第83話 戦慄のゴブリン
いつも通りの朝。
異世界勉強の旅から帰ってきたオレは、食卓でニュースを見ながら朝食を取っていた。
「皆さん、おはようございます! 私は今、鹿児島県桜島口に来ております。いよいよ今日はレールガン2号機の試射が行われますが、今回は何と言っても岸本総理がお越しになるという事で、最終点検をする自衛隊員からは緊張感が伝わってきます」
映像がレールガンに切り替わる。
「こちらが、本日10時から試射が行われるレールガン2号機です。調整も済んでおり、後は総理の到着を待つだけとなっております。そして、あちらに見えますのが観戦用の特設会場になります」
カメラが特設会場を映し出すと、観戦席の周りには多くの屋台が立ち並び、まるで今からコンサートでも始まるかの様な雰囲気。
緊張感の欠片もなく、お祭りムードが漂っていた。
会場には既に観客が来ており、今回はマスコミ以外にも各界の著名人が多数招待されている。その中に、ある人物を発見したリポーターが興奮気味にしゃべり出した。
「ややあっ! あそこに見えるのは、令和の歌姫アヤヤさんですよっ。オペラグラスで対岸を見ておられる様ですが、ゴブリンが現れたのでしょうか?」
すると、カメラの映像が桜島口の対岸にズームされ、水辺で遊ぶ数匹のゴブリンを映し出した。
「創真、そろそろ学校へ行かないと遅刻するわよ」
母に言われて、ふと我に返る。
ああ、今日は期末テストの最終日。せっかく猛勉強したのに遅刻する訳にはいかない。オレは急ぎ支度をして学校へ向かった。
歩きながらスマホを確認すると、師匠からメールの返信が届いており、GAT隊には秘策があるので心配無用との事で、胸のモヤモヤが少し和らいだ。
「おはよう創真君!」
「おはよう香織! 警察も大変だね」
「そうね、いつまで続けるのかしらね?」
いつもの場所で合流したオレ達は、公園の入口に立つ警察官を眺めた。
多摩湖の事件から既に3週間が経ち、東京の緊張感も緩んできている。もうこの辺にはいないのにと思いながら警察官に声をかける。
「ご苦労さまでーす」
警察官がバツの悪そうな顔で敬礼を返す。その仕草を見て、オレと香織はこっそり笑う。最近のオレ達のちょっとした日常だ。
学校に着くと、クラスの誰もがテスト最終日の追い込みをかけていた。今日の科目は3教科。それが終われば夏休み。オレも最後の気合いを入れる。
キーンコーンカーンコーン。
1限目のチャイムと共に教室に入ってきた試験官は、プリントを配り終えるとテストの開始を告げた。
「それでは、テスト始め!」
♣♣♣♣♣
同時刻、桜島口のレールガン試射会場は多くの観客で賑わっていた。
政府関係者、自衛隊関係者、マスコミ、著名人、全て合わせると500名を越えており、彼らは試射までのひと時を、飲食やオペラグラスでのゴブリン鑑賞に興じていた。
「うわー、あれがゴブリンかぁ、グロィねー!」
「見て見てぇ、生ゴブリンよー、キモィわあー!」
「ヤツら、こっちを見て睨んでるぜぇ、コッワー!」
まるで、動物園にでも来ているかの様。ちなみに、オペラグラスを販売していた屋台は大繁盛だったらしい。
しばらくすると、輸送ヘリが着陸し、中から岸本総理と浜井大臣が降りてきた。
「総理、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
黒原総監がステージの主賓席に総理をいざない、浜井大臣もそれに続く。
自衛隊の音楽隊が楽器を奏で、会場の騒がしさが治まると司会者がマイクを持って話し始めた。
「ご来場の皆様、本日はお暑い中、レールガン2号機の試射会にご参集頂き、誠に有り難うございます。このレールガンはドイツが開発した戦車型の兵器であり、1号機に比べて小回りがきく上に自走も可能となっております。そして、本日はレールガン2号機を、ドイツの首相を説得して日本に配備した立役者であらせられる岸本総理が、この会場に来ておられます。それでは総理、ご挨拶をお願い致します」
岸本総理が立ち上がり壇上で手を上げると、会場から大きな歓声が上がった。
総理ぃー、総理ぃー、総理ぃぃー!!
ウワァー、ウワァー、ウワァァー!!
パチパチパチパチパチパチパチー!!
「お集まりの皆さん、私は鹿児島の為、いや日本の為に心血を注ぎ、このレールガンを配備致しました。本日の試射が成功した暁には、島の中心部へと侵攻し、桜島に巣食うゴブリンどもを全て駆逐してみせましょう!」
総理ぃー、総理ぃー、総理ぃぃー!!
ワアアアアアアアアアアアアー!!
日本の救世主様あああー!!
ワアアアアアアアアアアアアー!!
期待してますよおおおー!!
パチパチパチパチパチパチパチー!!
総理の挨拶が終わると、会場のボルテージが一気に高まり大歓声が沸き起こった。また、前列の熱狂した来場者は、ごぞって岸本総理に握手を求め揉み合いとなった。
司会者が何度も抑制を促し、ようやく落ち着きをみせた所で試射の開始が告げられた。
「それでは、只今より2号機の試射を開始致します」
開始を告げる勇ましいファンファーレが鳴り響き、その余韻が収まったのを見て指揮者が号令をかける。
「レールガン構ええええーっ!」
装填ヨーシ、電源ヨーシ、照準ヨーシ!
「レールガン発射あああーっ!!」
ヒュィィィーン、バシューーーンッ!!!
すると、弾丸が発射されたと思う間もなく、対岸にいるゴブリンの頭を吹き飛ばした。
おおおおおおおおおおおおおーっ!!
すげえええええええええええーっ!!
ウワアアアアアアアアアアアアー!!
パチパチパチパチパチパチパチー!!
再び大歓声が巻き起こり岸本と浜井の顔が綻ぶ。そして、2発目を撃とうとした時の事だった。
「第2射ヨーイ! いや待てええーっ!?」
突然、指揮者の待ったがかかり、会場からどよめきが起こる。その中で、観客の誰かが叫んだ。
「きゃぁぁぁー。か、海上にゴブリンッ!」
その叫びを聞いた大勢の来場者が海上へ視線を移す。すると、目下に広がる海面から数百匹のゴブリンが次々と顔を出し、こちらに向かって一斉に泳ぎ始めた。
バシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャーッ!!
ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャーッ!!
その恐ろしい光景を目の当たりにした会場の人々は、海から迫る数百匹のゴブリンを見て戦慄していた。
【第83話 戦慄のゴブリン 完】




