第75話 あいつはヤバい!
20体の死霊を倒して体力を消耗したオレは、暫く休む事にした。
「ここで、お昼にしよう!」
その場に座り込みリュックからウマい棒と人参、自分用にはカロリーメイトを取り出して皆に配る。
「ヤタ、これを食べてみて」
サクサクサク。
「なんだこれはぁー? ものすごく、うめーじゃねえかあー!」
ウマい棒で、ヤタをぎゃふんと言わせてやったぜーい。
ボリボリボリ。
「やっぱり人参は最高でやすっ」
鴉と兎の食事を眺めながら、オレもフルーツ味のカロリーメイトを食べる。
う〜ん、味はともかく栄養価は満点だ。
しばらくして、人参を食べ終わったイナちゃんが話しかけてきた。
「旦那、キズの具合はどうでやすか?」
ブルーのお陰で止血は出来たが、まだ完全に塞がってはいない。その傷口を見て、イナちゃんがオレの首元に手をかざす。
「蒲の穂ぉぉぉー!」
傷口が更に塞がり、やがてかさぶたに変わった。
「続いてぇぇぇー、朝鮮人参!」
すると、体力が少し回復して動ける様になった。
「旦那、どうでやすか?」
「イナちゃん、だいぶ楽になったよ。ありがとう」
「良かったでやす。だけど、兎隊はもう魔力が少ないでやす。使えて後1回、どうか無茶しないでくだせぇー」
この戦いで兎隊がいなければ、間違い無く死んでいた。
オレは心から兎達に感謝した。
「創真よ、この後はどうするのじゃ? ワシは引き返した方が良いと思うが、決めるのはお主じゃ」
現在まで死霊の討伐数は21体。あと29体を倒さなければクエスト報酬が出ない。
「タケじい、あと29体を倒すまでは帰れないよっ!」
「またかあー、分かったぞい。創真の好きにすると良い。但し、無理はするでないぞ」
「ありがとうタケじい」
さすがオレの理解者。ボケ老人ではあるけれども……。
オレ達は再び森の奥へと歩みを進めた。
・・・・・
「ハァハァハァ……これで45体目っ」
バシューッ!
森の奥へ進むに連れて、遭遇する死霊の数が増えていく。
「創真、今度は前から来るぞぉーっ」
カタカタカタ……。
「オーケー」
オレは瞬歩で標的に近付くと、相手が剣を繰り出す前に首を落とす。
スパァーンッ!
序盤は苦戦していたものの、徐々に連携が取れてきて、今では鴉隊の索敵フォーメーションが機能している。
「ハァハァハァ……、これで46体。あと4つ!」
体力は限界だが残るは4体。オレは最後の力を振り絞る。
「創真様、右から3体来まーす」
「了解」
カタカタ、カタカタ、カタカタ……
「延髄斬り、延髄斬り、延髄斬りぃーっ」
スパーッ、スパーッ、スパーン!!
「ハァハァ、これで49体。あと1ーつ!」
すると、前方を索敵していたヤタが、凄い勢いでこちらへ飛んできた。
「創真、やべーヤツがいるぞっ。今すぐ逃げろおおおー!」
「えっ? な、何??」
オレが躊躇していると、周りが冷気に包まれて、みるみるうちに草木が白く凍りついていく。
「創真よ、直ぐに撤退じゃっ!」
タケじいが、いつになく真剣な顔で訴えるが、オレは……。
「あと1体……」
しかし、最後までしゃべれずに唖然となる。なぜなら、前方から白いローブをまとった赤い目の骸骨がスルスルと地面を滑りながら、こちらに向かって来たからだ。
あれは見るからにヤバそうだが……?
「旦那、アレは本当にやべえです。直ぐ逃げやしょう!」
イナちゃんがズボンを引っ張る。
「創真、あれはレイスだ。逆立ちしても勝てねえぞっ!」
ヤタが髪の毛を引っ張る。
ようやく異常事態に気付いたオレは、皆に撤退の指示を出した。
「皆んなぁ、今すぐ森の外へ逃げるぞーっ!」
しかし次の瞬間、この世のものとは思えぬ様な、暗くて低い金切り声が辺り一帯に響き渡る。
「たーまーしーい、食ーわーせーろおおおー!!」
生命を吸い取る様なひび割れ声に恐怖して、オレ達は元来た道を一目散に駆け出した。
「ひぃぃぃぃぃー、逃げろおおおーっ!」
オレ達の後ろからレイスが地面を滑りながら凄い速さで追いかけてくる。
「逃ーがーさーん!」
「ひぃぃぃぃーーっ!」
オレ達は涙と涎を垂らしながら死にものぐるいで走った。しかし、レイスとの距離がだんだんと縮まっていく。やがて、追い付かれそうになった時、イナちゃんが魔法を唱えた。
「蒲の穂ぉぉぉーっ!!」
回復魔法がカウンターでレイスの顔面に直撃し、不気味な悲鳴が森の中にこだまする。
「イギャアアアアアアアアーッ!!!」
イナちゃんの魔法で動かなくなったレイス。しかし、数秒後には動き出し、怪しげな呪文を唱え始めた。
「ダーク・アビース・ギャザリング!」
すると、オレ達の行く手を阻むかの様に、ゾンビ? スケルトン? いや、どっちでもいい者達が土の中から次々と這い出して来た。
ア、ア、アアアッー!
ウウー! ウウー! ウウウーッ!
「こ、怖えぇぇぇーー!」
地面から這い出してきた死霊はおよそ30体。その後方には森の出口が見える。しかし、森から出るには目の前に立ち塞がる多数の死霊を越えていかねばならない。
そして、後ろには迫りくるレイス。
「フォフォフォ、まさに前門の骸骨、後門のレイスじゃのう」
「冗談言ってる場合かっ。タケじい、どうするっ?」
タケじいは森の出口を指差した。
「もちろん、強行突破じゃ! 兎達よ、回復魔法を唱えるのじゃ」
「はい、スサノオ様!」
兎達は一斉に回復魔法を唱えた。
「朝ー鮮ー人ー参!!」
すると、行く手を塞ぐ死霊達の動きが止まった。
「今じゃああ、突撃ぃぃぃぃぃーっ!!」
タケじいの号令で、オレと鴉隊と兎隊は、死霊の壁の一点突破を狙う。
「うおおおおおおおおおーーーっ!!!」
もう首を狙っている余裕はない。とにかく相手を倒す事だけ考える。
骸骨に斬り込んで蹴り倒し、そこからバックラーで押し潰す。そして、勢いを止めずに又斬り込む。
骸骨が再び動き出すまでの数秒間、ここが勝負だっ!
「ハァハァハァ……最後の一体!」
バシィィーッ!
最後尾の骸骨を斬り倒し、オレはみんなに発破をかけた。
「もう少しだ。出口まで突っ走れぇぇぇぇぇーっ!!!」
オレと兎隊は最後の力を振り絞り、森の出口を目指して懸命に走る。
一足先に森を抜けた鴉隊が、オレ達に向かって叫ぶ。
「創真、こっちだぁ、走れぇぇぇーっ!」
すぐ後ろからレイスと複数の死霊が迫ってくる。
「ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ……………………」
酸素が足りない。心臓が悲鳴を上げる。もうダメだと思った刹那、一気に視界が広がった。そして、オレンジ色に眩しく輝く太陽の光が全身に降り注いだ。
「ギャャャャャァァァァァーッ!!」
オレ達を追いかけて森の外へ出てきた3体の死霊は、太陽に焼かれて灰になった。だが、レイスは森の出口手前で足を止めた。
「ゼェゼェゼェ……皆んなー無事かあー?」
「ヤタ隊は全員無事だぜー」
「イナちゃん隊は皆んないるでやすよおー」
「うおおおー、助かったんだあああー!」
「良かった、良かった、うわあああーん!」
予期せぬレイスが現れた死霊の森。そこから脱出したオレ達は、無事に生還できた喜びを互いに分かち合っていた。
【第75話 あいつはヤバい! 完】




