第92話 厚顔無恥、ここに極まれリ
アヤヤから黒原の居場所を聞いたGAT隊が、戦車型のレールガン2号機を取り囲みハッチをノックする。
コンコン……、コンコン……。
「助けに来ましたあ。黒原総監はおられますかあー?」
ゴソゴソゴソ……。
ハッチの中で物音がする。どうやら中の人は無事の様だ。
ギ、ギィーー。
ゆっくりとハッチが開き中から顔を出したのは、ちょびヒゲを生やし真っ赤な顔で怒っている黒原総監だった。そして、開口一番GAT隊員をまくし立てる。
「遅いじゃないかっ、一体何をやってたんだねっ?」
恩義もクソも無い黒原の言葉に、周りの隊員はうんざりしてタメ息を吐く。
「ふぅー、厚顔無恥ここに極まれりだな」
陸も溜め息混じりに独り言を呟いて、戦車に歩み寄り敬礼をした。
「黒原総監、ご無事ですか?」
「ふんっ、真壁の小倅かっ、父親に似て動きが遅いわっ!」
真壁陸佐に辛辣な言葉を浴びせる黒原に対し、憤慨した近藤が真っ赤な顔で言い返す。
「てんめぇぇぇー、息子に妨害させといて、遅いとは、よく言えたもんだなあーっ!」
黒原も真っ赤な顔で憤る。
「貴様ぁーっ、佐官の分際で上官に向かって何たる口のきき方だぁぁぁーっ! ぐ、軍法会議だあぁぁぁーっ!」
しかし、近藤も怒りが治まらない。
「てめぇ言うに事欠いて何が軍法会議だぁ、周りを見てみろっ!」
黒原が戦車の上から周りを見ると、そこら一帯は自衛官や招待客の死体で埋め尽くされ血の海となっていた。そして、我に返った黒原の真っ赤な顔が見る見るうちに青ざめていく。
更に追い討ちをかけようとする近藤を、陸が手をかざして抑えた。
「総監、あなたの私情を挟んだ指示で、多くの自衛官や民間人が犠牲になってしまいました。また、あなたがレールガンを占有した事で射撃が止まり、更に多くのゴブリンが渡河してきました。詳しい事は軍法会議の場で説明なさって下さい。おいっ、黒原総監を連行しろっ!」
「なっ、ワシはっ、ワシはっ…………」
生気を失った黒原は、抵抗する事無くGAT隊員に連れていかれた。
黒原を見送った陸は、近藤に問い掛ける。
「さてと、ここからどうしようか?」
現在の状況は、1番隊が護衛、2番隊が生存者の捜索と魔石集め、4番隊が撤退車両の確保、7番隊がケガ人の手当てと救護者の搬送をしている。
時々、1号機方面から数匹のゴブリンがやって来るが、1番隊が撃退しているので問題は無いだろう。
次の手を考えるに、対岸のゴブリンが渡河して来る気配はなく、牛根大橋方面に向かった総理一行の事も気にかかる。
もし、総理が生きているとするなら、山間部へ逃げ込むに違いない。そうなれば、土方隊が総理を確保してくれるはずだが、デカいゴブリンに出くわしたら土方隊では荷が重い。
「誰を増援に向かわせるのが良いだろうか……?」
すると、陸の呟きに近藤が進言する。
「真壁陸佐、増援は私に行かせて下さい!」
「どの部隊を率いるんだ?」
「4番隊とミンミンです」
陸は暫く考える。
生存者の救助には、まだまだ時間がかかる。対岸のゴブリンが動き出した時の為に、1、2番隊は残しておきたい。
「そうだな、心配ではあるが、あのデカいヤツを相手に出来るのは、今の所ミンミンだけだからな。よし近藤、4番隊とミンミンを連れて、土方の援護に向かえ!」
「ハッ!」
近藤は即座に部隊をまとめると、高速機動車に乗り込んで牛根大橋方面へ向かっていった。
近藤を見送った陸は腕時計を見る。現在の時刻は午後の4時、日没まであと3時間だ。
多摩湖の事件により、ゴブリンは夜行性だと判明しており、暗くなれば危険度が昼間の10倍に跳ね上がる。
陸は、近藤達を乗せて走り去っていく車の後ろ姿を見送りながら小さく呟いた。
「近藤、頼むぞ!」
・・・・・
一方、山間部へ逃げ込んだ総理一行は、迫りくるゴブリンに怯えながら逃避行を続けていた。
牛根大橋手前で車を乗り捨てた岸本総理とSP5名、それに浜井防衛大臣は、桜島口へ逃げる群衆から離脱して山間部へ逃げ込んだ。そして、山の中腹まで順調に歩みを進めていたのだが、中年太りの浜井の足が遅く、おまけに足を挫く始末。はっきり言って足手まといだ。
仕方なく、総理一行は山の中腹で休憩する事にした。
「総理、ここで少し休みましょう」
総理一行が休憩した場所は、周りに比べて木々が薄く、所々に岩肌が露出してる岩場。
おそらくは桜島の噴火で飛ばされた溶岩石なのだろう。
その中で、ちょうど良い大きさの岩に腰掛けた岸本総理は、SPからペットボトルの水を受取り少しだけ喉を潤す。
同様に、ペットボトルを渡された浜井大臣は、蓋を開けるなり全ての水を飲み干し、あげくの果てには、お替りを寄こせと言い出した。
「1本じゃ足らん。お替りはないのかね?」
「浜井大臣、それが最後の1本です。お替りはありません」
SPのリーダーはうんざりした顔で返事をすると、浜井から山の麓へ視線を移した。
すると、桜島口へ逃げている群衆の前に、多数のゴブリンが立ちはだかり、後方の牛根大橋からもゴブリンが押し寄せてくる。
前後からの挟み撃ちで逃げ場を失った群衆は、山間部へと雪崩れ込み、それを追ってゴブリン達も山間部に入って来た。
その光景を見たSPのリーダーは、急いで全員に声をかける。
「休憩は終わりだ。多数のゴブリンがこちらにやって来るぞーっ!」
ひとときの休憩で安堵していた総理一行の背筋に、再び戦慄が走った。
【第92話 厚顔無恥、ここに極まれリ 完】




