第67話 鹿児島グルメ
繁華街の料理屋で、オレは鹿児島グルメコースを堪能している。
最初に出てきたのは、きびなごの刺身、きびなごの天ぷら、きびなごの串焼き、どれも鹿児島の美味しい郷土料理だ。それに魔王が加わると、皮肉な事に美味しさが倍増する。
「憎ったらしい異世界の魔王なんて、飲み干してやるぞぉぉぉー!」
独り言を呟きながら魔王のロックを飲んでいると、いつの間にか魔王に酔わされていた。
オレは強い魔王との戦いを諦め、水割りの弱い魔王にグラスを変えた。
それからコース料理が順に出され、定番のさつま揚げを食べた後には、遂にメインデッシュの黒豚しゃぶしゃぶが登場する。
皿に並ぶスライスされた黒豚は、脂が乗っててとても美味そう。
やがて、しゃぶ鍋が沸騰すると、オレは黒豚をサッと湯搔き、玉子を溶いたタレに付けて食べた。
「ううーん、美味ぃぃー!」
時たま野菜を投入して、ぽん酢で食べる。
「うーん、これは普通」
オレは気の向くまま、黒豚しゃぶしゃぶを堪能した。
ああー黒豚、母さんにも食べさせてやりたいなあー!
オレは、必ず母を鹿児島に連れてくると心に誓った。
コースの最後は白くま君。アイスバーでしか食べた事はなかったが、本場の白くま君は、色とりどりの寒天やフルーツがのった、ちょっと贅沢なかき氷。食事の後には、お口がサッパリしてちょうど良い。
どれも、鹿児島らしい美味しい料理であった。
料理屋を出ると、繁華街には結構な人が出歩いていた。おそらく、明日のレールガン試射に向けて、政府やマスコミ関係者が、鹿児島の街に前泊しているのだろう。
オレは千鳥足でホテルへ向かうと、気になるお店を発見した。
『鹿児島ラーメン豚とろ!』
名前が食欲をそそる。それに、千里眼を使ったオレは未だ腹八分。
迷わず店に入ると、店内はかなり賑わっており、美味しい店の雰囲気を醸し出していた。
店員おすすめの豚とろチャーシューを注文して、しばらく待って出てきたのが、くりーむ色の濃厚スープに、とろける豚とろが浮かんだ美味そうなラーメン。
コレは絶対に美味いヤツだ!
まずはスープを味見する。
ううーん、くりーみーで濃厚。
次は麺を豚とろに絡めて食べる。
「なっ、なんだコレはーっ!?」
濃厚スープと豚とろが麺に絡みつき、何とも言えないヤミつきの味。オレはあっと言う間に食べてしまった。
その後はホテルに戻り、2度目のシャワーを浴びると、明日に備えて早めの眠りについた。
・・・・・
ピピ、ピピ……。
う、うーん。
携帯の目覚ましで目が覚める。
朝食は朝の6時半から。オレは出発の準備を済ませて1階のレストランへ移動した。
「おおーぅ、ここもバイキング」
オレは朝食をたらふく食べると、タクシーで鴨池港へ向かう。しばらくして到着した港の船着き場には、フェリーに乗り込もうとする浜井大臣と、それを取り囲む大勢の報道陣でごった返していた。
「浜井大臣、今日のレールガンは大丈夫ですか?」
「大臣、今日の意気込みを聞かせて下さい」
「大臣! 大臣!! 大臣!!!」
浜井大臣は、自信に満ちた顔で報道陣に答えている。
「皆さん、今日は我が国最強の武器、レールガンの勇姿を特とご覧になって下さい!」
ワァー! ワァー! ワァァー!!
「浜井大臣、頑張って下さい!」
「大臣、期待してます!」
「大臣! 大臣!! 大臣!!!」
報道陣から大歓声が沸き上がり、満面の笑みを浮かべた浜井大臣は、皆に手を振ってフェリーに乗り込んでいった。
「あれが、香織が言ってたバカ大臣か?」
見るからに、金と権力を崇拝する政治屋の顔をしている。そして、その大臣を乗せたフェリーが海原に消えるまで、バカな報道陣は歓声を上げながら、いつまでも見送っていた。
次の出港は30分後。試射イベントの需要に対応して、今日の便は通常運行に戻っており、オレはチケットを買って次の船に乗り込んだ。
すると、船の中は報道陣で大混雑。みんな大臣を追いかけてレールガンを見に行くのだろう。
オレは座る所がないので看板に出た。
今日も良い天気で海風が気持ちいい。
船が水しぶきを上げて進む中、雄大な桜島を眺めながら昨日下見した地形を考える。
今日の任務は、陰ながら人々を守る事。
レールガンの護衛をするつもりはないが、まあ成り行き次第で守る事もあるかもしれない。
オレは頭の中で何度もシミュレーションを繰り返した。
やがて船が垂水港に着くと、桜さんが車から降りて待っていた。
「おーい、大和くーん」
いつの間にか仲良くなった桜さん。下の名前を思い出すと笑いが込み上げてくるが、そこはグッとこらえて挨拶を交わす。
「桜さん、おはようございます」
「大和君、待っちょったぜ」
周りを見ると、報道陣の数に対してタクシーが圧倒的に足りていない。桜さんは他の客をスルーして待っててくれた様だ。
オレが桜さんに感謝してタクシーに乗り込むと、桜さんが後ろを向いてニヤリと笑った。
「大和君、君は報道関係では無いんじゃろう?」
「えっ?」
「隠すなって、誰にも言わねーからさぁー。あんた実は、トム・クルーズみたいなスパイじゃろ?」
「そんな訳……」
まあ、当たらずとも遠からず、似たようなもんかぁー。
オレは言葉を選んで言い直した。
「実は、政府筋の者です。内緒ですよ」
「ひぁぁー、やっぱりかぁ! 絶対に誰にも言わないよっ」
桜さんは、初めて体験する映画の様な世界に触れて大喜びをしていた。
【第67話 鹿児島グルメ 完】




