第94話 狐と狸の化かし合い
しばらくすると、茂みの中から総理一行が現れた。
総理は精根尽きた顔をしていたが、山頂のGAT隊を見付けると、みるみる元気を取り戻し駆け寄って来た。
それに対し、ぬけぬけと敬礼をする男は副長の土方だ。
「総理、ご無事で何よりです!」
岸本も、ぬけぬけとお世辞を言う。
「おおーGAT隊。よくぞ助けに来てくれた。やはり、一番頼りになるのはGAT隊だよ!」
てめぇー、GAT隊を潰そうとした張本人が、どの口で言いやがんだあ! と、心の中で毒を吐きながら、土方はニコニコと笑みを返す。
「ハッ、GAT隊には待機命令が出ておりましたので、東京から駆け付けるのに随分と時間がかかってしまいました」
土方の口から待機命令という言葉を聞いた途端、総理の顔が引き攣った。
なぜなら自ら選んだ防衛大臣の勝手な判断が、自分をここまで窮地に陥れたからだ。
まあ、自分の命で償ってもらった訳だが……。
それでも、岸本は浜井大臣に心底ムカついていた。故に思わず口に出てしまう。
「全く、有能なGAT隊を東京に待機させておくなんて、浜井の無能さには呆れ返るよ。自業自得だ!」
ニタァ〜。
土方は心の中でほくそ笑み、白々しく問いかける。
「そういえば、浜井大臣のお姿が見えませんねぇ〜。総理と一緒にお逃げになったと聞いておりましたが……どうかされたんですか?」
「あ、あぁ、残念ながら、浜井君はゴブリンに襲われてしまってねぇ、我々では助ける事も出来なかったんだよ」
「それは……、本当ですかぁ〜?」
土方は狐の目を更に細め、無言で総理一行を睨みつけた。すると、彼らの額から冷や汗が流れ落ち、各々が一斉にツバを呑み込む。
ゴクリッ…………。
しばし無言の会話を楽しんだ後、土方は無念の表情を浮かべた。
「それは残念です。有能な方を失いました」
心にも無い事をペラペラと口にする土方は心底怒っている。
貴様らぁー、ただで済むと思うなよぉー!
狐の残念がる表情に、まんまと騙せたと思い込んだ狸一行は、ホッと胸を撫で下ろしたのだった。
そんな総理一行に興味を失くした土方は、山頂で休憩するよう促すと、部下に総理確保を意味する信号弾の発射を命じる。
バシュッー! パラパラパラパラ……。
信号弾が発射され、暫くの間、上空に赤い光の玉が漂った。
それを見た岸本総理が土方に尋ねる。
「ヘリは何分後に到着するのかね?」
「総理、残念ながらヘリは来ません。あれは、周辺に散らばったGAT隊員を呼び戻す為の合図です」
岸本がムッとした顔で問い正す。
「なぜ、ヘリは来ないのかね?」
「岸本総理、ゴブリンには弓使いがおり、ヘリは簡単に撃ち落とされてしまいます。ゴブリンが内陸部に侵入した以上、撃ち落とされる確率が高いと思われますが、それでもヘリに乗りたいですかぁー?」
「うぬぬ……」
島民救出作戦の折、何機ものヘリが撃ち落とされたのを知っている岸本総理は、唸ってはみたものの、どうする事も出来ず、GAT隊の指示に従う事にした。
それをいい事に、土方が悪い顔で優しく諭す。
「総理、GAT隊が集結するまで、もう暫くかかります。今の内に少しでも休んでおいて下さい。この後、長ーい山道の行軍が待ってますからねぇ〜」
「わ、分かった」
ここまでの逃避行で疲れ果てていた総理一行は、山頂に立てられたGATの旗の元へ行くと崩れる様に座りこんだ。
・・・・・
一方、上空に打ち上げられた赤い信号弾を見ていた4つの部隊は、それぞれが危険な状況に陥っていた。
「井上小隊長、群衆が迫って来ます。すぐ後ろにはゴブリン多数!」
土方から殿軍を任された井上は、心底ビビッていた。
小隊長の中では最も弱く、部隊は自分を含めたったの4人。対して、迫りくるゴブリンは、ザッと数えても50匹以上。そして、逃げて来る群衆は20人ほどで、そのほとんどが自衛官。うち2人が民間人の様だ。
山頂から見下ろした時には、100人近く見えていたのに、その8割がゴブリンの餌食になった様だ。
井上は、この20人だけでも救おうと、群衆に向かって呼びかける。
「GAT隊でーす。我々がここで食い止めるので、皆さんは山頂を目指して下さーい!」
井上の言葉によって死にものぐるいだった群衆の心が一瞬ゆるみ、最後尾を走っていた民間人がゴブリンに腕を掴まれてしまった。
「危ないっ!」
パンッ!
銃声が一発聞こえ、ゴブリンがパタリと倒れる。
部下の1人が貴重な銃弾を使ったのだ。続いて、もう一人の民間人も捕まりそうになり、更に3発の銃弾が発射された。
これで、残りの銃弾は無くなった。そして相手は約50匹。井上達はしっかりとロングソードを握りしめる。
やがて、最後尾の民間人が井上達の横を通り過ぎると、ゴブリンが束になって襲ってきた。
「ギギャギギャギギギィーッ!」
「行かせるかあああー、魔石シールド構えええええーっ!!」
先頭のゴブリン4匹が横一列に盾を構えた井上隊に棍棒を振り下ろす。
ガキィン、ガキィン、ガキィーン!!
棍棒は4つの盾に跳ね返され、そこへ4人が突きを放つ。
「今だッ、突き刺せぇぇぇーッ!!」
ズバーッ、ズバーッ、ズバーッ!!
天然理心流にとって突きは最も重視されており、試衛館門下生の彼らにとって安定した攻撃である。そして、その最終形が沖田の3段突きとなる訳だ。
また、井上隊が持つ盾は、創真が持ち込んだバックラーを改造したもの。見た目は機動隊が持つ防弾プラスチックの盾だが、そのプラスチックには粉砕された魔石が散りばめられている。
藤田開発部長曰く、高分子ポリマーと魔石は親和性が高いとの事だ。
そういう訳で、最弱6番隊の秘策として4つの魔石シールドを与えられたのだが、ゴブリン50匹を相手に、どこまで持ちこたえる事ができるのか?
井上小隊長は大きな不安の中にあった。
【第94話 狐と狸の化かし合い 完】




