第86話 パラシュート降下作戦
桜島口手前の山間部上空にて、3個小隊がパラシュート降下作戦を開始した。
「3、5、6番隊、降下開始!」
指揮官は副隊長の土方。
前衛を3番隊と5番隊、土方は後衛の6番隊から指揮を取る。
尚、GAT小隊については、人数が半個小隊という事もあり、新選組よろしく番手呼称を採用しており、副隊長も簡略化され副長と呼ばれていた。
まずは、ベテランの3番隊が降下を始め、続いて6番隊が、最後に若手で構成された5番隊の番が来た。
小隊長の原田が降下口に立って吠える。
「おい、てめぇらぁ、いくぞおおおー!!」
しかし、高度300メートルの高さに足を震わせ、なかなか飛び立とうとしない。そんな原田を見て近藤が笑いながら尻を叩いた。
「原田ぁー、はよぉー行かんかーいっ」
「中隊長、や、やめー、うわあああー!」
涙とよだれを垂らしながら、ロープに沿って降下する原田をよそに、パラシュートが自動で開く。
「ぎゃあああ……あ、あれっ、なーんだ簡単じゃねーかっ」
土方隊の降下目標は一番高い山の頂。3番隊と6番隊は目標付近に着地したが、降下にもたついた5番隊だけは風に流されてバラバラに散らばってしまった。
「うわああああああーっ!」
ガサガサガサーッ、ガックン!
「痛ってぇー、どこだよぉ、ここはぁー?」
原田のパラシュートは高い木に引っかかり、地上から3メートルの位置で宙吊りになっていた。
周りを見ると、深くて暗い森の中。仲間の姿は見えず小鳥のさえずりが聞こえるだけ。
原田は静かに目を閉じて周りの気配を伺う。すると、木々を掻き分けて、こちらへ近付いて来る者に気付いた。
ガサガサッ……。
仲間が助けに来たと思い込んだ原田が大きな声を上げる。
「おおーい、ここだぁー!」
しかし、聞こえてきた声に原田は耳を疑った。
「ギギッ! ギギャ! ギギギッ!」
「ま、まさかっ!?」
予想通り、木々を掻き分けて現れたのは3匹のゴブリンだった。そして、宙吊りの原田を見付けると、まるでオモチャを与えられた仔犬の様に大はしゃぎで近付いて来た。
「ギャッ! ギャッ! ギャッ!」
「や、やべえええええーー!」
原田は急いで、パラシュートのバックルを外そうとするが、枝が引っ掛かって一向に外れない。
そうしている間に、ゴブリン達は何やら相談を始めると、1匹が太い木の枝を拾い原田に向かって投げつけた。
クルクルクル……ドコォーンッ!
「ぐふっ!」
木の枝が腹に当たり吐血する原田。
「ギャギャギャッ!」
どんなもんだと喜ぶゴブリン。
負けじと別の1匹も木の枝を投げつける。
クルクルクル……ビシーッ!
今度は頭に当たり、原田の額から血が流れ落ちた。
「ギャギャギャッ!!」
まるで、ストラックアウトを楽しんでいるかの様なゴブリンに原田がキレる。
「こんのおおおー、くそゴブリンがああああああーっ!」
すると、3匹目が大きな石を手に持ち、原田を見上げて下品に笑い出した。
「ギヒ、ギヒヒヒッ!」
「お、おいっ、ゴブリン! 石はダメだろ、反則じゃねーかっ」
何が反則かは分からないが、投石でヘリをも撃ち落とすゴブリンに、原田は心底ビビっていた。
そして、その石が投げられようとした時の事。
ガチャリッ。
バックルが外れる音がして、空から原田が落ちてくる。そして、空中で抜刀した原田はここぞとばかりに大技を繰り出した。
「天然理心流奥義、無明大車輪!」
抜刀したまま車輪の如く回転し、その遠心力が最大になった時、全体重を乗せて斬りつける原田の奥義だ。
「おんどりゃあああああああーーっ!!」
ズバババババババババババーーッ!!
石を持ったゴブリンが頭から一刀両断され、勢い余った原田の剣が地面にめり込んだ。
「ギギ……? ギギ……?」
突然の不意打ちで戸惑う2匹のゴブリンに、一瞬で間合いを詰めた原田は次々と首を跳ね飛ばす。
「早足剣!」
シュパァーッ! シュパァーッ!!
これは創真が使っている瞬歩と同じ技。平晴眼の構え同様に、天然理心流の基本技である。
「けっ、ざまぁみやがれっ!」
原田は返り討ちにしたゴブリンの魔石をポケットにしまうと、散り散りになった5番隊の仲間を探しに森の中へと消えていった。
・・・・・
一方、山頂では、土方が無線で原田を呼び出していた。
「原田、応答しろ!」
ピー、ガガガガガガ………………。
「ダメだ。無線が一切使えない。どうなっているんだ?」
山頂に着地した土方達を待っていたのは、無線を妨害する磁気嵐だった。
小結界が破壊された事により、桜島に蔓延する魔素を含んだ磁気嵐が内陸部まで押し寄せて来たのだ。
計器を持った井上小隊長が報告する。
「副長、どうやら、この一帯には磁気嵐が発生しています。通信機器は使い物になりません」
「そうゆう事か、どうりで原田と連絡が付かない訳だ」
この状況に土方は考えを巡らせる。当初の計画では、6番隊を山頂に置き、総理が逃げてくると思われる北に3番隊、1号機のある東に5番隊を向わせる予定だったのだが、当の5番隊は西へ流されて行方不明だ。
代わりに6番隊を東へ向わせても良いのだが、指揮官のいる6番隊は山頂に残しておきたい。しかし、北は桜島が近い分、危険度も上がる。
土方は早々と決断した。
「3番隊は東、6番隊は北へ向かう!」
斎藤小隊長が心配そうな顔で進言する。
「副長、北は気を付けて下さい」
「ふふっ、何とかしてみせるさ」
かくして、3番隊はレールガン1号機のある東へ、最弱の6番隊は総理が逃げてくると思われる危険度の高い北へ向かって進軍を始めた。
・・・・・
時間は1時間ほど遡る。
桜島口から1号機方面へ逃走した総理一行は、牛根大橋を渡ろうとして車を停めた。
「何で車を停めるんですか?」
「総理、あちらを見て下さい」
すると、橋の向こうから大勢の人達が、血相を変えてこちらに走ってくる。
「な、何だこれはぁぁーっ!?」
SPが車から降りて橋の向こうを見ると、群衆の最後尾から悲痛な叫びが聞こえてきた。
「ぎゃあああ! 助けてくれえええーっ!」
「ひぃぃぃー! ゴブリンだぁーっ!!」
「2号機方面へ逃げろおおーっ!!」
ゴキィーン、ブチブチブチーッ!
アベシッ!!
SPが見たものは、空中に飛び交う人の生首だった。
「総理、こちらにもゴブリンがいます。引き返しましょう」
「ど、どこへ引き返すと言うんだね?」
そう言っている間に総理を乗せた車は、逃げてきた群衆に囲まれて身動きが取れなくなってしまった。
すると、SPのリーダーが右手の山岳地帯を指差す。
「総理、あの山へ逃げましょう!」
木々が生い茂る険しい山を見上げた岸本総理は、ゴクリと唾を飲み込んで頷いたのだった。
【第86話 パラシュート降下作戦 完】




