第77話 安堵の涙
レアスキル『ホーリー』を獲得したオレは、心の平安を取り戻した。
これがあれば、夜も安心して眠れる。
コンコン、コンコン。
朝食の準備ができた様だ。
オレは朝食を取りながら今日の予定を考える。まずはギルドで死霊の魔石を換金し、そのお金でアウレから試作日本刀を受け取る。その後は宿に戻ってテスト勉強だ。
あっそうそう、アウレの所では絶対にエールを飲まない様にしよう。
朝食を終えると、万が一レイスの襲撃に備えて、いつもの装備でギルドへ向かった。
ギルドに着くと換金所のカレンさんと挨拶を交わす。
「カレンさん、おはようございます」
すると、カレンさんが驚いた顔でカウンターから出てきた。
「ちょっと創真、その傷は大丈夫なのかい?」
そういえば、死霊に斬られた上着の胸元がザックリと裂けているのだった。そして、その下から、かさぶたになった生々しい刀傷が見えている。
カレンさんが、オレの傷口を確認して再び驚く。
「あれっ? 傷口がキレイに塞がっているね。教会で直してもらったのかい?」
「教会??」
「あんた、教会を知らないのかい?」
「どこにあるんですか?」
「東門の近くだよ。お金を寄付すれば大抵の傷は直してくれるんだけど、寄付額がちょっと高くてねぇ。それにしても、誰に直してもらったんだい?」
どう答えようか考えていると、ふとツクヨミの事が頭をよぎった。
「えーと、通りすがりの賢者さんに直してもらいました」
「なんだってぇぇー? この街に賢者様が来ているのかい? 今どこにいるんだい? 直ぐにギルマスへ知らせなきゃあああー」
ええっ、賢者って、そんなに凄い人だったのぉー?
軽く付いたウソが大事に成りそうなので、オレは急いで誤魔化した。
「カレンさん、残念ですが賢者さんは別の街へ行かれました」
「えっ、もうここには居ないのかい? 残念だねぇ……」
「賢者様って、そんなに偉い人なんですか?」
「そうだね、異国人の創真は知らないと思うけど10年前の事だ。この街が魔物に襲われた時に、賢者様が魔物を追い払って下さったのさ。みんな、もう一度会ってお礼がしたいのよ」
マズいな、これ以上話しが大きくなる前に、要件を済ませなきゃ。
「カ、カレンさん、換金をお願いします」
オレはそそくさと死霊の魔石50個とクエスト依頼書をカウンターに置いた。すると、カレンさんは慌てて職務に戻り、魔石を数えながら死霊の森の事を聞いてくる。
「創真、死霊の数はどうだった?」
「はい、実は…………」
オレは森の中でレイスに出くわした事を話した。すると、カレンさんが更に驚いて別の依頼書を持ってきた。
「ま、まさかっ、死霊の森にレイスがいたのかい?」
「はい、命からがら逃げてきました」
「そうかい、そうかい、よく無事に帰ってきたね。本当によかったよ」
そう言ってカレンさんが持ってきた別の依頼書にはこう書かれていた。
『死霊の森の調査依頼。依頼者、ギルマスのサリー。レイス及びリッチを見たら知らせてね。報酬は金貨4枚だよ!♡』
「へ、へえー、こういう依頼もあったのか。知ってたら絶対に行かないのにっ」
何はともあれ、追加の臨時収入も加わり、今回の戦果は金貨8枚と銀貨5枚。オレはその大金を持ってアウレの工房へ向かった。
「アウレ、お金が出来たよ」
「おお創真、駆け付け……ややっ、その傷口はどうしたんだぁ?」
カレンさんと同じ反応をされ、死霊の森での出来事を話すと、アウレは親身になって聞いてくれた。
「そうかそうかぁ、それは大変だったな。すると、50体以上の骸骨を斬ったって訳だな? ちょっと風の剣を見せてくれ」
オレが風の剣を渡すと、アウレは刀身を見てため息を付く。
「はぁー、やっぱりな。刃がボロボロで研ぎ直しが必要だ」
「どれ位かかる?」
「2日あれば十分だ」
オレはメンテナンス代込みで、金貨8枚をアウレに渡した。
「お、おい創真、こんなにもらえねえよ」
「何を言ってるんだ。あんなに試作品を作っているじゃないか。開発費だと思って受け取ってくれ」
しばし押し問答の末、ようやくアウレが折れたので、オレは風の剣を預けると、試作日本刀を貰って宿屋に戻った。
よぉーし、今からがテスト勉強の本番だ!
オレは遅れを取り戻そうと勉強に集中した。
カリカリ、カリカリ……。
「やはり、絶対的に時間が足りない。英語だけでも頑張ろう」
カリカリ、カリカリ……。
夕食を食べて、また勉強に戻る。
カリカリ、カリカリ……。
ダメだ、クラクラしてもう頭が回らない。
気が付けば既に夜の12時。オレは、これ以上の勉強を諦めて眠る事にした。
・・・・・
月曜出発、異世界勉強3泊4日の旅4日目。
チュン、チュン……。
う、うーん、体が重い。
傷が治ったとはいえ、あれだけ流した血は、そう簡単に直るものでは無い。
とにかく食べまくって回復させよう。
コンコン、コンコン。
朝食の準備ができた様だ。
オレはテストまでに少しでも回復しようと限界まで食べちぎり、バスターソードと試作日本刀を持って日本へ帰還した。
ガタンッ。
「ただいまぁー」
「おかえりなさい、創真」
あれっ、あれれっ……?
母の声を聞いた途端、なぜかポロポロと涙がこぼれ落ちた。おそらく、今回の冒険で死ぬ思いをしたからだろう。
オレはハンカチで涙を拭き取り、母のいる台所へ向かった。
【第77話 安堵の涙 完】




