第96話 ゴブリンウォリアー
一方、土方隊の増援に向かった近藤隊は、高速機動車で1号機方面へ向かっていた。
道路には所々に人の死体が転がっており、それを軽快に躱わしながら運転をしている4番隊隊長の藤堂の顔はニヤけていた。
なぜなら、後部座席には憧れのミンミンがいるから。
ギュウーン、ガリガリガリガリーッ!!
今度こそ良い所を見せようと、華麗なハンドル捌きで片輪を浮かせ道を塞ぐ死体の山を器用にすり抜けていく藤堂に、後部座席から歓声が上がる。
「小隊長やるねぇー、ヒューヒュー!」
部下からの声援で調子に乗った藤堂は、後ろを向いてミンミンにアピールする。
「どうだぁー、俺様のドラテクはああー!」
その時だった。車の前に巨大な物体が空から落ちてきた。いや、高さ10メートルの壁から飛び降りてきたのだ。
ドドォォォーンッ!!!
「バカ藤堂、前っ!!」
ミンミンの声で我に返った藤堂が前を見ると、体長2メートルを越える熊の様な化け物が、両手を広げて目の前に立ち塞がっていた。
藤堂が運転する高速機動車は、あまりの至近距離に避ける事も出来ず、巨大な化け物に正面から激突した。
ゴッバーン、キュルキュルキュル……。
足元に止まった車両を見下ろし不敵な笑みを浮かべる化け物は、深緑色で黒光りした筋骨隆々の肉体を持つゴブリンの戦士、ゴブリンウォリアーであった。
そして、間髪入れずに4番隊の車両めがけてバトルアックスを振り下ろす。
「ギゲガガガカカガアアアーッ!」
「うわああああああああーーッ!!」
運転席の藤堂と近藤は逃げる間もなく、もう駄目かと思った瞬間、重い金属音がこだました。
ガキキキィィィィィーーーンッ!!!
後部座席に乗っていたミンミンが、いつの間にかボンネットに飛び上がり、バスターソードで巨大な斧を受け止めていたのだ。
予想外の抵抗に歯ぎしりするゴブリンウォリアー。しかし、相手はか細い小娘。受け止められたバトルアックスに力を込めて押し潰しにかかる。
「厶ギギギギギィーッ!」
ミシミシミシミシーッ!
彼女が立つ軍用車両の頑丈なボンネットが軋みを上げる。それを車内からポカンと口を開けて見上げる隊員達。
呆ける彼らにミンミンが叫ぶ。
「てめぇらぁー、早くそこから逃げやがれぇぇーっ!」
我に返った隊員達が急いで車両から飛び出すと、ミンミンは鍔迫り合いを止めて斧を横に反らした。すると、抵抗を失ったバトルアックスが頑丈な軍用車両に深々とめり込んだ。
グシャーッ、メキメキメキメキィィーッ!
車両に斧をめり込ませたゴブリンウォリアーめがけ、チャンスとばかりにバスターソードの横薙ぎを放つミンミン。
「おおおりゃゃあああああああーーっ!」
しかし、ゴブリンウォリアーは、車両ごとバトルアックスを持ち上げて、ミンミンに叩きつける。
「ガギグゲゴガガガァァァー!」
対するミンミンは、軌道を変えてバスターソードで応戦する。
ガシャーン、バキバキバキバキィィーッ!
かくして、重量級の本格的な戦いが始まった。
ガキィン、バキバギィーッ、ドッカーン!
ガキィン、バキバギィーッ、ドッカーン!
ガキィン、バキバギィーッ、ドッカーン!
しばらくして、ミンミンとゴブリンウォリアーの戦いを遠巻きに見ている隊員達の前に、またもや空から巨大な2体が降ってきた。
ドドォォォーンッ!!
それは棍棒を手にしたボブゴブリン2体。
1番隊の戦いを見てきたGAT隊には分かる。小隊長クラスでないと立ち打ち出来ないという事を。
近藤と藤堂は目を合わせて互いに頷くと、左右それぞれの敵に向かって行った。
最初に手を出したのは、近藤と対峙するボブゴブリン。近藤が下段青眼の構えで無防備を装い相手の攻撃を誘う。
「フフッ、指揮ばかりで腕がなまっていた所だ。肩慣らしに丁度良い!」
釣られたボブゴブリンは、近藤の頭を狙って棍棒を振り下ろす。それを待っていた近藤は、絶妙なタイミングで下から剣を合わせた。
「隙ありぃぃぃー、無明龍尾剣ーッ!!」
下段から素早く立ち上がる剣の軌道は、正に昇り龍の如し。
切っ先が棍棒の根元を捉え、そのままかち上げると、その勢いを保ったまま、円弧の軌道を描き、がら空きの胴を上段から斜めに切り裂いた。
ガキィーン、シュルシュルシュルーー、ズババババババババババァァーーーン!!!
「ギギャァァァー!」
身をくねらせた昇り龍が、尾を振るって最後の攻撃を繰り出す様な攻撃。近藤が天然理心流で極めた奥義であった。
体を真っ二つに斬られたボブゴブリンは、そのまま崩れ落ちて大きな魔石に変わった。そして、あっという間に勝利した近藤は、苦戦している藤堂の戦いに目を向ける。
「藤堂ぉぉー、気合いだあああーっ!!」
ちらりと近藤を見て悔しい顔をする藤堂。
「なんだとっ? 中隊長はもう片付けちまったのかよぉー」
もう1体のホブゴブリンに何度も吹っ飛ばされた藤堂の体は既にボロボロ。
気合いって言ってもなぁ、まともに剣を合わせると吹っ飛ばされるし、切払いは苦手だし、一体どうすりゃいいんだよぅ?
膝をつきながら普段使わない頭で考え事をしている藤堂の元へ、ボブゴブリンがゆっくりと近付いて来る。
「ばかもーん、油断をするなああーっ!」
近藤の声で我に返った藤堂は、上から覆い被さる様に棍棒を振り下ろすボブゴブリンを見上げた。
「や、やべぇぇーっ!!」
ブゥーン、ドッバァァーンッ!
かろうじて棍棒の一撃を交わした藤堂に、ゴブリンの連続攻撃が襲いかかる。それは、まるでモグラ叩きの様であった。
ドバーン! 「ひぃっ!」
ドバーン! 「はぁっ!」
ドバーン! 「ふぅぅっ!」
紙一重で攻撃を交わし続ける藤堂に、再び近藤の喝が入る。
「虎の口を思い出せえええーっ!」
虎の口、通称虎口剣。虎や熊などの大きな相手に対抗する天然理心流の剣技だ。具体的には下段から相手の顎を斬り上げる技。
近藤の喝で冷静を取り戻した藤堂は、低い体勢で大振りが来るのをじっと待つ。
すると、観念した獲物を捉えるが如く、ホブゴブリンがトドメの一撃を放った。その刹那、下段から藤堂の剣が斬り上がる。
「粉くそおおおーっ、虎口剣ーッ!!」
キリキリキリッ、ズババババァーッ!!
地面から斬り上った藤堂の剣は、棍棒を掠めてホブゴブリンのアゴにヒットし、そのまま顔面を切り裂いた。
「グギャァァァァァァァァーーーッ!」
アゴを引き裂かれたホブゴブリンは棍棒を落とし、顔に手を当ててのたうち回る。
そこへ、藤堂の奥義が炸裂した。
「ドドメだああーっ、無明電光剣ーッ!」
スパァァーン! ゴロゴロゴロン!!
無明電光剣。天賦の才を持つ若き藤堂だけが使える電光石火の剣技。目にも止まらぬ速さで相手の首を切り落とす処刑人の技。
無防備なホブゴブリンの首が、手首もろとも呆気なく斬り落とされていた。
「ふぅー、危ない所だったぜーい!」
ようやく藤堂の戦闘が終わった。しかし、あちらでは、まだ重量級の戦いが続いている様だ。
ガキィン、バキィーン、ドッカーーン!!
「死ねやぁぁーっ、クソゴブリンッ!」
「ガギガガギガガガガガァァァーッ!」
【第96話 ゴブリンウォリアー 完】




