第79話 美人秘書の交渉術
バスターソードの価格を1000万円と提示された東雲の顔は引き攣っていた。
なぜなら、彼女の単品における決裁権限は500万円。それを越えると稟議書などの面倒くさい手続きが必要になり時間もかかる。
それに、期待の新人を1日も早く戦力にしたい。
東雲は、どうしても今日中にバスターソードが欲しかった。
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「創真くぅーん。値段なんだけどね、もう少し下げられないかなあー?」
妖艶な視線をこちらに向けて甘い猫なで声で訴える東雲さんに、オレは目を合わせずに答えた。
「い、いくらが良いですか?」
「大臣が変わったでしょう。予算が厳しくなっちゃって。400万円でどうかしら?」
この人、いきなり600万円も下げてきやかった。でも負けるもんかっ!
「じゃ、じゃあ、800万でどうですか?」
「だーめ、400万円!」
オトナの色気を醸し出し、上目遣いにオレを見る。そして、いつの間にか胸元がはだけ、豊満な胸の谷間が目に飛び込んできた。
ゴクリッ。
オレは赤い顔で妥協する。
「で、では600万円。これが最終価格です。これ以上はまけられません!」
すると、東雲さんはシャツの第二ボタンを外し、はだけた胸を喫茶店の伝票で扇ぎだした。
パタパタパタ。「あー暑い暑い!」
目のやり場に困ったオレは、うつ向いて600万を連呼する。
「600万、600万、600万……」
すると、しびれを切らした東雲さんが、遂に本音を吐き出した。
「創真君、私の決裁権限は500万円なの! 日本刀も支給したじゃない。500万円でお願いっ!」
500万円で決着しても良いが、そうなればバスターソードの相場が500万円に固定されてしまう。ここで妥協はしたくない。
オレは500万円を突っぱねた。
「東雲さん、申し分け無いですが、これ以上の値下げは原価が割れてしまいます。600万円でお願いします」
すると、東雲さんがテーブルに乗り出してオレの耳元で囁いた。
「創真君、香織ちゃんとのキスの事は、真壁閣下には内緒にしておくから、500万円で手を打ってちょーうだい、ね!♡」
「…………はい、分かりました」
ダメ押しの殺し文句に、オレはあっさりと500万円で妥結した。いや、させられた。
さすが美人秘書、いや副官だっけ?
結局、オレの目論見は見事に砕かれ、美人秘書に軍配が上がった。しかし、なんで東雲さんはキスの事を知っていたんだろう?
疑問に思って聞いてみると、ブラフという事だった。
オレよりも一枚も二枚も上手な美人秘書。負けたのに、なぜか清々しい気持ちになっていた。
その後は、防衛省の職員が2人がかりでバスターソードを運び出し、合計600万円の伝票を渡すと、東雲さんは急いで隠れ家を出ていった。
帰り際に、浜井大臣がレールガン2号機の試射を明後日に行う事。そこに、総理も出席する事を聞かされた。
オレは、いつもの様に防衛省のツケで隠れ家のランチを食べると、ショッピングモールへ買い出しに向かった。
ワークマンでは、死霊の森で引き裂かれた衣類の補充を行い、スーパーではヤタをぎゃふんと言わせる為に、ひとくちソースカツを購入した。
家に帰ると午後の3時。異世界勉強の準備をしながらテレビをつけると、お昼のワイドショーが流れており、リポーターが桜島の中継をしていた。
「私は今、桜島口に設置されたレールガン2号機のすぐ側に来ております。ここは日本の万里の長城と言われているゴブリン防壁の左側になります。対して、防壁の右側にはレールガン1号機が設置されており、これでゴブリンを防ぐ万里の壁の左右の守りが盤石になったという事です。それでは、レールガン2号機の姿をご覧下さい」
そこに映し出された2号機は、戦車タイプになっており、1号機に比べると2回りほどコンパクトになっていた。
そして、設置されている場所は、下見に行った時に見た無名の神社の辺り。
「2号機は明日まで調整が行われ、明後日の午前に試射が行われる予定です。また、確かでは無いですが、今回は岸本総理も出席されるという噂も出ており、防衛省の自信の程が伺えます」
中継が終わると、レールガン2号機についてコメンテーターが話す。
「それにしても、ドイツ製の2号機は随分と小さくなりましたねぇ。私が調べた情報なんですが、アメリカとドイツは、北の脅威に対抗する為にレールガンを共同開発しておりました。そして、基礎理論が確立した後はそれぞれ独自に開発していたそうです。特にドイツはレオパルト3をクルップとシーメンス、ボッシュが手を組み、移動式のレールガンとして開発に成功しました。このレールガンは小回りもきくので死角は無いでしょうね」
「ありがとうございました。尚、2号機の試射が明後日に行われるとの発表を受けて、遂に政府の支持率が80%を超えました。もし岸本総理が試射会に出席する事になれば、史上最高の90%を越えるかも知れません!」
プチッ。
オレは途中から見ていられなくなり、テレビを切った。
これは、東雲さんが言ってたヤツか?
しかし、総理が出席する事は、まだ公式発表されてない様だが、オレに話して大丈夫だったのかな?
まぁ、それだけ信用されているのだろう。
だけど、GAT隊は今回も師匠を1人だけで行かせるのだろうか?
心配になって師匠にメールを送ると、いつの間にか午後の4時。そろそろ異世界へ出発する時間だ。
オレは母に書置きを残すと、転移を唱えて異世界2泊3日テスト勉強の旅へ出かけた。
【第79話 美人秘書の交渉術 完】




