第84話 桜島からの救援要請
皆が恐怖に包まれて静まり返る会場の後方で、雄叫びを上げる者がいた。
「戸柱神社のタタリじゃあああーっ!」
戸柱神社を撤去した自衛隊に憤り、地元の長老が騒いでいるのだ。
彼の背後に忍び寄る緑の影にも気付かずに……。
「ギャウンギャッ!」
ゴキィーン、ブチブチブチーッ!!
これは棍棒で強打された頭が、胴体から引き千切られる音。長老の生首が空高く舞い上がり、会場の中央に落ちてくる。
ヒュゥゥーーーン、ゴットォォォーーンッ!! ゴロゴロゴロン……。
「な、んだ……??」
「ど、どうした……??」
「あ、あわ、あわわわああ!!」
観衆は何が起きたのかを理解出来ずに暫く沈黙を保っていたが、空から落ちてきた物体が人の生首だと分かると、先程まで大歓声に包まれていた会場が一瞬で阿鼻叫喚の地獄に変わった。
「ひ、ひ、人の首だああああああーっ!?」
「う、あ、わあああああああああーっ!!」
「い、いやああああああああああーっ!!」
「にっ、逃げろおおおおおーーッ!!!」
「きゃああああああーーッ!!!」
「どけえええええーーいッ!!!」
「やめてえええええーーッ!!!」
大勢の観衆が、会場の後方から総理のいるステージへ逃げてくる。ステージ前では雪崩れくる観衆の道を自衛官達が塞いでいる。
後方から追い立てられ、前方で行く手を阻まれ、逃げ場を失い、押し倒され、右往左往する観衆を見て、壇上の岸本総理が黒原に説明を求めた。
「黒原君、これは何事かねっ?」
「いや、その、おいっ、何が起こった?」
老婆した黒原が側近の自衛官を問い詰める。すると、彼は事態を確かめる為に騒ぎの中心へと向かっていった。
やがて、騒ぎの中心に辿り着いた自衛官が見たものは、棍棒を振り回す3匹のゴブリン。
おそらく、海上に浮かぶ数百匹に先んじて上陸した先遣隊だろう。
そして、楽しそうに人の首を吹っ飛ばしている。
「ギャッ、ギャッ、ギャウンギャッ!!」
ゴキィィィーーン、ヒュゥゥーーーン、ゴットォォォーーンッ!! ゴロゴロ……。
「ギャッ、ギャッ、ギャウンギャッ!!」
ゴキィィィーーン、ヒュゥゥーーーン、ゴットォォォーーンッ!! ゴロゴロ……。
「ギャッ、ギャッ、ギャウンギャッ!!」
ゴキィィィーーン、ヒュゥゥーーーン、ゴットォォォーーンッ!! ゴロゴロ……。
残虐なバッティングゲームを楽しむ3匹のゴブリンを目の当たりにした側近の自衛官が驚愕する。
「な、なんなんだ、これはあああーっ!?」
すぐさま彼は振返り元来た道へ逃げようとするが、押し合う観衆で既に逃げ場は無くなっていた。
仕方なく、死の覚悟を決めた彼はステージに向かって大声で叫んだ。
「黒原そうかあああーん、後方にぃぃーゴブリンがあああッ……」
「ギャゥンギャッ!」
ゴキーンッ、ブチブチブチィィーッ!!
彼の叫びは、棍棒の一振りで遮られてしまった。しかし、後方で何が起きているかは皮肉な形で黒原に伝わった。
なぜなら、彼の生首が空高く舞い上がり、ちょうど黒原の足元に落ちてきたからだ。
ヒュゥゥーーン、ボコォォーンッ!! ゴロゴロゴロゴロン……。
「うわっ、なっ、なんだぁコレは? な、なま、生首だあああああー!!」
黒原は地面に転がった部下の生首を見て、慌てて総理に報告する。
「そっ、総理ぃぃー、観衆の後方に、ゴ、ゴゴ、ゴブリンがいますぅぅーっ!」
「なっ、なんだとおおおーっ!?」
浜井大臣が血相を変えて黒原を問い詰める。
「く、黒原君、ゴブリンは泳げないんじゃないのかね?」
「そ、そのはずなんですが……」
埒が明かない防衛大臣と幕僚総監に、しびれを切らした岸本総理が問い質す。
「GAT隊はどこにいるんですかっ?」
「…………」
二人とも下を向いて黙っている。
「早くGAT隊を後方のゴブリン当てなさいっ!」
総理の一喝で、ようやく浜井大臣が重い口を開いた。
「黒原君、GAT隊を直ぐに呼びなさい!」
「ええっ? だ、大臣、話が違いますよ」
「な、何の事だね……?」
黒原が懇願するが、浜井は我れ感せずと、しらを切る。しかし、2人のやり取りに疑問を感じた岸本総理が黒原を問い詰めた。
「黒原君、GAT隊は今どこにいるんですか?」
すると、観念した黒原がしぶりながら真実を話し始めた。
「そ、それは、そのぅ……、現在GAT隊は…………あ、朝霞にいます」
「えっ……? な、なぜだ?」
「それは、そのぅ……浜井大臣が、GATを出動させるなと申されまして……」
「な、何を言っているのかね黒原君。嘘を言ってはいかんよっ!」
「大臣がGATを目立たせるなと言ったじゃないですかぁー!」
「私はそんな事を言っとらん!」
「いいえ、ハッキリと仰っしゃいました!」
2人の不毛な会話を聞かされて、岸本の顔から血の気が引いていく。
「き、君達は…………」
その時、レールガンが射撃を再開した。
「海上のゴブリンを殲滅せよぉぉーっ!」
ヒュィィィーン、バシューーーンッ!!!
ヒュィィィーン、バシューーーンッ!!!
ヒュィィィーン、バシューーーンッ!!!
1号機に比べて、射撃インターバルは10秒にまで短縮されてはいるが、海上にいる数百匹のゴブリンに対し多勢に無勢。
海上のゴブリンは、こちらの岸へ徐々に近付いてくる。そして、観衆の後方では3匹のゴブリンが我が物顔で暴れている。
この危機的状況を目の当たりにして岸本総理がSPに告げた。
「直ちに、ここから逃げますよっ!」
総理に付いている5人のSPは直ぐに行動を開始した。それを見ていた浜井大臣が、総理の腕をガシリと掴み懇願する。
「総理ぃぃぃ、私も連れて行って下さい!」
「ええーぃ、その手を放せっ!!」
しかし、どうにも腕を振りほどけない総理は渋々頷いた。
「分かりました。浜井君も連れていきますから、その手を放しなさい」
「あ、ありがとうございます!」
それを見ていた黒原も総理に懇願するが、それを浜井が突き放す。
「黒原君、君はここの責任者だ。この事態を収拾したまえっ。それと、早くGAT隊に救援要請を出しなさいっ!」
無謀極まる無責任な浜井の指示に、黒原は涙を浮かべて膝を着いた。
「そ、そんなああああ…………」
1号機方面へ走り去っていく総理の車を恨めしそうに眺めながら、黒原はGAT隊への救援要請を部下に指示したのだった。
・・・・・
防衛省に救援要請が入ったのは、皮肉な事に真壁室長が想定を立てた午前11時。
ゴブリン対策室に電話が入り、副官の東雲がオペレーターから伝言を受け取る。
「真壁室長、黒原総監から桜島に救援要請が入りました」
報告を受けた真壁室長は深い溜め息をついた。
「そうか、イヤな予想が当たってしまったな。東雲君、至急、陸に連絡して下さい」
「はい!」
東雲が真壁陸佐に電話をすると、待ってましたとばかりに陸佐本人が電話に出る。
「陸佐、黒原総監から救援要請です。至急、桜島へ向かって下さい。尚、総理は桜島口から1号機方面へ逃走中との事です。第1優先は総理の確保、第2優先は桜島口に集まった一般人の救助です。正式な作戦指令書は30分後にメール致します。真壁陸佐、よろしくお願いします」
「了解しました。それにしても、黒原総監の厚顔無恥には呆れますね」
「そうですわね、オホホホホ……」
いよいよ、GAT隊の真の戦いが始まろうとしていた。
【第84話 厚顔無恥の救援要請 完】




