第73話 死霊の森
モルゴスがドワーフ水晶に黒のバスターソードをかざすと、驚くべき数値が現れた。
バスターソード黒 Lv4
攻撃 B
魔法障壁 Lv2
魔石(土) Lv2 攻撃20%UP
魔石(土) Lv2 攻撃20%UP
スキル 粉砕
攻撃力が驚きのB、おまけにスキルが粉砕。どこからどう見ても凶悪な武器だ。
「どうだソーマ、オレの可愛い子ちゃんは凄いだろう?」
モルゴスが自慢げに胸を張る。
黒のバスターソード。確かに凄いが、一体どんなヤツがこれを扱えるんだ?
「なぁモルゴス、黒色って何か意味があるのか?」
「それはなぁ、同じ魔石を使ったらどうなるか実験したら黒くなっちまったんだ。使い辛いんで安くしとくぞ」
「いくらだ?」
「金貨6枚でどうだ?」
「実験品だろ、金貨2枚」
「性能は良いんだ、金貨5枚」
「使い辛いんだろ、金貨3枚」
「分かった、金貨4枚。これ以上はまけられねえ!」
狙い通りの価格を提示され、オレはニヤリとした。
「分かった、金貨4枚でOKだ!」
今では交渉スキルが自然に発動し、原価を探る言葉が出てくる。
今回の原価計算はこうだ。
バスターソードの販売価格が金貨10枚。
卸値はモルゴスが最初に提示した金貨6枚。
限界値が金貨4枚だから、製造原価は金貨3枚でモルゴスの利益が金貨1枚という事だ。
「ワハハハ。可愛い顔して、やり手のにーちゃんだ。これからも、よろしくな!」
「ああ、よろしく!」
オレはモルゴスと握手を交わし、黒のバスターソードを手に入れた。
えっ、お金はどうするかって?
そりゃーもちろん、アウレに立て替えてもらうのさ。
バスターソードを抱えて、再びアウレの工房へ戻ったオレは、アウレに何度も謝った。
「アウレ、立て替えてもらってごめん。2日後には必ず返すから」
「創真、俺もかなり苦しいんだ。試作日本刀の鞘も2日後に完成するから、その時までには頼むよ」
アウレは顔を引き攣らせながら、笑って許してくれた。
彼には世話になりっぱなしだ。試作とはいえタダでもらう訳にはいかない。何かで恩を返さなければと思いながらアウレの工房を後にする。
今日は見学だけのつもりが、武器を衝動買いしてしまった。その為、2日後までに最低でも金貨4枚を用意しなければならない。おまけに今日は酔っている。
3日間、みっちり勉強するはずが大幅に狂ってしまった。
オレはバスターソードを宿に置くと、お金を稼ぐ為にギルドへ向かった。
「カレンさん、こんにちは」
「あらっ創真、テストは終わったのかい?」
オレはカレンさんに、商業ギルドのテスト勉強のため暫くパーティに参加出来ない旨を話していた。
「まだまだ勉強しなくちゃなんだけど、お金が必要になっちゃって、ハハハ……」
笑って誤魔化しながら1週間ぶりに掲示板を見にいくと、マップはかなりの違いを見せていた。
狩り尽くされてしまったのか、近場に魔物が殆どいない。いるのは3時間以上離れた所ばかり。おまけに遠くなるほど強い魔物が分布している。
「困ったなぁー。タケじい、どうしよう?」
「全くお主は、困ったヤツじゃのう」
オレは上を向いてベソをかく。テヘッ!
「では、明日はゴブリン討伐の予行演習をするぞえ。フォーメーションは創真がアタッカー、鴉隊は援護と索敵、兎隊は回復支援じゃ!」
「タケじい、ありがとう!」
オレはうさぎの報酬を買って宿屋に戻ると軽く昼寝をした。その後はお風呂に入り、お酒も抜けた所で勉強に取り掛かり深夜まで頑張った。
・・・・・
異世界勉強3泊4日の旅2日目。
チュン、チュン……。
う、うーん。
昨夜は深夜まで勉強したせいで身体が重いが、アウレの借金を返さなきゃいけないので休む訳にはいかない。
オレは朝食を終えると宿屋を出発した。
今日の目的地は北西へ3時間行った所にある死霊の森。不安なオレは、タケじいに何度も確かめる。
「タケじい、大丈夫かなぁ?」
「なんじゃ創真、もしかして怖いのか?」
オレは小さい頃から、おばけの類が大嫌いだった。なぜなら、夏になると必ず流れる心霊番組を母が好んで見ていたからだ。
いかんせん狭いアパート、部屋の中まで悲鳴が聞こえ、この時だけは母が嫌いだった。
「ああ、寒気がするよ。出来れば帰りたい」
「カッカッカッ! この暑い夏にちょうど良いではないか」
遠く離れた魔物の分布で、弱い魔物は効率が悪い。かといって、強い魔物はリスクが高い。ちょうど良いのが、今から向かう死霊の森だった。
タケじいの理屈だけど……。
3時間歩いて森の手前に到着すると、鬱蒼とした森は静けさに包まれて気味が悪い。
「タ、タケじい、やっぱり帰ろうか?」
「ずべこべ言わずに、早く召喚するのじゃ」
オレはしぶしぶ鴉隊と兎隊を召喚する。
「ヤタ隊召喚!」
「イナちゃん隊召喚!」
今では、鴉と兎の配下も少数なら召喚が出来る様になっていた。
「久しぶりだなぁー、創真」
「御無沙汰しとりやす、創真の旦那」
「ヤタにイナちゃん、元気だった?」
転移の丘での親睦会で、オレ達はすっかり打ち解けている。しかし、死霊の森を見た途端、2匹の顔から血の気が引いていった。
「おい創真、まさかここに入るのか?」
「イナちゃんは用事を思い出したんだぜぇー」
ヤタとイナちゃん、その部下2匹も震えて帰りたそうな顔をしている。
「オレも帰りたいよぉー!」
すると、後ろ向きな発言をしているオレ達にタケじいの喝が入った。
「バカモン! 逃げるヤツは、ワシの鉄拳が待っておるぞえ」
オレと召喚獣達は帰るに帰れず、不気味な死霊の森を眺めて途方に暮れたのであった。
【第73話 死霊の森 完】




