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エレサイム王国の実情

ちょいと前置きの長い異世界の覇権国家?の内情です。経済を握る者が世界を支配するのはどこも一緒。それも日常生活に溶け込んでいるならなおのこと、という話です。

 ここエレサイム王国において、国政を担う仕事に就こうと考える場合、身分に関わらず年に一度行われる選抜試験を受験する必要がある。試験は決して難しいわけではないが、実のところ出願段階からその人物の人となりや主義主張等を、王国に存在する選定機関が調査を開始している。国家のためにならない者を試験成績のみで選抜などできないのだから、それも道理であろう。だが、それ以外にも選抜される道はある。例えばその適性が求められる人材であることも必要な場合も当然あるのだ。さすがにお馬鹿では何なのだが、もちろんその辺もあって、試験という体を取っているわけだ。

 で、俺の場合は試験の成績そのものは親族一同が奇跡、と騒ぐぐらいのものだったが、いや、何せ学生時代は遺跡探索に明け暮れて学業成績などお世辞にも優秀とはいえなかったものであることは自覚していた。だが、その遺跡探索で培った魔法の素養、魔法適性が為に国政の中でも王立騎士団をすら凌駕する、王女様直轄機関に所属することになったのだ。もっともその事はここエレサイム王国において極秘事項であり、形式上は徴税官吏として日夜国のために粉骨砕身中の身である。今日は今日とて、とある地方集落の納める税の物納品の確認作業のため、近郊の城塞都市、ラバンの大門前に来てはいるのだが、だが。

 「今年の年貢は、にわとりにございます。お確かめください。」高齢を押して先導してきた集落の長老は、いかにも人の良さそうな風貌の持ち主であるが、王都出発の際、上司に一つだけ申し使った事柄があった。曰く、この集落、ガレル村の年貢については、細心の注意を払う事。なんでも、かつて村の特産品として持ち込んだ人参の中にマンドラゴラが複数混入していたとの事。しかも休眠期に収穫したとかで、荷解きをした途端に休眠が醒め、陽の光を浴びて一斉に叫び声をあげる寸前だったという。それを当時、王国最強の魔法使いと誉れも高かった現国王の姉君である王女殿下、コーネリア様が鎮めてしまったのだ。人参の積まれた荷馬車全体を魔法の冷気で包み、荷台に乗り込むと、マンドラゴラとおぼしき個体に針を刺してゆき、麻痺させた上で魔法を解いて、何事も無かったように収納したという。その時の村人の代表者に「良い品だ。これからもよしなにな。」と申しつけると、青ざめているその他大勢を尻目に城に帰還したのだ。そしてそれからというもの、ガレル村からは毎年、いわゆるいわく付きの収穫物が贈られるようになったという。その後、姫の行方がわからなくなった後もその習慣は続き、王国の国庫は潤っているという事だ。ただし、程度の差こそあれ、危険を伴う作業であることに変わりはない上に、国民に舐められるわけにはいかないという理由から、王国はこの仕事に重きを置いているのである。まあ、それ以外にも重要な任務はあるのであるが、まずはにわとり・・・コカトリスの判別からだ。だいたい判る。マンドラゴラ以外にも、牛と称してミノタウロスを持参したこともある村なのだから。とは言え本物のモンスターなどそう簡単に大量入手できることはそうない。何と言っても貴重な収穫物だ。とりあえずは自分が石化しないように魔法を付与したローブを羽織り、幾分残念そうな長老に礼を言って、石化防止用の袋と頭部に巻き付けるための紐と、鎮静剤代わりの冷気魔法を付与した指輪そのくらいの装備で検分作業を行った。この村の他には、ここまで大規模な、と言うか挑戦的な集落は無い。もちろん誤って混入することは無くはないが、まあその時は個人の技量で持ってこなすしかない。そういう者を優先的に選抜しているのだ。遺跡調査に明け暮れていた自分が国の機関に、それも王女殿下のと言われる組織に就職できたのもまあ、こんな状況あってのことだ。権限はおそらく最大限、その分危険も最大級。度胸も知識も必要とする仕事なのだ。コカトリスの見分を進めながら、俺はその次の、恐らくもっと面倒であろう任務に思いを馳せていた。


 ここエレサイム王国がパライア大陸最大の権勢を誇る理由は、まさしくこの国が生み出した、史上最強と言われる魔法使いである、コーネリア姫殿下の功績と言えるだろう。正確には姫と、姫が召喚した(と言われる)、夫である異世界人のもたらした技術が、この国はおろかこの大陸の生活様式を根底から変えたのだ。特に特徴がある訳ではないと語られるその人物は、ただ一つのしかし強力無比な魔法と印刷技術、それをこの世界にもたらした。印刷という技術そのものは存在していたが、印刷に使用する紙の製造方法、及びその材質の強化、そして紙幣制作に関わる技術等々は彼なくして発展することは無かったであろう。水などによる濡れに耐えうる素材、防火性も兼ね備えたそれは魔法を乗せうるインクの開発と共に彼の発案、研究の成果であり、最重要の国家機密である。その上で印刷物の量産を可能とする輪転機の開発は正に彼と姫殿下の奇跡的な出会いの賜物である。彼曰く、たとえ技術があろうともコーネリア以外にそれを生かせる存在はないと語ったという。それもかくや、印刷に使う原版をミスリル、オリハルコンに刻める者など、コーネリア姫殿下以外に存在しなかったのである。ましてや、その刻んだ原版を硬度をそのまま縮小できる者など、それこそ姫殿下にさえ不可能なそれを成し遂げたのは、異世界人である彼だけなのである。縮小魔法は対象物に加えられた圧力を維持したまま行うことが非常に困難であり、術後の物体がもろくなるか、硬化しすぎて崩壊するかが関の山で、術者本人以外が施した術に対応した縮尺の変更など不可能としか考えられていなかった。その点かの者の術は驚くほど姫殿下の術と相性が良かったのである。姫が固い金属に刻んだ文字がそのまま文字として機能する、それが必要な技術であったのだ。二人はそれ以外にも大陸中央部の大砂漠にある大灯台の修復等の大偉業と言われる様々な業績を上げたが、国にとって最も重要な業績は、異世界人の彼がもたらした紙幣の印刷技術、およびそれに関連する紙幣の製造と魔法を乗せるインクの開発、そして姫の卓越した魔法文法の融合であった。それまでにも特殊な金属に刻印を行うことによってコインや鉄板に魔法を付与することは行われてきたが、それを紙幣として、大量に、かつ安価に国民はおろか大陸中にその恩恵を与えることが出来た者など存在しなかったのだ。例えば紙幣に火の魔法や光の魔法が乗せられれば、非常に使い勝手の良いものになる。いきおい他国の通貨との差別化が起こり、瞬く間にパライア大陸において、通貨と言えばエレサイム紙幣、という流れが出来た。火にも水にも強く、折り曲げにも強い素材で、かつある程度(魔法による)履歴が確認できる。と言ったものである。しかもエレサイム王国に持ち込めば更新が可能と来ては、その利便性は王国を大陸の経済の覇者とするのにものの10年とかからなかったのだ。それでなくとも強力な軍事力と資源量、そして王国の政治体制に起因する外交力がモノを言い、姫殿下たちが行方不明(と、王国は発表している)となった今なお、その威光は大陸全土に鳴り響いているという事だ。

 何故そのような事を改めて語るかと言えば、それが今の俺の役職と綿密に関わるものであるからだ。造幣の技術や材料は、王国が一手に握っている。印刷機も他国での製造は恐らく不可能、対象魔術もほぼ国家、王族で握っている。そのほぼ、が問題で、異世界人である彼と同様の魔法の使用者は、実は彼の行方不明後、永らく見つからなかったのだ。最初の段階でよく練られた魔法文であり、かつほとんど劣化のない材料で造られた金型を使用していたため、数十年経っても紙幣の印刷そのものに問題はなかったのだが、国王陛下が長寿であったことが問題であったのだ。

陛下は大陸全土から尊敬を受ける温厚なる王。その王様の即位期間が空前のものとなったことが大問題であったのだ。これまでのエレザイム王国の王の在位期間は最長でも30年。現国王は来年、即位50周年を迎える。40周年の折には該当箇所の換えの部品が作成されていたが、この度は別途創らねばならない。現在の王女の魔法で金型の部品を作成することは出来たのだが、そのままでは意匠が合わず、目出度い席を待たず、退位する事すら王国内で取りざたされていたここ数年であったのだ。そこに現れたのがこの俺、という訳で、元々考古学者兼冒険者志望であったものが一躍国の重要人物となっていたというわけだ。勿論生まれた国のため、異論がある訳ではないが、何にしても面倒だ。国のお偉いさんに囲まれて食事をするのも、メイドに食事を給仕されるのも庶民の自分にとっては息の詰まる事この上ない。でめて国のために何かしたいと要望したが、何を気に入られたのか対応してくれた王族とおぼしき女性に、徴税吏としてスカウトされたというわけだ。だが逆らったとて状況が変わるわけでもなし、良い仕事の当てが出来たと思うことにした。紙幣の発行そのものは滞りなく終わり(その際、驚くべき発見もあったのだが)、翌年に開かれる王様の即位50周年の式典の準備が現在行われている。多分俺も出席しなければならないだろう。国の極秘事項という事で免除してもらえないかななどと思うのは不敬にあたるのだろうか。とりあえず本日のノルマはこなしたので、事務所に戻ってお茶でも頂こう。

元々は、コカトリスとかミノタウロスの扱いに苦労する男のお話の筈だったのですが、それだとエルフを狩ったり、カレーマスターになったりする話のパクリになりそうだったので、別の、考えていた話と融合してみました。なお混沌としてきた気がします。魔王と新米神様も出ます。美しい姫様たちも出待ちしてます。もともと出オチのお話ではありますが。

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