第78話 バスターソードの値段
期末テスト2日目。
今日のテストは英語から始まった。しかし、思うように問題が解けない。
おそらく、今回の異世界で勉強に集中できなかったのが原因だろう。
それに、交渉スキルで脳が活性化されたとはいえ、理解していなければ能力を発揮できないという事だ。
結局、今日のテストは散々な結果に終わり、気を落して学校を出た。
「創真、そう落ち込むなって。残り2日で挽回すればいいんだよ。お前なら出来る!」
「ああ、ありがとう」
いつも元気に励ましてくれる慎吾に、オレは心から感謝した。
「それに、皆んなで気持ち良く旅行へ行きたいしなっ!」
「おいっ、そっちかよっ!」
家に着くと、ゴルフバッグにバスターソードと試作日本刀を詰め込んで、今度は隠れ家へと向かう。
「東雲さん、お待たせしました」
「創真君、なんだか浮かない顔ね。どうかしたの?」
オレが今日のテストの出来が悪かった事をツラツラ吐き出すと、東雲さんは一つ一つ頷きながら、しっかりと聞いてくれた。
そして、最後にこう言った。
「創真君、成績が悪くても防衛大学には入れるわよ。自衛隊幹部の推薦状もあるし、いつでも大歓迎よ!」
「東雲さん、あんたもかっ!」
慎吾も東雲さんも悪気は無いんだが、人の気持ちとは複雑なものだ。
「ところで創真君、新商品を見せてくれる?」
オレはバスターソードと試作日本刀をテーブルの上に置いた。すると、剣の重みで木のテーブルが軋む。そして、その凶悪な武器を見た東雲さんが目を輝かせた。
「こ、これがバスターソードなのねっ! 実物を見るのは初めてだけど、本当に素晴らしいわぁ」
興奮した東雲さんが、勇み足でバスターソードを持ち上げようとしたので、オレは待ったをかけた。
「東雲さん、その体勢でバスターソードを持つと、腰をやりますよ」
重量物の持ち上げには注意が必要だ。一般的に女性なら6キロ、男性なら12キロ以上の物を持つ時には、腰を据えて持ち上げないとギックリ腰になる可能性が高い。
ちなみにバスターソードは約8キロ。女性が不意に持てば確実に腰をやられる。
オレの忠告を受けた東雲さんは、赤い顔で体勢を立て直し、ゆっくりと持ち上げた。
「そ、想像以上に重いわね。でもあの人にはピッタリの武器だわ!」
あの人とは、どんな大男だろう? 誰が使うのか非常に興味がある。
続けて、東雲さんが試作日本刀を鞘から抜いた。
「うーん、これは今ひとつね」
東雲さんの不評は覚悟していた。しかし、予想以上に渋い顔。商売人としてはユーザーの声を聞くのも仕事の内だ。
「何が不満なんですか?」
すると、東雲さんが刃の部分を指差した。
「この刀はね、刃紋が少ないの。二流ね」
「刃紋が少ないとマズいんですか?」
東雲さんは、その理由を分かり易く教えてくれた。
「創真君はヒゲ剃りを使った事があるかな?」
「はい、たまに使いますが」
「それは何処で買ったの?」
「えーと、100円ショップです」
「そうねぇ、100円ショップに売っているヒゲ剃りは2枚刃なんだけど、ちゃんとしたお店では5枚刃が売ってるわ。値段は3倍だけど切れ味も3倍よ」
「つまり、刃が多いと切れ味が良くなるって事ですか?」
「そういう事。出雲の旅行先で本物を見てくるといいわ。刃紋の数が芸術的だから!」
前に支給してもらった日本刀を、そこまで観察してはいなかった。アウレの所で見せてもらうのも良いが、島根の旅行先で芸術品の刀をしっかり見せてもらうとしよう。
さて、ここからは新商品の価格交渉だ。特別依頼を受けた時点では、仕入値も分からないので納品時に価格を決める事になっていた。
いわゆるオープン価格である。
「そうねぇ、試作日本刀は二流だけど、魔石が2つも付いてるし、ロングソードよりは性能が良さそうね。ロングソードの2倍、100万円でどう?」
日本刀モドキは試作品だし売れるだけマシかぁ。
オレは100万円で手を打った。
「だけど創真君、これが本物なら1本300万円出すわよ。頑張ってね!」
「はい、頑張ります!」
「次は本命のバスターソードだけど、創真君はいくらで売りたいのかな?」
遂に本格的な価格交渉が始まった。ちなみに、このバスターソードの仕入値は金貨4枚で日本円にすると40万円。だけど、これは今回限りの特別価格だ。通常なら金貨10枚で仕入値は100万円になる。
かたや、ロングソードの仕入値は銀貨5枚で日本円にすると5万円。それを10倍の50万円で売っており粗利率は90%。
バスターソードを同じ粗利率で売るとしたら1本1000万円になる。しかし、粗利900万円では余りにも暴利だ。
一体いくらにすれば良いのだろうか?
「タケじい、いくらにしたらいいかなぁ?」
「創真よ、そんな難しい事を1800年前のじじいに聞くのか?」
「やっぱり分からないよね?」
「まぁ分からんでもないぞ。価格というものは、需要と供給で決まるんじゃ。需要は買う方がいくら出せるか? 供給は売る方がいくらで売りたいか? そして、双方の折り合いが付く所を相場と言うんじゃ」
「うんうん。そういう事なら、まずは1000万円から提示してみるよ」
考えがまとまったオレは東雲さんに告げた。
「東雲さん、バスターソードの価格は1000万円でどうですか?」
「ええええええええーっ、い、いっせんまんえーん???」
東雲さんの顔が見る見るうちに青ざめていった。
【第78話 バスターソードの値段 完】




