第99話 死霊乱舞
総理一行と救助者20名を連れた近藤隊は、一路垂水市を目指して行軍していた。
「ハァハァハァ……、そこの君、ちょっと休憩をしてくれないかね? 足が痛くて動かないのだよ」
山頂を出発してから1時間。既に日は沈み、月明かりを頼りに、近藤と土方、総理達救助者を中央に、前方を5番隊、左右を6番隊、後方を4番隊が警護しながら、暗くて険しい道なき道を歩いている。
しかし、革靴を履いた総理の足は遅く、おまけに靴擦れまで起こしており、予想以上に遅い歩みに近藤は焦っていた。
「土方、総理は牛の如き遅さだな?」
「いや、牛より遅い。この調子だと、垂水市に着くのは明日の朝になるだろうね」
近藤と土方は互いに顔を見合わせて、苦笑いを浮かべる。
「仕方ない。一旦、ここで休憩を取る事にする。GAT隊は周囲の警戒を怠るな!」
ここまでの道中、十数匹のゴブリンと遭遇した。
木の上から襲って来る者、茂みの中から襲って来る者、夜行性のゴブリンにとって絶好の狩り場となっている。しかし、この戦いで数々の修羅場をくぐり抜けたGAT隊は、数度のゴブリンの奇襲を難なく払い退けてきた。
それでも、山中に深々と生い茂る草木は、ゴブリンが身を隠すには丁度良く、いつ出て来てもおかしくない状況に、隊員達の気力は少しずつ削り取られていた。
皆が休憩している最中、5番隊が警戒している前方の茂みから、草を掻き分ける音が聞こえてきた。
ガサガサガサッ!
「ゴブリンかっ?」
茂みを懐中電灯で照らすが、ゴブリンの姿が見えない。
ガサガサガサッ!
草を掻き分ける音が段々と近付いてくる。
ガサガサガサッ!
5番隊が剣や銃を握りしめ、ゴクリとつばを飲み込む。
ガサガサガサ、バサーッ!!
遂に姿を現した何かは、赤く光る目をした1体の骸骨だった。
カタカタカタッ!
赤い目の骸骨は片手に錆びた剣を持ち、こちらへゆっくりと近付いて来る。
相手は1体で動きは緩慢。あまり脅威を感じられない骸骨を見て近藤は思う。
コイツは一体、どうやって動いているんだ?
関節も軟骨も無く、腱や筋肉も無い。それなのに人間の様に歩いており、おまけに剣まで持っている。
近藤が動く骸骨を観察していると、最初に原田が手を出した。
「うおおぅりゃぁぁぁーっ!」
原田が剣を斜めに叩き込むと、骸骨はバラバラになって崩れ落ちた。
「何だぁコイツ、全く手応えがねぇーぞ。もっと強いのが出て来ねぇかなぁー!」
GAT隊の中で唯一活躍していない原田は、消化不良のため動きたくてうずうずしている。
すると、また茂みの中から今度は複数の足音が聞こえてきた。
ガサガサッ、ガサガサガサッ……!
カタカタッ、カタカタカタッ……!
やがて、前方に十数体の骸骨が現れ、ゆっくりと原田の方に近付いてくる。更には目の前の土が盛り上がり、そこから骸骨が顔を出した。
「えええーっ、ウソだろおおおおおー!?」
5番隊は隊長の原田を中心に左右へ展開し、迫りくる骸骨をじっと待つ。そして、骸骨が5メートルの間合いに入った時、原田が攻撃命令を出した。
「ぶっ倒せえええええーーっ!!」
5番隊が動く骸骨を次々に粉砕すると、間を置かずして第2波が押し寄せてくる。
ゆっくりと近づいてくる骸骨を見ながら原田が再び攻撃命令を出そうとした時、何かが足に絡み付いた。
そして、次の瞬間。
ガブリッ!
足元に粉砕されたはずのバラバラの骸骨が、時間と共に組み合わさって元の姿に戻り、原田の太腿に噛りついていたのだ。
「痛てぇぇぇーっ、何だぁコイツはっ?」
ようやく、動く骸骨を脅威と感じた原田をよそに、岸本総理が驚愕した顔で近藤に尋ねた。
「こ、近藤君、ア、アレは何かねっ?」
「アレは……」
近藤が答えあぐねていると、土方が代わりに答える。
「緑の怪物をゴブリンと言うのなら、差し当たりスケルトンと言った所でしょうね」
すると今度は、後方が騒がしくなった。
「ゾンビが出たぁぁあああああー!」
後方を守る4番隊の前に、次々と現れる動く死体。自衛隊の制服を着ている者やスーツ姿の者。おそらくは山頂へ逃げて来る途中でゴブリンに殺された者達だろう。
藤堂4番隊は、頭では分かっていても死人とは思えないゾンビに攻撃をためらい、ジリジリと後退する。
ア、ア、アアアッー!
ウウー! ウウー! ウウウッー!
後方に現れた複数のゾンビがゆっくりと近付いてくる中で、その先頭を歩くゾンビを見た岸本総理が突然あわてふためいた。
「はっ、はっ、浜井が出たあああああーっ!」
恐怖に引き攣った顔の岸本総理は、泡を吹いて倒れてしまった。対して、近藤はゾンビになった防衛大臣に手を合わせてる。
「生きているアンタを叩き潰したかったぜ」
そして、4番隊に命令を下した。
「彼らは既に怪物だ。遠慮なく叩き潰せ!」
待ってましたと言わんばかり、藤堂がゾンビ浜井を斬り倒す。
「クソ大臣、日頃の恨み、思い知れぇぇーっ!」
ザシューッ!
他の隊員も一斉に斬り倒すが、腕を切り落としても、足を切り飛ばしても、ゾンビは再び動き出して足に絡みついてくる。
ア、ア、アアアッー!
ウウー! ウウー! ウウウッー!
「おいおい、これじゃぁキリがねぇぜ」
後方の藤堂隊はジリジリと後退する。前方の原田隊も同様に後退する。
前からスケルトン、後ろからはゾンビに挟まれ、中央が徐々に狭まっていく。
近藤は救助者を内に、周りをGAT隊で囲む円陣を敷いた。
なぜかミンミンも円陣の内側に縮こまり、お腹がグウグウ鳴っている。
皆は疲れたのだろうと思っているが、実はスキルを使った為にカロリーを消費し過ぎて動けなくなっているだけなのだが、いずれにせよ、もう戦力にはなりそうにない。
バシュッ! ガキンッ! ドターンッ!
「ゼェゼェゼェ…………」
死霊と戦い始めてから、やがて1時間。ちらほらと膝をつく隊員が出てきており、彼らを内側に入れ、残りの隊員で円陣を支える。
しかし、こちらの人数が減るのに対し、死霊の数は増えるばかり。
GAT隊の戦意が徐々に消失していく中で誰かが倒れた。
ドシャーッ!
「原田ぁぁぁーっ!」
スケルトンに噛まれた原田が熱っぽい顔で倒れている。
その原田を助けようとした5番隊の陣形が崩れ、円陣の中にスケルトンが入ってきた。
「が、骸骨が入ってきたぁぁぁー!」
「た、助けてくれぇぇぇーっ!!」
「に、逃げろぉぉぉーっ!!!」
円陣の中は、無秩序に逃げ廻る救助者のせいで大混乱に陥ってしまった。
「くううっ、もはやここまでか……」
まさに、近藤が諦めかけた時だった。
山頂から虹色に輝く光がゆっくりと上空へ伸びて行き、その光源には右手を天にかざす男が立っている。
そして、彼は長い呪文の詠唱を終えた。
「……ハッピー、ホーリー!!」
【第99話 死霊乱舞 完】




