子さんなんていないし、夜中に音楽室でピアノ演奏なんて流れないし、夜中に階段の数が増えたりなんて勿論しない。

 演奏が流れたら夜中の学校なんてとても静かだから、外に音が漏れそうだし、そしたらすぐに近所から苦情が来るに違いないもの。昼間の私たちの声は学校だから仕方ない、って受け入れてくれてる近隣住民の人たちだって、夜中にピアノの演奏は絶対に怒るよ。

 思わず聞き入っちゃうくらい素敵な演奏だったとして、そしたら苦情がこなかったとしても、絶対絶対噂になってるよね。

 でもそんな噂聞いた事ない。


 階段はほら、最初の一段目を数えるかとか、最後の踊り場のところを数えるかどうかとかで昼間でも数え方次第では増えたり減ったりするもの。そんなのちっとも七不思議じゃない。


 でもね、今の七不思議にはお父さんが知らない話が一つあるの。


 ゆうこさん。


 そう呼ばれてる。


 ゆうこって名前はよくある名前だと思う。私のクラスにもいるし。隣のクラスにもゆうこちゃんって呼ばれてる子いたし。

 どのクラスにも必ずいるわけじゃないけど、そう珍しい名前じゃない。


 男子なんかそんなゆうこちゃんを揶揄ったりするけど、ゆうこちゃんは大人だから相手になんてしてなかった。

 揶揄ってる男子はゆうこちゃんの事、ちょっと気になってるっぽいのが見ててバレバレで、だから相手にされてないのはいい気味だなって思う。

 揶揄われて好きになる人なんているわけないじゃんね。馬鹿なんだから。


 クラスにいるゆうこちゃんは、ゆうこ「ちゃん」でゆうこさんとは呼ばれない。

 ゆうこさん、ってなんていうかもっと年上の人かなって思う。



 そのゆうこさんは、どんな七不思議かというと。


 放課後、下校時間を過ぎても学校で遊んでる生徒の前に現れるんだって。

 大勢いると出てこないけど、一人だと出てくるとか。

 でもそこよくわからないんだ。二人の時とか見たって言ってる子もいるし。本当かなぁ?


 で、出てきたゆうこさんはその子に意地悪をするみたい。


 どんな意地悪かまでは言われてない。


 いきなり叩かれたり、つねられたり、突き飛ばされたり。

 持ち物を遠くに放り投げられるとか、そういうのも聞いたかな?


 そういう意地悪をしてくる、とは聞いたけどそういえば実際のゆうこさんがどういう見た目をしてるかとかはあんま聞かなかったなぁ。


 それで、そうやって意地悪されたあとでゆうこさんがこう聞いてくるんだって。


「私って優しいと思う?」


 って。


 意地悪してくるんだから、優しいなんて言えないよね。普通だったら意地悪だ! って言っちゃうかも。


 で、そのゆうこさんの質問の答えを間違うと、もっと酷い目に遭っちゃうんだって。





 ――そんな風にミキちゃんが言えば、まわりで聞いていた子たちはきゃーっ、と悲鳴を上げた。

 本心から怖がってるわけじゃない。

 エンタメってやつだ。


 なんて答えればいいの? なんて聞いてる子もいる。

 それにミキちゃんはちょっと意地悪そうに笑うと、

「それはねぇ、内緒」


「えー、教えてよー」

「そんな事いってホントは知らないんでしょ」

「てかそのゆうこさんの話どっから聞いたのさ」


 周囲の反応も色々だった。



 実のところ、こういった怖い話ブームというか、オカルトブームは既に三度目だ。


 一回目は二年に上がってすぐの時。

 二回目は三年の終わりから四年になったあたり。

 それで三回目の今、私たちは五年生。


 前は怖い話にビクビクしてた子も、今じゃ所詮作り話って事で余裕を持ちつつも楽しんで、ついでに怖がってる。でも本気で怖がってるわけじゃなくて、その場のノリみたいな感じ。


「ホントだもん、ゆうこさんの話は嘘じゃないよ。

 なんて答えればいいかなんてちょっと考えたらわかるでしょ。

 それでもどうしても知りたいっていうなら、後で教えてあげる」


 あとで、なんてミキちゃんが言ったのは、ちょうど先生が教室に入ってきたからだ。

 休み時間が終わって、これ以上話の続きができないから。


 だから皆も食い下がる事はしなかった。

 だってそんな事したら、先生に怒られちゃうもんね。


 だから私もミキちゃんの話に耳を傾けていたけど、切り替えて先生の話を聞く。

 そうやって授業をちゃんと受けているうちに、ミキちゃんが話していたゆうこさんなんてすっかり忘れ去っていた。



「マナちゃんは行かないの?」

「え? どこに?」


 ミドリちゃんにそう言われたのは、授業が終わって放課後の掃除を終わらせた後だった。

 皆自分の分担したところを終わらせたらさっさと帰っていったので、今教室には私とミドリちゃんしかいない。


「ミキちゃんがさっきの話の続き、図書室でやるって言ってたよ」

「さっき? あ、七不思議の」

「そう。いかなくていいの?」

「うーん、気にはなるけど、でもわざわざ行かなくてもいいかなぁ」


 そう言えば、ミドリちゃんは「じゃあわたし行ってくるね」って言って駆け足で教室を出ていった。

 本当にいるわけない、って思ってても、それでもやっぱりもしいたらどうしよう、とかそういう不安はちらっとある。だからお守りがわりにゆうこさんと会った時の対処法を知りたいって気持ちはわからなくもない。


 都市伝説の口裂け女だって追い払う呪文とかべっこう飴を持ってると助かるだとか。

 そういうのがあるから怖いって思っても対策があるから安心な部分があるんだと思う。


 何も打つ手がなかったら、きっともっと怖がったのかもしれない。

 対策を知ってるからって、出会ったその時にちゃんとその通りに出来るかはわかんないけど。


 そう思うと、私も行った方がいいかなぁ……? と思わないでもなかったけど、でも今日は早く帰らないといけない。


 帰って、ミケのお世話をしなくちゃ。


 ミケはおばあちゃんの家で飼われてる猫だけど、おばあちゃんが入院してるから今は我が家で面倒を見ている。

 お父さんとお母さんはどっちもお仕事してるから、私がミケのお世話をしないといけない。

 私も自分で面倒見るって言ったから、おばあちゃんが退院するまではちゃんとミケのお世話をしないと。


 家に帰ったらまずはミケのトイレの掃除からかな。

 それからお水を入れかえて、ご飯をあげなくちゃ。



 ――次の日。

 学校に行けば朝からミドリちゃんが暗い顔をしていた。


「おはよう」

「うん、おはよ」

「どしたの?」


 なんかあった? と聞けばミドリちゃんは昨日、あの後すぐに図書室に行ったけど、その時にはもうミキちゃんは他の子たちと別の話をしていたらしい。

 だからゆうこさんと会ったらどうすればいいの? ってミドリちゃんは聞いたみたいなんだけど。

「その話はもう終わったからおしまーい」

 そう言って、クスクス笑ってたんだって。

 他の子たちも同じように「遅れてきたのが悪いんじゃーん」とか「遅れてきたんだから教えてなんてあげないよ」とか。

 誰もミドリちゃんに教えてあげなかったみたい。


 そうしてミキちゃんたちはミドリちゃんを置いて帰っちゃったんだって。


「そうなんだ」


 ミキちゃんたちも意地が悪いな、と思うけど、でも元々ミキちゃんとミドリちゃんはそんなに仲良しってわけでもないからな。

 仲の良くない子にもっかい同じ話をしなきゃいけないなんて面倒、ってミキちゃんなら言いそう。


「昨日マナちゃんに声かけないで図書室行ってたら間にあったかな……」

「どうだろうね?」

「マナちゃんは知りたくないの?」

「えっ? うーん、別にそこまでは」


 そんな風に言えば、ミドリちゃんは信じられないものを見る目を向けた。


 思ったよりミドリちゃんは怖がりなんだなぁ。

 ミキちゃんの反応からしてゆうこさんの話は本当ってわけでもなさそうなのに、ミドリちゃんはどうやらすっかり信じちゃったみたい。


「もういい」


 なんて言って、ミドリちゃんはさっさと席に座る。


 私が興味を持たないのがお気に召さなかったみたい。

 でも私がミキちゃんにゆうこさんの話聞いても、教えてくれるかな? って気しかしないんだよね。

 私もミキちゃんとはそこまで仲良しってわけでもないし。


 学校ではお話するし休み時間に遊んだりはするけど、学校がないお休みの日にわざわざ連絡して遊ぶような仲じゃないし。家の方向が逆だから遠いんだよね。



 今日も授業の合間の休み時間で、ミキちゃんたちは楽しそうに色んな話をしていた。

 その途中で昨日の話も出てきて、ゆうこさんの話が出た時、ミドリちゃんが興味なさそうな振りをしてそれでもしっかり聞き耳を立ててたのを私は見た。


「うちの姉ちゃんに聞いたけど、ゆうこさん姉ちゃんも知ってた」

「うっそマジで」

「うん、でも昨日ミキが教えてくれた答えと姉ちゃんの答え違ってたんだよね」

「えーっ、でも私嘘言ってないよ」

「時代の流れとかで答え変わっちゃうとか?」

「じゃあ答えなんてそん時のパッションじゃん」

「なんそれウケる」


 そんな風に皆で笑って、それからまたすぐに話題は別の事になった。


 ちらっとミドリちゃんを見ると、あからさまにホッとした様子だった。


 優しいかどうかを聞かれて、優しいって答えるか優しくないって答えるかなんだろうけど、ミドリちゃんはその答えを知らなかった。どっちかが正解でどっちかが間違ってるなら、間違った答えをすれば酷い目に遭うかもしれない。そう思って、だから答えを知りたがっていた。


 でも、今の話からすると、どっちを答えても問題なさそう、って感じなのかな?


 だったらきっと、意地悪をされてから優しいかどうかを聞かれるなら、優しくないって答えちゃうのが正しいのかも……?


 正直者だから見逃してやろうとか、そういう流れになるのかな?


 ゆうこさんの気分次第だったら詰んでるような。



 なんて思っていた次の日。


 その日、ミキちゃんはお休みだった。

 風邪かなぁ? なんて思っていたら、三日後にようやくミキちゃんは復活した。


 風邪かと思ってたけど、どうやら違ったみたいでミキちゃんは怪我をしていたみたいだ。

 ほっぺたに大きなガーゼが貼られてるのが見ていて痛い。


 いつもは明るい雰囲気のミキちゃんが怪我のせいで大人しかったから、他の子たちも静かだった。

 事故に遭ったとか、そういう感じの怪我でもなさそうだし、その怪我どうしたの? とはミキちゃんの雰囲気から聞けそうにないみたいで、心配はしてても誰も直接的な事は聞かなかった。



「ちょっといい?」

 だから放課後になって、ミキちゃんに呼び止められた時、なんていうかちょっと嫌な予感がした。

 教室の掃除を終わらせて、やっぱり皆さっさと教室を出ていったから、ここにいるのは私たちだけだ。


 ミキちゃんは怪我をしていたから、いつもならパパッと終わらせて他の子たちと遊びに行ったり帰ったりしてるのが、今日は皆よりも遅かった。


 重たい物を持つような作業は他の子が変わってたけど、ミキちゃんの分を全部分担してあげるところまではしなかったみたいだ。先生も別にやらなくていい、とかそういう事は言わなかったし、できる範囲で無理なくやれるならって感じだったのかも?

 ミキちゃんもできないとは言わなかったし。


「どうしたの?」

「うん、あのね、会っちゃったんだ、ゆうこさん」

「えっ」

「えっ!? なんで!?」


 私以上に驚いていたのはミドリちゃんだ。


 ミキちゃんが休んでいた間もゆうこさんの話をそれとなく他の子から聞き出そうとしてたけど、結局なんの収穫も無かったミドリちゃんに、噂は噂だよとかそんな風に気休め言って、ミドリちゃんもようやくあまり気にしなくなってきたのに。


 ミキちゃんは、学校をお休みする前の日、皆で体育館で遊んでいたみたい。

 下校時間を過ぎても帰らなかったら先生に怒られるけど、そこまで入り浸ったわけじゃなかったみたい。

 実際放課後、クラブ活動のない日とか他のクラスの子も体育館を使って遊んだり、グラウンドでドッジボールやったりしてるからね。


 で、体育館で遊んで、そろそろ帰ろうかってなった時に教室に忘れ物をしたミキちゃんは一人教室に戻った。

 そうして忘れ物を回収して帰ろうとしたところで、ゆうこさんを見たんだって。

 見た、っていうか気付いたらすぐ近くにいたみたい。

 先生たちみたいな大人みたいに大きくはないけど、でも中学生くらいの私たちよりちょっと大きい感じの女の子が、いつの間にかミキちゃんの近くにいて、そうしてドンッてミキちゃんを突き飛ばした。

 突然の事でミキちゃんは廊下に転んで、何がなんだかわからないまま突き飛ばした人を見上げた。


「私って優しいと思う?」


 顔は逆光になっててよくわからなかったけど、でもミキちゃんはそう言われてとても驚いた。

 だってそれは、ミキちゃんが皆に話したゆうこさんの話だったから。


 ミキちゃんもその時ゆうこさんだ! って思って、だから答えた。


「優しいと思う」


 って。


 ミドリちゃんが知りたかった答え。

 それを聞いたミドリちゃんも、答えを知る事ができて安堵したみたいだった。


 でも。


 よく見えないゆうこさんの顔がその時、歪んだみたいに見えたんだって。

「こんな目に遭わされても?」

 更にゆうこさんにそう言われて、ミキちゃんはゆうこさんに思い切り蹴られたみたい。

 お腹を蹴られて、とても痛くて蹲って。


 もっと暴力をふるわれるんじゃないか、ってビクビクしながらお腹の痛みを堪えていたけど、それ以上は何もなかったみたい。

 ゆっくり顔を上げてみても、周りには誰もいなかった。


 ゆうこさんが本当に実在しているのなら、立ち去る時にちょっとくらい音がしたっていいはずだ。

 でもミキちゃんが気付いた時にはすぐ近くにゆうこさんがいて、痛くて蹲ってる時だって何の音も聞こえなかったのに気付けばゆうこさんは消えていた。


 痛いのを我慢しながら立って、家に帰ろうとして。


 その帰りに、ミキちゃんは風で飛ばされてきた植木鉢がぶつかって、病院に運び込まれたんだって。


 植木鉢って飛ぶの? って聞けば、土とか中に入ってなかったら強風で飛ぶ事はあるよって言われた。

 その植木鉢にヒビが入ってたみたいで、ぶつかったところがちょっと切れたりもして、それでミキちゃんは一日病院で様子見になったんだって。


 ぶつかったのは頭って言われたら、確かにそれは……ってなるね。


 植木鉢がぶつかった時の衝撃で倒れて、それがあちこちの擦り傷みたい。

 全部が全部ゆうこさんにやられた怪我じゃなかったんだ。


「でもさ、あの植木鉢がぶつかった時確かに聞いた気がするの。ゆうこさんのふふって笑い声。

 病院にいる時も、念のためって家で休んでた時も、こんな話言えるわけないじゃん。

 ゆうこさんなんて七不思議の一つだよ? そんな事お母さんに言ったって信じてもらえるわけないし、ゆうこさんじゃなくて不審者だって、お母さんが思ったら。

 警察に不審者が出たって言って、それがゆうこさんだって私が言ったってそしたら絶対警察に怒られるじゃん。お母さんだって真面目に話しなさいって言うだろうし……」


 ミキちゃんの言い分は理解できる。


 学校で噂されてる七不思議の一つと遭遇した、なんて言ったってマトモに信じてくれる人の方が少ないかも。ミキちゃんの怪我の原因がゆうこさんだとして、ゆうこさんだって言ったところで信じてもらえないなら、そりゃあ不審者にやられたって思うよね。

 どんな不審者でしたか、って警察の人に聞かれても、ゆうこさんの特徴を話そうにもミキちゃんはゆうこさんの顔が見れなかったみたいだし。


「それで考えてた。もしかしたら私が意地悪したのが原因だったのかも、って。

 ミドリには教えなかったでしょ。もしかしてそれのせいかなって。

 だからね、ゆうこさんに会った時の話をしようと思って。

 私は知ってる答えを口にしたけどこうなった。じゃあ、リナんとこのお姉さんが言ってた答えが本当の正解って事になる。意地悪だって正直に答えるのが」


 そこまで言うと、ミキちゃんは少しだけしゅんとした表情でミドリちゃんに、

「意地悪してごめんね……」

 そう、謝った。

「いいよ、気にしてないよ」

 ミドリちゃんも困ったようにそう言うしかなかった。


 ミキちゃんがゆうこさんにされた意地悪と比べたら、ミキちゃんがミドリちゃんにした意地悪なんて意地悪のうちにも入らないのかも。


 二人が和解したのを見届けて、それから三人で学校を出た。

 一人になったらまたゆうこさんが出てくるかもしれないから。



 それで終わったものだと思ってたんだ。


 それから一週間。

 ミキちゃんとミドリちゃんは以前よりはちょっとだけ仲良しに見えるようになった。

 元々そこまで仲良しって感じじゃなかったけど、その原因も好きな男子が一緒だったから、ってだけだったんだって。でもその男子の事はどっちも今じゃ好きじゃないから、対立する必要もなかったけどお互いに負けたくないって対抗心があったからみたい。

 パッと見二人の性格は違うように見えるけど、お互い内面的なところは意外と似てる部分があるのかも。


 ゆうこさんだって学校の下校時間を過ぎてから一人でいなきゃ別に怖がる必要なんてない。皆と一緒に帰れば安心。それがわかってるから、もうミドリちゃんは怖がったりしていなかった。

 ミキちゃんも、あの時みたゆうこさんはもしかしたらひっそり怖がってたせいで見た幻かもしれない、なんて言ってた。

 ホントは何もない廊下で転んだのをゆうこさんのせいだ! って思いこもうとしたとか、その後の植木鉢については事故だ。ゆうこさんの笑い声が聞こえたような気がしただけで、実際はそれだってミキちゃんの怖がった思い込みのせいだったのかも。


 それもあるかもしれないな、って私も思った。

 勝手に怖がって、なんて事のないものでももしかしたら……! なんてそっちに繋げちゃう事、私にだってあるし。


 でも、そうやって単なる七不思議の一つで、ただの噂で誰かの作り話かも、って思ってたのに。


 今度はミドリちゃんが学校を休んだ。

 ミドリちゃんは昨日、図書室に借りてた本を返してから帰るって言ってたから私は先に帰った。

 先生は風邪で休んだって言ってたけど、でも昨日のミドリちゃんは風邪を引いたようには見えなかった。

 元気で、だって給食だっておかわりしてたんだよ? それなのに風邪とか、あるかなぁ?

 全然そんな感じじゃなかったのに。


 ミドリちゃんは二日間だけお休みして、三日後には登校してきた。


 風邪って聞いてたのに、学校に来たミドリちゃんは左手に包帯を巻いてた。


 どうしたの? って聞いたけど、表情を暗くして「今はちょっと……」って言われちゃった。


 ミキちゃんや他の子たちも心配はしてたけど、無理に聞き出そうとはしなかった。



 でも、放課後。


 体育館やグラウンドにまだ残ってる子たちもいる中で、ミドリちゃんは私とミキちゃんに話があるって教室に残るように言ったから。

 どうしたのかな、って思って話を聞く事にした。


 そしたらミドリちゃんもゆうこさんに会ったんだって!


 図書室に本を返した後、また本を借りて、そうして帰ろうとした時に面白そうな本を見つけちゃって、でも借りれる数はこれ以上増やせないから、ミドリちゃんはその本を図書室で読む事にしたみたい。

 そんなに分厚くなかったから、ささっと読んで帰ればいいやって。


 そうして夢中で読み進めて、読み終わった頃には最終下校時刻になっててミドリちゃんは先生と一緒に図書室を出て、そうして玄関へ向かった。先生は職員室に行ったから途中で別れて。


 階段の途中の踊り場で、ミドリちゃんは声をかけられた。


「ねぇ」

 まさか近くに誰かがいるとは思わなかったから、ミドリちゃんはとってもビックリして振り返った。

 そしたらそこには先生でもないし、上級生にも見えないような女の人。顔は見えなかった。


「なぁに?」

 ってミドリちゃんが聞き返すと、女の人はミドリちゃんの背負ってたリュックから一冊の本を抜き取ったんだって。

 どうにもリュックを完全に閉じてなかったみたいで、簡単にとられたって言うけど、それ、帰りの途中でうっかり落っことしたりするかもしれなかったんじゃないかな?


 ともあれ、女の人はその本を手に聞いてきた。


「私って優しいと思う?」


 その言葉を聞いてミドリちゃん、ゆうこさんの事思い出して、心臓がバクバクして怖くなったって言ったけど、確かに怖いよね。ミキちゃんがあれは気のせいだったのかも……なんて言うようになってたから、ミドリちゃんにとってもゆうこさんの話はちょっと怖かっただけの作り話だって思うようになってたんだから。


 でも、ミキちゃんから聞いた話まで忘れたわけじゃなかったから、ミドリちゃん、言ったんだって。


「い、意地悪だと思う……」


 って。


 ミキちゃんは優しいと思うって言って怪我をした。

 だから、リナちゃんのお姉さんが言ってた方の答えをミドリちゃんは怖い気持ちを振り絞って答えた。


 そしたらゆうこさん、手にした本をミドリちゃんに投げつけたんだって!

 本の角じゃなくて表紙の面が顔にぶつかって、ミドリちゃんはその拍子に倒れた。階段から転落はしなかったけど、倒れた時に手をついて、そのせいで左手を痛めた。

 その時にはもうゆうこさんの姿はどこにもなかったみたい。


「それでね、本を拾って家に帰って、おかあさんに手が痛い、階段で転んだって言って病院で診てもらったの。

 骨は折れてなかった。でも足も挫いてたみたいで少しだけ安静にしましょうねって。

 足の方は湿布貼って家でおとなしくしてたら大した事なくなったけど、一応まだ走ったりするのは避けましょうって。


 ね、ゆうこさんの答え、あれ本当に正解なんてあんの?

 どっち答えても怪我したよ」

「それは……こっちが知りたいよ」


 ミドリちゃんの話を聞いてミキちゃんは明らかに動揺していた。

 自分が怪我をしたから、もう片方が正解なんだって思ったからこそミドリちゃんに話したのに、そのミドリちゃんがゆうこさんと出会って、結果はミキちゃんと同じように怪我をした。


 ミドリちゃんがクラスの皆にゆうこさんに会った! なんて言わなかったのは、皆が皆信じてくれるわけじゃないからだろう。

 怪我をしたのは本当なのに、下手をしたらそれだって学校休みたくて嘘ついたんじゃない? とか言われるかもしれないし、ズル休みだ! なんて先生に言われて怒られたらって考えると、言わなかったのはわかる。


 だってゆうこさんに会ったっていう証拠を出せって言われても、本人に直接会えるかはわかんないし、ゆうこさんを捕まえるにしても私たちじゃきっと無理。

 学校の中に不審者が出た! って騒ぎにしたとしても、ゆうこさんが見つからなかったらそんな事を言いだした私たちの悪戯って事になっちゃうかも。先生だけじゃなくてお父さんとかお母さんにまで怒られたくない。


 それ以前に、学校の七不思議を本気にしてるなんて大人からすれば馬鹿な事を言ってると思われるんだろう。


 そもそもの話、ゆうこさんっていつからこの学校の七不思議だったのかな? なんて思って聞いても、ミキちゃんもミドリちゃんも当然知らない。リナちゃんのお姉さんに聞けばわかるかな? でもリナちゃんのお姉さんも間違った答えしか知らないなら、きっと詳しくはない。


 三人でうんうん悩んでいるうちに、最終下校時間が近づいてきた。


「と、とにかく帰ろ! 一人で残ってたらゆうこさんに会うかもしれないけど、三人で学校を出れば大丈夫なんだから」

 私がそう言えば、ミキちゃんもミドリちゃんも慌てたように教室の壁にかけられた時計を見て、急いでリュックを手に取った。



 そうだ。対処法がわかってるんだから、どっちの答えが正解か、なんて考えなくても会わないようにするのが一番じゃないか。学校を出て帰りの道を行きながら、私たちはそう結論を出した。



 その後私たちの周りで、ゆうこさんの話は全く出なかったか……と言えばそうじゃない。

 別のクラスの子が会ったとか答えたのに意地悪されたとか、逆に何も起きなかったとか、色んな噂が出回った。

 怪我をして休んだ子もいれば、会ったけど何もされずにいなくなったって言った子も。

 その時にどう答えたのかを聞いてみれば、優しいと思うって答えた子もいれば、意地悪だと思うって答えた子もいた。


 その時々で正解が違うみたい。

 なんて意地悪なんだろうゆうこさん。


 だったらミキちゃんの時は意地悪だと思うって答えてたら、もしかしたら何もなかったのかもしれない。

 ミドリちゃんの時は優しいと思うって答えてたら良かったのかも。


 ゆうこさんのせいで怪我をしたって言ってた別のクラスの子は、最終的にただの不注意で済まされた。

 だってどれだけ調べたところで学校の中にゆうこさんの姿を見つける事はできなかったし、下校時間を過ぎる前から先生たちが学校の中を見回ったりしてもゆうこさんらしき人を見つけられなかったから。


 それどころか、先生たちは私たち生徒が帰った後の、すっかり夜になってから帰るだってあるけれど、そんな不審者を見た事なんてないものだから。

 だから学校の中の怪我は不注意を誰かのせいにしている、っていう風になったみたい。


 最近不注意からくる怪我が増えてるから、皆もっと気を引き締めて注意するように。


 なんて、私の教室でも言われたし、他のクラスもそうだって。




 そんな風にゆうこさんの噂で盛り上がってたけど、それだってずっと続くわけじゃない。

 他に面白い話があれば皆そっちに飛びつくし、それに最近じゃオカルトブームも下火になりつつあった。

 だからもうゆうこさんの話で怖がる子もいなかった。そもそも放課後に一人で残らなきゃ遭遇する事なんて滅多にないからね。

 先生方も私たちにあまり遅くまで残らないで早く帰るようにって言ってたから、注意されてからはゆうこさんに会ってみようってチャレンジする子もほとんどいなかったし。


 最近始まった新番組のアニメが面白いとか、ドラマに主演してるアイドルの話とか。

 ゆうこさんの話が出る前みたいな空気に完全に戻ってきたなと思える。



 だから私もすっかりゆうこさんの事なんて忘れてた。



 最後の授業の時間に出された小テストを解き終わって、そろそろ授業も終わるなって思った時だった。


 クラスの中でもお調子者のケンタくんが給食の時間に飲まないでこっそり隠してた牛乳をぶちまけた。

 教室の中は一瞬で騒ぎになったし、先生も何事かと驚いてたけど、よりにもよってケンタくんは私の隣の席で、ぶちまけた牛乳のせいで折角解いた私の解答用紙はべちゃべちゃになってしまった。服に牛乳がかからなかったのは良かったけど、それは私が咄嗟に席を立って避難したから。

 そうじゃなかったら机の上から流れ落ちてきた牛乳は間違いなくお洋服に滴ってた。


「ちょっと! 何してんの馬鹿!」


 私が思わずそう叫べば、ケンタくんもわざとぶちまけたわけじゃなかったみたいでめちゃめちゃ謝ってくれたけど、べちゃべちゃになった紙が復活するわけじゃない。

 他の男子もケンタ何やってんだよー、と笑いものにしたりして教室の中は一瞬でお祭り騒ぎだ。


 先生が静かに! と言ってもすぐには大人しくならなかった。


 でも結局最終的に騒いだ子みんな叱られて、そうして授業の時間は終わってしまった。


 台無しになった私の小テストについては、先生が残ってもう一回解くように、だって。

 時間は好きなだけ使っていい、って言われても全然嬉しくなかった。

 でもちゃんと提出しないと、成績に関わってくるしなぁ……私は中学受験までするつもりはないけど、お母さんが成績を気にしてるからそこはちゃんとしないと、お小遣いとか減らされるかもしれないし。


 今回の事はケンタくんが悪いけど、それで私のお小遣いが上がるわけじゃない。


「おぼえてなさいよこのお馬鹿!」


 思わずそう言った私にケンタくんはほんとにごめん!! と頭を下げたけど。

 私の答案は復活しないので完全には許せなかった。


 帰りの掃除を終わらせて、それから私は教室で問題を解く事になってしまった。

 終わったら職員室に持ってきて、と先生に言われて、なんと私一人居残りである。

 もうこれ教科書とか見てカンニングできるんじゃない? って思うけど、でもさっき解いた限りでは教科書を見ても答えがまるまる載ってる感じじゃなかったので、またもやコツコツ答えを書いていくしかない。


 他の子たちは今日に限ってさっさと帰っちゃったし、私も遅くなる前には帰らないと。


 なんて思ってたけど、折角だからとちゃんと解こうと思ったのが運の尽きだった。

 さっきはわからなくて空白のままだった問題も、時間に余裕があるって思ったらじっくり考えちゃって、気付いたら思ってたより遅い時間になってて。


 最終下校時間まではまだあるけど、それでも急いで他の問題も埋めて、慌てて職員室に届けにいった。

 もうこれ別に今日中じゃなくても家で書いてこいとかでも良かったんじゃないかな? って思ったけど、流石に言えなかった。家だともっとカンニングし放題になりそうだもんね。


 慌てていた私は、職員室にテスト用紙を持って行く時にそのままリュックも背負っていけば良かったのに、そんな事すらすぽんと抜けてしまったせいで。

 そのせいでもっかい教室に戻る羽目になってしまった。

 そうじゃなかったらそのまま職員室から出て玄関に行けたのに。


 無駄に階段を上って教室に戻って、そうしてリュックを背負う。

 その頃にはすっかり静かだった。他のクラスを覗いても、誰もいない。

 自分一人しかこの階にいない、って思った途端なんだか怖くなって私は駆け足で階段を下りた。


 そうして玄関に辿り着いて、何もなかった事に安心したのに。


 靴箱をあけて、上履きと履き替えようとして外靴を手にして。


 なんかちょっと重たいな? なんて思ったのは今までの事で疲れが出たからかな……? なんて考えて靴を取り出して。


 パシン、と出したばかりの靴が横から何かに弾かれて、そんな事になるなんて思ってなかった私の手はあっさりと靴から離れてしまった。


「えっ……?」


 少し離れたところに弾き飛ばされた私の靴。


 ころりと転がった靴を見て、それからゆっくりと今しがた私の手から靴を弾いたであろう何かを見るべく首を動かす。


 だって。


 周囲には誰もいなかったはずで。


 だからそんな何かがいるはずがなくて。


 でも靴は弾き飛ばされた。


 そのせいで首を動かしても、思っていたより動かなかった。

 ギ、ギ、ギ、ってなんだかそんな鈍い音が聞こえてきそうなくらいゆっくりと。


 それでもどうにかそっちを見たら。


 そこに女の人がいた。


 中学生くらいの人。

 どうして小学校に? なんて思ったし、本当に中学生かどうかはわからない。

 それでも何故だか中学生だ、って思えた。


 それなのに、その人の顔はわからなかった。


 それでもその人がこっちをじっと見下ろしているのだけは感じられて、視線がこっちに向いてるって思った途端私の身体は動かなくなった。


 重苦しい空気。

 じっとりと纏わりつくような嫌な感じがして、知らないうちに息を詰めてたんだって思った時に。


「私って優しいと思う?」


 ミキちゃんやミドリちゃんから聞いたその言葉。

 他のクラスの子たちが噂していた内容。


 それらが頭の中でいっせいに、ぶわっと膨れ上がった。


 どう答えても、どっちを答えても、怪我をするかもしれない。でも、何もないままかもしれない。


 怪我をするのは嫌だな。

 お母さんやお父さんを心配させちゃう。おばあちゃんがそろそろ退院するって話なのに、私が怪我をしたら余計な心配させちゃう。


 どう答えるのが正しいんだろう?


 どうすれば無事に帰れるんだろう?


 困ったように私は視線を動かして、でも助けてくれそうな誰かはいなくて。


 転がった靴に視線が向いた。



「……わかんない」


 どうにか声を出そうとしたけど、ゆうこさんに聞こえたかはわからない。

 でも、ポツリと呟くように言ったら、周囲の空気が余計に重たくなったような気がした。


「けど、優しいところもあると思うよ……?」


 きっと私の声は震えていた。

 じめじめとした梅雨の日のような重たくて嫌な空気がまとわりついているようで、なんだったらいっそ泣きそうだった。


 ミキちゃんやミドリちゃんは泣かなかったのかな。

 私はもう泣きそう。



 でも、ゆうこさんが今靴を弾いたのはきっと、ただの意地悪じゃないと思いたかったから。

 私は私なりの答えを出したつもり。


 靴の方に向けていた視線を、もう一度ゆうこさんに向ける勇気はなかった。


 それでも。


「そう」


 声はそれだけだった。


 それきり、何も聞こえてこない。


 じっとりしていた空気がふっと軽くなったような気がして、思わずゆうこさんがいる方へ首を動かせば、そこにはもう誰もいなかった。



 張り詰めていた糸が切れたみたいに、私はべしゃっとその場に座り込む。

 ぐすっ、と鼻をすすって、それから。


 車道を移動する車の音や、カラスの鳴き声。

 そういった学校の近くでよく聞く音が耳に入ってくる。


 涙は出なかった。


 少ししてからゆっくりと立ち上がって、ゆうこさんに弾き飛ばされた靴を拾いに行く。


 靴の近くには、石が転がっていた。それから、くしゃくしゃに丸められた紙も。


 紙を拾って広げてみればそこには『さっきはホントマジごめん!』と書かれている。

 ケンタくんの字だ。


 転がっていた石は校庭やこの辺じゃ見かけないようなつるつるの石で、そういやケンタくんが近くの川で拾ったんだって自慢げに見せていたやつ。


 多分、牛乳ぶちまけたやつのお詫びなのかもしれない。


 詫び石をそもそも靴の中に入れるなって話なんだけど。


「あのお馬鹿、今度こそおぼえてなさいよ」


 私がこんな石ころで機嫌をなおすと思ったら大間違いだ。


 そうじゃなくたって。



 あのまま普通に靴を履き替えてたら、靴の中に何か入ってる! ってなって驚いて、もっかい靴を脱いで中に入った何かを取り出さなきゃいけなかった。


 今回は石と丸めた紙だったからまだしも、画鋲だったりもっとゴツゴツした石だったら痛い目を見ていたかも。


 もしかしたらゆうこさんは。


 そのまま靴を履こうとした私を止めようとしただけなのかもしれない。

 そう思いたかった。


 多分、本当にただ意地悪をしに出てくる事もあるのかもしれないけれど、中にはゆうこさんなりに親切にしようとした事もあるのかもしれない。ゆうこさんなりに親切にした時に意地悪って言われたら、じゃあちゃんと意地悪してやるってなったのかも。

 親切をしたつもりの時に優しいと思うって聞いて、意地悪って言われたからムッとしたのかもしれない。

 その逆に意地悪をした時に優しいって言われたら、じゃあもっとやってあげるねってなったのかも。


 本当の答えはわからない。


 わからないけれど、少なくとも私はそう思う事にした。


 上履きを靴箱の中にしまい込んで、そうして私はとりあえず紙と石ころを拾い上げて家に帰る。


 怪我も何もなく帰って来たから、お母さんやお父さんは私がゆうこさんと遭遇したなんてわかるはずもない。

 言ってもきっと信じてくれないだろうなって思ったから、私も言わなかった。



 ミキちゃんやミドリちゃんにはどうしようか。

 言おうか。でも、私だけ無事だったってなったらなんで私だけ、って思われちゃうかも。


 どのみちゆうこさんと会う事なんてこの先まずないはずだ。

 だってもう遅くまで学校に残って一人でいる事なんてきっとない。


 小学校に通って五年、その間ゆうこさんに会った回数は一回。

 それに二度三度とゆうこさんに会った、なんて言ってる子はいなかった。



 なんとなくだけど、多分もう会わない気がする。



 そう思った私の勘はどうやら当たっていたようで、これ以降、卒業するまでの間ゆうこさんと会う事はなかった。



 ちなみに。

 卒業式の日、私はこっそり一人になって校庭の隅っこにあの日の詫び石にマジックでありがとうと書いて埋める事にした。ゆうこさんがそれに気付いたかどうかは知らない。

 ありがとう、の文字の隣に小さく、でももうちょっとわかりやすくてもいいと思う、って書いたから、もしゆうこさんが見つけてくれて、その言葉を受けとってくれたらいいなと思わないでもない。



 もっともその後、友達の妹や弟から小学校でまた怪談話がブームになったって聞いたけど。

 でもその時には、ゆうこさんの話は誰も知らなかった。



 ゆうこさんって結局なんだったんだろう。

 私の中でその謎だけはずっと残っている。

 おばけちゃんだから出たり出なかったりする。

 更にまた何年も後に復活する可能性もあるよ。


 次回短編予告


 勇者に選ばれた彼に言われた。この戦いが終わったら結婚しよう、と。

 しかしそんな彼は帰ってきた時王女様に求婚されたのだと言って、その約束を無かった事にと言ってきた。

 それは別にいい。でも、何もかもを許せるかとなるとそうではない。


 次回 すみません、貴方とは婚約破棄で

 不幸になれとは言わないけど、ツケは払ってもらいますからね。

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